|
千野: |
01年度の赤字転落から業績を急回復させ、その後は快調そのものですね。二度と会社を赤字にしないという覚悟が伝わってきます。 |
|
もちろん赤字のこともありますが、07年に設立50周年を迎えることが好業績には大きく影響しています。50年は会社にとって大変な区切りの一つです。この節目を迎えるにあたり、しっかりとした基盤を構築し、第二の創業として次の世代にバトンタッチしなければいけません。その意識が業績に上手くつながっていると思います。一つ一つの事業を確実に成長させ、売上高営業利益率10%を達成することが目下の最大の目標です。利益率は企業の安定性を計るバロメーターだと思っています。 |
千野:
|
樫尾社長は兄弟でカシオ計算機を設立した時の一人ですが、創業の夢や意気込みなどは50年経ってどう変化しましたか。 |
|
時代とともにいろいろ変わってきましたが、いま考えているのは「21世紀の企業はどうあるべきか」ということです。私は20世紀は、過去の財産を引きずっていた時代だと思います。しかし21世紀は古くなってしまったこれらの遺産を捨てて、新しい財産を築いていく時代だと思います。 |
千野:
|
カシオにとって、20世紀に持っていた古い財産とは何でしょうか。 |
|
それは、シェア至上主義だと思います。過去は利益を犠牲にしてでもマーケットシェアを獲得することに注力していた時期もあります。でも今後はシェアだけを求めるのではなく、事業ごとに利益をアップさせることが必要になってきています。シェアだけ求めて事業展開する時代は去りました。 |
千野:
|
そのような20世紀型の企業は淘汰されそうですね。 |
|
その財産だけを引きずっていくようではダメですね。やはり利益が必要です。シェアが獲れても利益が出せなければ決して事業は安定しません。 |
|
例えば開発担当者が売れる商品を企画したとしても、それだけではダメです。原価率を落とすことが同時に必要になる。ここで重要になってくるのが設計を担当するエンジニアです。原価低減は昔は資材関係の部署が中心となった仕事でしたが、カシオ計算機ではエンジニアの仕事になっています。部品点数を減らすなど設計段階からコストを意識しないといけません。また、いくら原価を落としても商品自体の価格が下落すれば意味がなくなる。価格が落ちないようにするには商品に価値がなければいけない。その価値を生み出すことがエンジニアの最大の仕事であることは言うまでもありません。 |
|
これは私がある時期、資材部門を直接担当してみて実感しました。資材からコスト削減を始めても効果は小さいです。今はエンジニアが原価を下げるのです。 |
千野:
|
利益を産み出すモノづくりを確立できたのですね。 |
|
一つの事業だけではなく、原価率や経費比率を下げて企業全体で利益率を向上できるようになりました。 |
千野:
|
利益率をあげるには事業ごとのバランスも重要になってきます。 |
|
確かにすべての条件がそろわないと10%には届きません。例えば時計や電子辞書といった基盤事業は利益率がすでに高いです。これは市場競争で勝ち残った分野ですから高いのも当然で、新商品を出すたびに原価率を下げてきました。価格下落を避けるように商品の付加価値も高めてきました。それらの積み重ねの結果が今の高い利益率の維持につながっているのだと思います。 |
千野:
|
デジタルカメラや携帯電話などは競争が非常に激しい分野ですね。デジタルカメラは撤退するメーカーも出ています。 |
|
そうですね。この分野はまさに勝ち残り競争の真っ最中です。差別化を図るために、いかに商品に付加価値を持たせられるかが勝負になっています。デジタルカメラだって単に薄くするだけではダメで、薄くすることでどんな価値があるのかを提案できなければ仕方ない。いずれにしても技術面で先行していなければ勝ち残れません。携帯電話でもカシオ計算機はページャーの時代から市場に参入し、PHSも手がけてきた積み重ねがあります。さらにカメラや防水・耐衝撃技術など得意な技術を投入してきたからこそ今日まで勝ち残ってこれたのだと思います。 |
千野:
|
21世紀型の企業として将来を支える次世代技術などの進ちょく状況はいかがですか。 |
|
カシオ計算機として次の商品は何かといつも考えています。いたずらに取り組んでもムダが多くなるだけで、莫大な研究開発経費もかかります。時にはやめる決断も必要です。今後は会社としてのテーマをもっと明確にさせなければいけないと思っています。 |
千野:
|
それらを判断する基準を設けるのも難しそうですね。 |
|
だからこそ重要になるのが、企業の過去の経験値から生まれる「読み」です。ある商品が売れるかどうかは、作ってから実際に売ってみないとわからないと反論されることもありますが、それをやる前に分かるのが経営だと思っています。失敗してから分かっても何にも意味がない。予測技術が大事です。これは非常に難しいことですが、社員にも予測技術を身につけろといつも言っています。やってみなければ分からないなんて野蛮そのものでしかない。経験は最大のノウハウですから、これを分析すれば必ず予測はできるはずです。 |
千野:
|
経験を生かしてどう先を読むかが企業としても求められます。 |
|
企業はもちろん、大袈裟に言えば人類の進化だって予測技術で成り立っています。予測は学校教育に導入されてもよいくらい重要な技術だと思います。経験は誰でもしているが、難易度の高い経験をして初めてそれはノウハウになる。例えば当社はコンパクトデジタルカメラで初の1000万画素の製品を出しました。これがなぜ売れたのかを分析すれば次の製品展開の予測につながります。このような予測を会社全体で常に考えるようにしています。 |
千野:
|
今後は若い世代に経験を積ませることも大事になってきますね。 |
|
同じ経験をさせても意味がありませんから、我々のした経験を教えながらも、さらに新しい経験をしてほしいです。私は自分のことを既成概念がゼロの人間だと思っています。常に今ほど悪い時はないと考えており、だからこそ同じことはしない。次の一手を変えていかないと悪い状況が変わることがない。常に心配があるから企業は新しいモノを誕生させることができるのだと思います。当社も新しい事業として燃料電池なども研究しています。まだ研究段階で難易度も非常に高いものですが、モバイル機器を手がける当社だからこそ実際に搭載可能な燃料電池も作れると思います。価値があるか、ニーズがあるかを予測して始めた分野ですから、ぜひ良い結果を実らせたいと思っています。 |
千野:
|
次の50年に向けて、CSR(企業の社会的責任)の代表企業になるという目標も掲げていますね。 |
|
CSRはカシオ計算機にとって重要な課題の一つです。企業は社会に貢献することが義務だと思いますし、その精神を広めていくことも大事です。自分だけがいいなんて会社は今後は成り立たない。みんなが幸せになるというCSRの本質を社会全体でもっと考えてもらいたい。カシオ計算機にとっては、それはいい商品を創って提供していくことだと思います。 |
千野:
|
豊富な経験から予測が生まれ、それを製品展開にいかしていく。これを徹底しているだけに、今後も投入する商品は楽しみなモノばかりになりそうですね。 |
|
これからも、世の中をあっと言わせるような商品を送り出していきますよ。ご期待ください。 |
千野:
|
今後のご活躍を期待しております。本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。 |
|
|
|
|