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業界展望台

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進化を続ける ファインブランキング加工

5月26日(火曜日)付 日刊工業新聞 26面

昭和精工社長 木田成人

 経済産業省の機械統計によると2014年の日本の金型業界は、生産高3500億円を超え徐々に回復傾向にあるが、リーマン・ショックによる世界同時不況前となる08年の4400億円にはまだ遠く及ばない。このような状況の中、4月に金型メーカーの顧客となる金属プレス加工メーカーが多く出展したINTERMOLDの会場で、各社のキャッチフレーズを調べてみると「破断なき精密打ち抜き」「抜きダレ最少」「増肉・減肉」というファインブランキングに関係する言葉を多く見かけた。そこで注目されるファインブランキング加工の技術動向について解説する。

■静水圧効果利用し精密加工

 ファインブランキング(FB、精密打ち抜き)プレス成形は、他の工法では例を見ない静水圧効果を利用し、金属の塑性変形能を高めることにより板材を精密にせん断することを目的に開発された工法である。その後、この静水圧効果の応用により、エンボス、半抜き、バーリング、座ぐり、面取り、つぶしなどを随所に取り入れた複合加工が大半を占めるようになり、FBプレスもそれに伴い進化を続けている。

 FBプレスは静水圧効果を発生させるため逆押さえと板押さえ圧力を加えながら成形するので、パンチ、板押さえ、逆押さえなどがそれぞれ単独に制御できる3軸の力が必要になる。高精度な製品を成形するために、プレスは溶接一体構造で、入念な焼鈍処理(焼きなまし)を施しフレームは剛性が高く造られているいる。

 構造は駆動機構が下部にあるアンダードライブ方式なので、フレームの伸びが大きいとプレス時の上死点精度がバラついて安定した製品精度を得ることができない。また成形時に伸びたフレームが打ち抜き完了と同時に瞬時にもとへ戻ろうとするため、ブレークスルー現象を起こし、ダイやパンチの破損を引き起こす可能性が高まる。金型取り付け部周りの受圧部およびピン関係もSKD11など高硬度、高靱性の素材を使用して変形量をできるだけ抑えるように考慮されている。

 近年のFBプレス成形では、順送り金型を用いた複合加工が大半を占めるようになった。この場合、荷重が不釣り合いになり偏心荷重が発生することが多い(図1)。この偏心荷重を金型の剛性のみで防ぐことは不可能なので、偏心荷重対策を施したプレスが販売されている。

 一般にプレスで重視する点は、テーブル面の真直度、上下テーブルの平行度、ラムの上下運動における真直性と上テーブルに対する直角度などで、これらの精度は日本工業規格(JIS)特級以上のレベルで製作されている。

 このほかに重要なのが、繰り返し上死点精度である。FB金型のパンチとダイのクリアランスは極めて小さいため、パンチがダイに突っ込むようなブレークスルーは許されない。なおかつ、成形時の上死点設定は0・01ミリメートル単位で行うので、繰り返し上死点精度がバラつくと、打ち抜き不良やブレークスルーによる金型の摩耗やチッピングなどの不具合が生じる(図2)。

 これまでの順送り加工では、スケルトンにあけたパイロット穴を利用して工程間の材料搬送(キャリー)の役目を果たし、送り長さの位置決めを行ってきたが、キャリアは材料の無駄であり、パイロットピンによる位置決めの微小なズレは製品精度のバラつきの原因となっていた。また従来のFBプレスでは、限られた大きさのインサートリングという受圧部の範囲で半抜き、面取り、コイニング、曲げ加工などの異なった全ての成形を同時に、しかも同一の速度で行うため、大きなプレスが必要であった。

 最近実用が始まった高剛性の多軸サーボプレス(ワンショットフォーミング)の場合には、上下に複数の圧力の発生源を組み込んだ構造で素材は1カ所にとどまって成形部位ごとに適した圧力と速度でワンストロークの中でタイミングをずらして成形する。製品の同芯度が高まり、材料歩留まりが改善され、従来よりも成形荷重を著しく低減できるため、設備投資額の低減も可能になるのが特徴的である。

 この高剛性多軸プレス機は、上下に複数の圧力の発生源を組み込んだ構造で、材料を移動させずに少ない工程で成形部位ごとに適した圧力と速度でタイミングをずらして成形する。従来よりも成形荷重を少なくでき、設備費用が低減できることが特徴である。

■市場開拓進む

 FB技術の歴史をみると、1922年にスイスで開発されている。タービンのブレードを切断する仕事を担当したスイス人のフリッツ・シーツ氏が職場にあったプレス機を改造しFB技術の開発に取り組み、試行錯誤の末、多くの人手を使わなくても平滑な切り口をワンストロークで得ることに成功。引き続き同じプレス機を使ってタービンブレードの組み付け部を冷間鍛造で増肉した。そのFB技術が日本へ上陸してから半世紀が経過しようとしている。

 この間にはミシンや時計、カメラなどの精密機構部品から自動車部品へと用途が広がり、さらに医療や航空宇宙、建設機械などの新たな産業分野への市場開拓も進んできている。FBで加工する材料や求められる強度や精度も従来の考え方だけでは対応できなくなってきている。

 優れたFB成形加工を実現するために、プレスと金型だけでなく、シミュレーションや被加工材、加工油剤、周辺装置メーカーなどが緊密に連携することによってさらなる技術革新が進むことが期待されている。

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