このページの本文へ

業界展望台

このエントリーをはてなブックマークに追加

未利用エネルギーを有効活用する バイナリ―発電

7月16日(木曜日)付 日刊工業新聞 8面

 捨てられている温水や工場廃熱などから新たなエネルギーを生み出すバイナリー発電に注目が集まっている。初期投資が小さく、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)や電気事業法省令改正による規制緩和などで導入機運が高まっており、装置メーカー各社の技術開発も加速。地熱発電の裾野を広げるといわれる温泉バイナリー発電などの拡大が期待される。

【排熱・排温水を再利用−システム受注本格化】

■事業化へ道

 バイナリー発電とは100度C未満の工場排水や温泉などの熱エネルギーを利用し、沸点の低い媒体を蒸発させてタービン発電機を作動させる。熱源系統と作動媒体系統という二つの熱サイクルを持つことから、バイナリーと命名された。

 規制緩和により一定条件を満たせばボイラータービン主任技術者の選任や届け出、定期検査などが不要になるなど発電事業としての道が大きく開けた。これに伴い、IHIや神戸製鋼所などメーカー各社が受注活動を本格化している。

 総合マーケティングビジネスの富士経済によると、需要先は産業施設、地熱発電所、温泉地である。産業施設の主な導入先はごみ焼却場、製鉄所、大型の炉を所有する工場。潜在需要が多いという。発電機器の国内市場規模は2013年の約4億円から、20年には46億円へと膨らむ見通しだ。

 13年度に新規参入したIHI。ターボチャージャーや産業用コンプレッサーなど高度な回転機械技術を応用したバイナリー発電装置「ヒートリカバリー(最大送電端発電出力20キロワット)」を投入し、わずか2年で受注は倍増。商用電源に接続できる系統連系機能を標準装備したほか、夏場でも安定発電する強みなどが顧客に受け入れられた。40台以上の受注実績があり、約半分が温泉向けという。

 初号機は福島ミドリ安全(福島県郡山市)が林野庁から受託した「平成25年度木質バイオマスエネルギーを活用したモデル地域づくり推進事業」において木質バイオマスボイラーと小型バイナリー発電装置を組み合わせた地域熱電供給プロジェクトとして採用が決定され、安定稼働を続けている。温泉発電用としての初号機は七味温泉ホテル(長野県上高井郡)向けの受注で、こちらも稼働中だ。

 三機工業はゴミ焼却施設の建設・運営事業の補完として、バイナリー発電設備の納入・据え付けを開始。焼却炉の廃熱を有効利用するため、既存廃熱回収ノウハウを生かした高効率発電を提案する。

 第1号顧客の旭硝子京浜工場(横浜市鶴見区)には、米国企業製の125キロワットの発電設備を納入した。今秋以降、第2号顧客の大分県湯布院の温泉旅館に納入した設備が稼働する。今後もゴミ焼却施設や地熱発電向けに提案する。

バイナリ―発電のしくみ

 

■地熱・温泉で

 第一実業は14年4月に米国アクセスエナジーから小型バイナリー発電装置の日本国内における独占的製造権と東南アジア地域における装置販売権を取得した。磁気軸受を採用した高効率な熱回収システムが強み。15年度中に国内生産を始める計画だ。

 第一実業には九州地区を中心に地熱、温泉発電案件で多くの引き合いがあり、大分県別府市では500キロワットのバイナリー発電所が稼働中だ。15年4月時点で焼却プラント向けに合計7台(うち稼働台数6台)、地熱・温泉向けに16台(同5台)を受注している。

 神戸製鋼所は世界初の半密閉型スクリュータービン方式を採用した簡易型バイナリー発電装置「マイクロバイナリー」を商品化。作動媒体や潤滑油が漏れない構造により、長期の安定運転が可能だ。発売以降、温泉など再生可能エネルギーの活用や工場排温水の再利用などの用途向けで受注、引き合いが多い。

 また、従来大部分が利用されていなかった船舶のエンジンから排出される熱を熱源としてバイナリー発電機で発電し、その電力を船舶の動力の補助電源などに活用する技術開発を進めているほか、東芝と共同で環境省の補助事業として建設を進めていた風力・太陽熱・バイオマスを熱源とするバイナリー発電システム「南あわじ太陽熱バイナリ発電試験所」での実証試験を実施した。

■地域と共生

 日本は世界3位の地熱資源量を誇る。天候に左右されず、24時間安定的に発電できる地熱発電は、ベースロード電源として有力だ。ポテンシャルは大きいものの、大規模な地熱発電所の建設には調査、開発で10年以上を要し、地域との折り合いなど解決すべき課題は多い。

 経済産業省は地熱開発理解促進関連事業支援補助金を付けて、地域との共生を図り、熱資源の開発促進に意欲をみせている。

 既存の温泉井戸などを活用した中・小規模の地熱バイナリー発電は入り口といえる。大手バイナリー発電装置メーカー担当者が「問い合わせは何百、何千にも及ぶ」と明かすように、普及期にあるのは間違いない。エンジニアリング力やサービス体制、安全・安定性などがメーカーの差別化要素になるだろう。

IHI

 IHIは2013年、最大送電端発電出力20キロワットの小型バイナリー発電装置を発売。工場・焼却炉・温泉・木質バイオマスなど数多くの納入実績がある。バイナリー発電に必要な付帯設備までをトータルエンジニアリングし、システムとして納入するスキッドタイプを開発。これにより現地での工期短縮や最適運転を可能とした。
同製品は20キロワットの小型タイプで、これまで捨てていた少量の温水・蒸気などの熱エネルギーを有効利用できる。電力会社の送電網に接続可能な系統連系機能(低圧)を標準装備することで別置きの系統連系盤の設置が不要。同社ターボ技術の粋が込められた新開発のタービン発電機を搭載し、小型・高効率化を実現した。

おすすめコンテンツ一覧

業界展望台

業界展望台

11月1日は「計量記念日」―経済活動の根幹に計量法

職場なでしこ

職場なでしこ

日本公庫・台東区産振事業団、女性フォーラム初開催

彩々新製品

彩々新製品

個性発信・話題の商品/スガイワールド―変装ペン

元気印中小企業

元気印中小企業

車体塗装からマーキングまで関連3事業で相乗効果 [デサン]

工業用地分譲情報

工業用地分譲情報

集積進む「神戸医療産業都市」−ポートアイランド

スマートグリッド

スマートグリッド

竹中工務店、稼働中ビルをクラウド化−複数建物にシステム導入視野

地域応援隊

地域応援隊

技術力で時代を先導する―埼玉西部地区企業

産業広告

産業広告

中小企業から大手企業まで、多彩な産業広告をカテゴリー別に毎日紹介

Twitter

日刊工業新聞BusinessLine(Nikkan_BizLine)