業界展望台
確実・安全につなぐコネクター
4月23日(木曜日)付 日刊工業新聞 19面〜21面
機器同士や配線間を接続するために利用される電子部品の一つがコネクター。その最大の特徴は簡単で安全に繰り返し着脱できるということ。スマートフォンやタブレット端末(携帯型情報端末)の普及拡大で小型・薄型化に対応した高速・多機能対応コネクターが登場している。また、安全性や快適性、環境性能の向上から電子化が進む車載向けでは高速・大容量のデータ伝送性能を持つコネクターや高電圧対応の小型コネクターなどが開発されており、自動車技術の進化に貢献している。
【グローバル出荷好調−車載、スマホ向けなどけん引】
コネクターは接続するものが電線(ケーブル)なのか基板なのか、またケーブルの場合にはその種類や本数、大きさ、形状、使用環境や使用目的、接続方法などで、多くの種類に分類することができる。一般的な分類は接続の組み合わせで「ケーブルとケーブル」「ケーブルと回路基板」「ケーブルと電気部品」「回路基板と回路基板」の四つに大きく分けることができる。
一方、経済産業省や電子情報技術産業協会(JEITA)ではコネクターを形状や用途で分類している。通信用同軸ケーブルなどの接続に利用する「同軸コネクター」、機器内の基板と基板、基板と電線などの接続に利用する「プリント基板用コネクター」、サーボやセンサー、アクチュエーターなどファクトリーオートメーション(FA)機器の接続に利用されることが多い「丸形コネクター」、産業機械からパソコンにいたるまで幅広い用途で利用される「角形コネクター」、光ファイバーを利用した高速通信ネットワークで利用される「光コネクター」、それ以外をまとめた「その他のコネクター」としている。
2014年度のコネクター市場は自動車の制御機構におけるエレクトロニクス化進展や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、スマートフォンやタブレット端末などが普及拡大していることを背景に国内外、どちらも好調だったようだ。
JEITAは毎月、「電子部品グローバル出荷統計」でコネクターの出荷統計を発表している。ここで見ると、日系メーカーによるコネクターの国内外出荷は好調だ。14年4月から15年1月までの累計で前年同期比7%増の4812億円となっている。また、3月に発表された月別出荷金額で15年1月は前年同月比17%増の498億円。14年度は8月にプラスマイナスゼロだったものの、4月から15年1月まで、前年比増を達成してきている。
【安定供給体制 確立へ−工場自動化や海外拠点構築】
15年3月に発表された経済産業省生産動態統計の15年1月分確報によれば、1月のコネクター全体の生産個数の実績は前年同月比25.8%増の25億1626万4000個で、生産金額の実績は同7.0%増の299億3600万円となっている。コネクター市場で最も大きいボリュームを持つプリント基板用コネクターは同28.2%増の14億6173万8000個で、生産金額は同6.1%増の187億5900万円だった。
15年2月の生産量速報値は前月比0.2%増の20億7878万1000個。例年、2、3月は前月比で微増あるいは増加という傾向にあるため、15年3月についても同様の傾向が見込まれる。
コネクターメーカー各社は車載やスマートフォンといった市場の需要増や新市場開拓に向けて、さらには為替の円安にも対応させるため、国内外双方の生産体制を強化し、製品を安定的に供給している。SMKでは中国の労務費が上がっていることから、スマートフォン向けを生産する中国の工場における自動化を推進。京セラコネクタプロダクツもグローバルに拡大する部品需要に対応して、14年12月にベトナムで生産拠点を開業させた。また、本多通信工業ではFA機器など産業機器向けコネクターの生産で長野県安曇野市の松本工場で自動化を推進。ロボットの多能工化も進めるという。車載用コネクターではタイに販売子会社、ラオスでは生産委託も視野にASEAN市場での事業基盤を固めていく。
メーカー各社は製品の安定供給というグローバル市場からのニーズにも応えている。
自動車の電子化、スマホ小型化・薄型化に対応
【車載向け部品−開発スピード加速】
安全性や快適性の向上、環境負荷の低減を目指し、自動車のエレクトロニクス化が進んでいる。車両の各部に取り付けられたセンサーが感知、計測したデータを電子制御ユニット(ECU)に送り込み、ECUから制御命令を出す。内燃機関で駆動力を得ている車両では燃焼状態をセンサーとECUで制御し、燃料噴射の制御を行っている。また、最近、導入が拡大している衝突回避や衝突時の被害軽減に貢献している自動ブレーキシステムもセンサーとECUによって制御されている。
一方、二酸化炭素(CO2)排出量の削減を目指して、内燃機関から電気モーターへと駆動源を置き換える動きも加速している。街の中で日産のリーフや三菱自動車のアイミーブなどの電気自動車(EV)を見かける機会も多くなってきた。
車両の電子制御機構でカギとなっているのが「つなぐ」ことで、データやエネルギーを伝送する役割を果たしている車載コネクターだ。自動車が使用される環境は厳しい。振動や引っ張りといった外部からの衝撃などに加え、下はマイナス40度Cから、上は140度Cに達するような激しい温度変化、塵やほこりなどに対しても、高い耐久性が必要とされる。イリソ電子工業やケルなど、コネクターメーカー各社は嵌合(かんごう)状態で数ミリメートルの前後左右に可動することによって、車両の振動や衝撃をある程度、吸収できる基板対基板のフローティングコネクターを発売している。
車載情報通信ネットワーク内で伝送されるデータ量を増大する一方であり、高速性も求められるようになってきたことから、現在の車載コネクターは強度や堅牢(けんろう)さ、耐久性などのほかに高速・大容量の伝送性能を持つようになっている。
一方、EVやハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)などで利用される車載コネクターでは車両の各種情報に加えて、駆動源の電気モーターへ高電圧・大電流といったエネルギーを伝送する。エネルギー伝送に利用される車載コネクターで技術開発のテーマになっているのは小型化。
EVやHVなどをより一層、普及させるためには1回の充電で走行できる距離の延長がカギとなる。車両メーカー各社では各部の軽量化や部品点数の削減に取り組んでいる。コネクターメーカーでも高電圧対応、防塵対策や防水対策、さらには激しい温度変化への対応するため大型化していたサイズを縮小するための開発を行っている。
車載コネクターはスマートフォンやタブレット端末(携帯型情報端末)向けと並び、需要が急速に拡大している。今後さらなる成長が見込まれる分野であることから、メーカー各社は車載向けの技術開発に力を入れている。
【スマホやタブレット向け−「USBタイプC」に動き】
パソコンやスマートフォン、タブレット端末向けの市場ではユニバーサルシリアルバス(USB)の新形状「USBタイプC」対応コネクターに動きがでてくるだろうといわれている。
2015年4月にアップルが発売した「新しいMacBook」の筐体にある拡張端子は「USBタイプC」ポートが一つあるだけ。このポートはUSB2.0の約20倍の速度で、理論値が1秒当たり5ギガビットのデータ転送、最大5アンぺアの給電、DisplayPort、VGA、HDMIといった映像・音声関連出力を兼用するポートであるということで話題となった。
USBタイプCの規格策定は米国のアップルやデル、インテル、グーグル、台湾のフォックスコン、日本からは半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスやローム、コネクターメーカーの日本航空電子工業などが参加して行い、14年8月に仕様などが発表されていた。
アップルのほかにも、グーグルオリジナルブランドでOSにChrome OSを搭載したノートパソコン「Google Chromebook Pixel」、MSIのマザーボードなどでも、USBタイプCポートの採用が進んでいる。
USBタイプC最大の特徴はリバーシブル仕様、つまり裏表がないということである。ユーザーはコネクターを挿す向きを意識することなく、利用できるため、使いやすさは大幅に向上する。また、小型であることも特徴。ポートサイズは既存のUSBマイクロBとほぼ同サイズの幅8.4ミリメートル、高さ2.6ミリメートル。
スマートフォンやタブレット端末やノートパソコンなどは小型・薄型・軽量化に伴い、部品が実装できる空間は縮小の一途を辿(たど)っており、内蔵部品のコネクターにも同様の進化が求められている。内部実装用コネクターでは小型・狭ピッチ・超ロープロファイル(低背)化、多ピン化などにより、基板占有面積の減らす取り組みが進んでいる。
今後、外部機器と接続するポート数の削減、ポートサイズの小型・薄型化に対応するUSBタイプC関連のコネクター需要拡大が見込まれる。
【有力企業の製品・技術<順不同>】
■イリソ電子工業
イリソ電子工業は自動車用を中心に多様なコネクター製品を開発・製造・販売している。車載分野で培った技術を産業用機械、スマートグリッド(次世代電力網)、医療機器などの産業向けから、情報通信、映像機器などコンシューマー向けまで幅広く展開。高い信頼性を確保する2点接触で、フローティングティング技術の粋を集めた可動BtoBコネクター、デジタル信号の高速伝送が可能で独自の抜け防止構造「AUTO I−LOCK」を採用したFPC/FFCコネクターなどをリリースしている。
開発体制も万全で国内生産体制も堅持。独自スペックで対応するカスタムメードも急増中。米国、欧州、中国各社に加えベトナム工場、インド駐在員事務所など国際拠点も拡充。ワールドワイドな事業展開も注目だ。
■京セラコネクタプロダクツ
京セラコネクタプロダクツは自動車用の新製品開発に注力。カーナビなどの情報通信系に加え、走行安全系へと製品バリエーションを拡大している。京セラグループ全体でシナジー効果を追求した車載プロジェクトにも参画。受注拡大を目指す。
自動車市場は高接触信頼性への要求が高い。同社は高耐熱製品や振動に耐える堅牢(けんろう)製品をラインアップ。また、車内伝送の画像処理速度の高速化に伴ったインターフェースの「V−by−One HS」や「CalDriCon」の対応製品など、新技術をサポートする製品も取りそろえる。カーナビや料金自動収受システム(ETC)車載器などアフターパーツを接続する分岐コネクターは、従来品の銅電線タイプに加え、アルミ電線タイプを追加した。車両軽量化で低燃費を実現し、エコに貢献する製品だ。
■ケル
ケルは次世代製品が求める軽・薄・短・小、高速伝送に対し、最先端のコネクションテクノロジーを追求している。的確で素早い研究開発(R&D)活動、差別化製品や技術応用により優れた製品を提供する。工業、車載、画像、医療、遊技などを注力市場に、新製品投入や製品バリエーション拡充を加速する。
同社は新製品の高速伝送対応0.5ミリメートルピッチフローティングコネクター「DTシリーズ」を発表。小型フローティングコネクターという機能的製品だが、SATA規格相当の高速シリアル信号伝送が可能。伝送特性はSATA Rev3.0の要求規格を満たす。フローティング量はXY方向にプラスマイナス0.5ミリメートル。プラグ、レセプタクル共に、ストレート/ライトアングルに対応。スタック、水平、垂直の3次元実装にも対応している。
■SMK
SMKは「小型・薄型」「高速伝送」「環境貢献」をキーワードに新製品開発に取り組む。スマートフォンやウエアラブル端末などの小型携帯機器向けバッテリー接続用フレキシブルプリント基板(FPC)対基板コネクターは高電流と低背、省スペースを実現。ナノSIMカード用コネクターは、業界最低背レベルの実装高さ1.15ミリメートルを実現。機器の小型・薄型化に貢献する。そのほか直径3.5ミリメートルのイヤホン用防水ジャックを拡販。
また、車載向け高速データ通信用HSD(High Speed Data)コネクター、環境市場向けに太陽電池モジュール用コネクター(UL規格取得1000ボルト対応)、発光ダイオード(LED)照明用コネクターなども開発。製品レパートリーを拡充し、さらなる提案を目指す。
■本多通信工業
本多通信工業は通信装置や産業機器向けに強みを持つ。多品種少量生産が特徴だ。少量の注文を1週間で届ける「1weekデリバリー」やネット販売サイト「HTK AZ SHOP」などのサービスも手がける。
同社はSDカードの最新規格「UHS−II」対応ソケットを開発。オンリーワンである従来品の両面金属シェルの特徴“堅牢(けんろう)性・長期信頼性”を継承・進化させた。ハイエンドパソコンやデジタルカメラ、監視カメラなどに搭載が進んでいる。
ほかにも、産業機器向けに小型・堅牢を誇るI/Oコネクター「HDRシリーズ」、屈曲性と嵌合強度が必要な監視カメラなどに最適の極細線用同軸コネクター「LVXシリーズ」、車内ネットワーク向けロック付きUSBコネクター「TAKシリーズ」など、特徴ある商品を供給している。
■モレックス
モレックスの耐振動性2ミリメートルピッチ電線対基板コネクター「DuraClik」は高い省スペース性と高性能の機能を備えている。耐振設計で100ニュートン(10重量キログラム)の上方向引抜力に耐えることができる設計になっている。高振動用途においてプリント回路基板を確実に保持することができる。
また、独自のポジティブインナーロック機構によって、音でも確認できる確実な嵌合(かんごう)、省スペース化、配線の絡まりによるラッチ破損などを防止することができるなどの特徴を持っている。
同社はストレートタイプをラインアップに加え、さらに多極への展開やワイヤ保持強化の機能などの製品バリエーションを拡張することで、ユーザーからのさまざまな要望、仕様に対応していくという。
■河野エレクトロニクス
河野エレクトロニクスはコネクター専門商社として、従来の日本モレックス、スリーエムジャパン、日本航空電子工業の3社にヒロセ電機、イリソ電子工業を加え、中堅中小企業向け販売から研究開発、試作用などの小口や1個販売まで、幅広い需要に対応している。
スリーエムジャパンのテープ・接着剤の販売も始めた。同社は商品本部(大阪府寝屋川市)の常備在庫を増強して即日配達、小口販売、ネット販売体制を更に強化する。
ネット販売の「kohnoオンラインショップ」は月平均1万件を超すアクセスがある。販売目的だけではなく、新規顧客の開拓や売れ筋をつかむアンテナショップとしての活用も進んでいる。4月1日に仙台営業所を開設。東北での市場開拓を強化し、地域密着営業を主要都市で展開していく。
■ホシデン
ホシデンはさまざまな市場に向け、多種多様なコネクターを提供している。特に近年は車載市場向けに注力しており、車載用AUXボックスの開発を積極的に進めている。
AUXボックスはカーナビ機器などに音楽プーレーヤーやスマートフォンなどの携帯機器やメモリカードを接続するためのコネクター・ユニット。構成は全てユーザーの要望に合わせ、USB・HDMIレセプタクルとSDカードスロット・アナログオーディオ用小型ジャックなどを配置し、USB給電・過電流保護機能付きコントローラーなどを内蔵する。
現在、一部の自動車メーカに直接納入を始めている。一方でインターネット関連のIT企業もスマートフォンと自動車との連携サービスを発表するなど、AUXボックスの需要が高まっている。
■日本航空電子工業
日本航空電子工業は携帯機器市場、自動車市場事業、産業機器・インフラ機器市場を三本柱と位置付け、積極的にコネクター事業を展開している。
同社は次世代USB規格「Type−C」に対応した「DX07シリーズ」を開発した。「Type−C」はスマートフォン、各種パソコン、映像機器向けに使用されるI/Oコネクターの規格。毎秒最大10ギガビットの高速伝送、最大5アンぺアの大電流供給、プラグの表裏方向を気にせずに挿抜可能なリバーシブル嵌合(かんごう)など、将来の標準I/Oとして期待されている。
また、同社はUSB標準化団体のUSB−IFを通じて「Type−C」コネクターの規格化に参画したメーカーであり、プラグ、レセクタプル、ハーネスを含めたトータルパッケージを積極的に展開中である。
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