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業界展望台

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高品質・高効率物流をサポートするフォークリフト

9月30日(水曜日)付 日刊工業新聞 22面〜23面

 フォークリフトの世界市場は約100万台。物流センター、工場や倉庫など、空港の荷役や搬送などの面から物流システムを支え、効率化や高度化のカギとなる重要な産業車両だ。堅調な内需と中国や東南アジアなど新興国で需要の増加に支えられ、2014年(暦年ベース)の国内生産額は前年比6.4%増の2340億円となり、3年ぶりの増加。輸出も4年ぶりの増加になった。ユーザーニーズの多様化に伴って、環境性能向上や、稼働状況の見える化機能を搭載するなど、次世代フォークリフトが開発されてきている。

■1〜7月の国内販売、5.8%増の4万6653台

 フォークリフトは動力で「電気式(バッテリー式)」「内燃機関式(エンジン式)」「エンジン・ハイブリッド式」「キャパシタ・ハイブリッド式」に分類される。エンジン式ではさらに「ガソリン車」「ディーゼル車」などに分類されている。フォークリフトが利用されるのは倉庫や工場内といった屋内が多い。排ガスによる労働環境の汚染、貨物への悪影響を削減するため、「バッテリー式」が普及、拡大している。

 日本産業車両協会(JIVA)がまとめた15年1〜7月のフォークリフト生産実績(速報値)は前年同期比0.4%増の6万7965台。内訳はバッテリー式が同4.2%増の2万9913台、エンジン式が同2.4%減の3万8052台だった。

 国内販売台数は同5.8%増の4万6653台。このうちバッテリー式が同6.1%増の2万5010台、エンジン式が同5.5%増の2万1643台。バッテリー式とエンジン式の割合はバッテリー式が全体の53.6%と、過半数を占めている。

 一方、輸出は同9.3%減の2万473台。このうちバッテリー式は同3.3%増の5108台、エンジン式は同12.8%減の1万5365台だった。

 国内と輸出を合わせた販売実績では同0.7%増の6万7126台。内訳はバッテリー式が同5.6%増の3万118台、エンジンン式が同3%減の3万7008台だった。

 14年11月、経済産業省は「自動車産業戦略2014」を発表した。同戦略は「日本再興戦略」改訂を踏まえ、自動車産業が中長期的に直面するであろう課題を整理分析し、構築された総合的戦略だ。次世代自動車の普及促進をはじめとする先進的な国内市場構築や自動車産業のグローバル展開の推進などからなる。フォークリフトをはじめとする産業車両の業界団体であるJIVAは経産省自動車課による指導の下、この戦略における「トラック・フォークリフト・運搬車両機器戦略」の策定で業界の意見や要望を反映させることができたようだ。

 「自動車産業戦略2014」では物流システムを社会インフラの重要な構成要素と位置付け、維持・発展させていくため、トラック・フォークリフト・運搬車両機器の国内における事業基盤の維持・強化という方向性などを打ち出している。

 施策として挙げられたのは、(1)トラックなどに対するイメージの向上(2)次世代車代替促進活動(3)物流分野の標準化促進(4)物流効率化・高度化(5)海外展開―の五つ。その中でフォークリフト関連ではフォークリフト・運搬車両機器の役割の再認識や付加価値向上(作業の高度化、安全向上、環境負荷低減など)を提案するほか、次世代燃料電池式フォークリフトの導入促進や、国内のみならずアジアなども視野に入れた標準化(製品・資材、安全基準、点検制度、免許など)といった施策を挙げている。

フォークリフト販売実績

■次世代車両戦略を推進

 15年6月、JIVAは通常総会を開催。任期満了に伴う役員の改選を行い、志岐彰ユニキャリアホールディングス(HD)社長が会長に選任された。志岐会長は就任のあいさつで安全に関する日本ブランド、環境に関する日本ブランドを確立していくことを目標に掲げた。

 また、JIVAは15年度の事業計画を発表した。14年度に策定された次世代の産業車両(フォークリフト)産業戦略に基づいたものである。フォークリフト業界の基盤強化のための事業として、「業界の基盤強化及び社会的地位の向上のための事業」「国際交流・グローバル化推進のための事業」「環境対応推進のための事業」「安全向上推進のための事業」に取り組んでいくとしている。

 「業界の基盤強化及び社会的地位の向上のための事業」では政府に対して、産業車両の開発や普及促進に関わる支援制度や規制緩和、産業車両に対する課税の明確化などの要望を行っていくほか、新エネルギーやロボティックス、情報通信技術(ICT)を活用した新製品・技術についてを関係省庁に紹介し、施策に取り入れてもらうべく働きかけも行うとしている。

 「国際交流・グローバル化推進のための事業」では政府の各国・地域との経済連携協定交渉について、産業車両の関税撤廃を要求していくほか、各国・地域の安全や環境の基準にのっとった製品の適正な輸出促進のため、日本からの正規輸出車であることを示す会員向け新車証明ラベルの頒布を継続推進していくなど、日本メーカーのフォークリフトが世界市場で活躍するため、取り組んでいくという。

 一方、「環境対応推進のための事業」ではこれまでに引き続き、環境負荷低減・省エネルギーに貢献する次世代産業車両の定義を明確化させ、今後の普及目標の検討・策定していくことや、環境自主行動計画の推進、排ガス規制への対応推進などを挙げている。「安全向上推進のための事業」では国際標準化の推進や国内標準化の推進、機械安全、リスクアセスメントへの対応強化などを挙げている。

■環境、安全、標準化… 燃料電池車 普及へ

 中でも注目すべきポイントは“標準化”。次世代フォークリフトと呼ばれる燃料電池フォークリフトの実用化に向けた取り組みだろう。日本電機工業会(JEMA)の産業車両用燃料電池システムの国際標準化事業に参加し、性能試験方法の原案作成審議に協力し続けるほか、国内標準ではJIS規格原案作成への協力なども行っていく。

 燃料電池フォークリフトは水素と酸素の化学反応で発電された電力を利用する。従来のバッテリーフォークリフトと同様の性能でありながら、二酸化炭素(CO2)排出量の削減、鉛バッテリー使用のフォークリフトで必要なスペアバッテリーやバッテリー置き場などのスペースが不要であること、水素の補給時間が鉛バッテリーの交換時間と比較して短いといった特徴がある。環境負荷の低減に貢献できるだけでなく、運用・保守コストも低減できるということもあって、実用化が待たれている。

 燃料電池フォークリフトは15年2月から17年3月末まで、関西国際空港の国際貨物地区で実証実験が行われる。豊田自動織機は新関西国際空港が進める“スマート愛ランド構想”の柱の一つである「水素グリッドプロジェクト」に参画しており、空港施設で行われる大規模な水素エネルギー導入の実証実験を通じて、燃料電池フォークリフトの実用化・普及に向けた開発を進めている。

 日本のフォークリフトはその優れた性能で世界市場から高い評価を得ている。その結果、日本のフォークリフトメーカーの売り上げの合計は世界全体のメーカー売り上げの約35%を占めており、国別ではトップのシェアとなっている。

 国内フォークリフトメーカーは再編が進んできた。15年7月、三菱重工業とニチユ三菱フォークリフトはフォークリフト大手のユニキャリアホールディングス(HD)の買収を発表。これまで世界シェアのトップは豊田自動織機、世界2位はドイツのキオン、3位はドイツのユングハインリッヒ、以下、米国メーカーのハイスターエール、クラウンと続いていた。しかしニチユ三菱フォークリフトとユニキャリアが統合することで、世界3位のシェアを持つ日本メーカーが誕生することになる。

 高い技術力によって開発される日本メーカー各社製フォークリフトは世界市場における日本ブランドはますます高まるだろう。

■事故防止・スピードアップ−1.5トンクラスが活躍

 フォークリフトは物流・建設現場などで最も多く使われている搬送機器の一つ。そのため、保守点検を怠ったことや、不適切な方法による使用、操作ミスなどによる労働災害や事故、荷物の破損事故などの発生は少なくない。

 業界団体ではユーザーに対して、労働安全衛生法に基づくフォークリフトの特定自主検査制度の実施促進を図っているほか、安全作業の確立と労働災害防止に対する意識を高めるために実施されている「全国フォークリフト運転競技大会」に協力するなどの取り組みを行っている。また、メーカー側では法令に準じた安全運転講習加えて、独自のプログラムも用意し、事故防止に向けた活動を実施している。

 一方、ユーザーサイドも事故防止と物流のスピードアップ、効率化などを進めている。成田国際空港で国際流の拠点となる上屋(うわや)サービスを提供している国際空港上屋。空港内にある同社の輸入上屋では最大荷重3トンクラス、同1.5トンクラスのフォークリフトが合わせて100台以上、稼働している。

 東京税関が7月に発表した速報によれば、成田国際空港の15年1―6月における貨物の総取扱量は前年同期比2.3%増の101万9381トンで、そのうち輸入量は36万5864トンだった。増加する貨物のハンドリングを安全かつスピーディーに搬送する必要がある。

 1.5トンクラスのフォークの爪は3トンクラスより短いので、先端部の視認性に優れる。事故防止という観点から、輸入上屋では現在、1.5トンクラスをメーンに稼働させているという。国際空港上屋総務部総務課の木内誠課長は「荷物の引き渡しはスピードが命。安全性を考慮した上でリードタイムの短縮を図っていきたい」と語る。

 物流のスピードを向上させるだけでなく、フォークリフトによる事故を防止していくための取り組みが業界団体、メーカー各社、ユーザーによって行われている。

 

有力企業の製品・技術<順不同>

パイオニア風力機

 パイオニア風力機の「リフト車輪クリーナー」はスロープと洗浄ブラシを組み合わせた製品で、フォークリフトに乗ったまま通過するだけでタイヤの汚れが取れる。車輪がスロープに乗ると自動でスイッチが入り、集塵機が起動する。洗浄ブラシが高速移動し、タイヤ接地面の異物を掻(か)き落とす。同時に特殊吸引ダンパーが開き、異物を集塵する。通過後、リフトは自動停止する。またクリーンルーム入口用エアシャワー「クリーンルームダスター」や、靴底の汚れを瞬時に除去する「エアー吸着マット」などの環境製品もそろえている。

ニチユ三菱フォークリフト

 ニチユ三菱フォークリフトは主力のリーチ型バッテリーフォークリフト「プラッター」を全面刷新し、2015年から発売している。全27機種のプラッターは運輸や倉庫、食品、化学関連など向けで幅広く使われる。滑りやすい路面で安全走行が可能なアンチスリップ制御を標準装備している。エコスイッチも新たに加え、電力消費は従来比で約15%低減する。

 一方、ディーゼルエンジン式フォークリフト「グリンディア」も9月から5機種投入。排ガス規制14年基準適合の新型エンジンを搭載し、燃費は同社従来比20.4%向上した。 

豊田自動織機

 豊田自動織機は2014年7月、最新のクリーンディーゼルエンジンを搭載した1.5〜8.0トン積みエンジンフォークリフト新型「ジェネオ」を発売した。15年7月には、同エンジンを搭載した小型特殊自動車(小特車)(1.5〜3.0トン積み)仕様を発売し、新型ジェネオシリーズの全ラインアップが「国内特定特殊自動車排出ガス規制2014年基準」に適合した。新型ジェネオシリーズは世界トップクラスの低燃費、低排出ガスを実現。また作業者の安全確保や操作性の向上などより高いレベルの性能、機能を追求した最新モデルだ。

白光機器

 白光機器の「デジタル荷重計 ロードセンサー」はフォークリフト、ショベルローダー用に開発された後付けが可能な荷重計。積載量400キログラムクラスの小型車両から同40トンクラスの大型車両まで取り付けられる。高精度圧力センサーを備え、車両の油圧低下などに対して荷重を補正でき載せ替えも可能。

 同製品には個々の荷物を計測する標準的なタイプ「DLSN」と過積載防止など荷役作業に必要な積算機能を搭載する「DLST」があり、プリンター装着によりデータも管理できる。精度が必要な用途にはロードセルを使用した荷重計も用意した。

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