業界展望台
ダイヤモンド・cBN工具
7月17日(金曜日)付 日刊工業新聞 18面〜19面
地球上に存在する天然資源の中で最も硬いダイヤモンド。古くからその強度特性や耐摩耗性などの特徴からさまざまな物質の加工工具として使われている。また人工的に作られたダイヤモンド結晶構造材料を素材とする立方晶窒化ホウ素(cBN)工具は、熱化学的な安定性の面ではダイヤモンドより優れ、研削、研磨加工などで活躍している。自動車、電子・半導体、産業機械、建築など多岐にわたる分野の切る・削る・磨くなどの工程でダイヤモンド工具やcBN工具は縁の下でなくてはならない存在だ。ここでは改めて、これら工具の基礎情報や使われ方について注目してみる。
難削材・高精度加工に
素材と用途
ダイヤモンド工具の素材は大きく二つに分けられる。その一つの天然ダイヤモンドは、生成条件、産出地域などが限られる原石で、装飾品などに使われないものが工業用となる。ワイヤや電線などを加工する伸線用の工具であるダイス、旋盤などの切削工具であるバイト、研削砥石(といし)の目直しや形直しに使われるドレッサーなどに加工される。
もう一つが合成ダイヤモンド。用途に合わせ最適な特性を作りだせ、量産が可能である。ドリルの刃、鋸(のこぎり)、研磨材などに使用される。特に硬くて脆(もろ)い材料などでは加工度合いをコントロールする必要があるため、合成ダイヤモンドによる工具が活躍する。近年では新興国で宝飾品需要が爆発的に増えたため天然ダイヤモンドは入手しにくく、工業用としては合成ダイヤモンドが多くを占めるようになっている。
cBN工具はホウ素や窒素からなるダイヤモンド結晶構造材料を使用したもので、cubic Boron Nitrideの頭文字をとっている。合成ダイヤモンドと同様に高温・高圧下で、ダイヤモンドに次ぐ硬度の素材に合成された素材だ。ダイヤモンドと比べ鉄との反応性が低く、耐熱性や機械的強度に強いといった特徴があるため、広く鉄系素材の加工などに用いられる。
合成ダイヤモンドの微結晶を金属やセラミックスなどの結合材と一緒に高温・高圧で焼き固めたものが多結晶焼結ダイヤモンド(PCD)。極めて強度に優れ、硬いため切削工具の先端部分に取り付ける刃物などとして使われる。非鉄金属、複合材の高精度切削などでは欠かせない。同様にcBNの微結晶を結合材と焼結したものがPcBNで、高温時の変形や摩耗に非常に強いため焼き入れ鋼など難削材の加工に用いられる。
広がる活躍フィールド
高付加価値製品を開発
数十年前までさかのぼると国内のダイヤモンド工具市場は、製造業だけでなく石材加工や建築での需要が多かった。石材用では墓石や庭石の加工用でよく使われていたが、そのほとんどが加工費や人件費の安いアジアで加工を行い、輸入するスタイルに変わった。また公共工事が削減されるなどで、石材や建築加工用ダイヤモンド工具のメーカーや加工業者は減少した。
しかしダイヤモンド工具が必要とされる分野は広がっている。自動車部品ではエンジンの基幹部品の研削や切削、ガラスの面取りなど、半導体製造工程においてはインゴットをスライスして研削するウエハー製造工程からデバイス製造工程までさまざまな場面で使われる。
近年、世界中で普及が進んだスマートフォン一つをみても本体の加工からタッチパネル部やガラスパネル、内部の半導体基板など各要素部品の加工で使われる。省エネ時代のキーデバイスとして期待されるパワー半導体用素材である炭化ケイ素(SiC)のスライスなどにも必要だ。
ダイヤモンド工具の総合メーカーである旭ダイヤモンド工業の製品群の中で近年、最も売り上げを伸ばしているのが、太陽電池用シリコンウエハーのスライス向け電着ダイヤモンドワイヤ。ピアノ線にダイヤモンド砥粒(とりゅう)を特殊な処理で固定化させたもので固定砥粒方式といわれる。
従来、普及してきた方式と比べ製品価格は高いが、硬脆(こうぜい)材料であるシリコンのスライス時間の短縮が可能。また切りしろや加工歪みの低減、水性切削液を使用するためスラリー不要になることによる環境負荷低減、切りくずの再利用が可能になるなどさまざまな特徴を持つ。アジアの太陽電池工場を中心に引き合いが強く、対応のため三重工場と千葉第二工場で増産をしている。同製品だけで2016年3月期の売上高は前年同期比4%増の110億円を見込む。
ダイヤモンド工具業界ではこうした付加価値の高い製品の開発により、時代に合わせた新たなダイヤモンド工具市場を切り開いていくことが期待されている。
新産業での需要に期待
最近のダイヤモンド工具市場全体の生産動向をみてみる。経済産業省の生産動態統計調査の機械統計では、14年(1〜12月)の国内ダイヤモンド工具生産額は前年比13.1%増の694億2300万円、cBN工具も同13.5%増の240億7600万円。合わせて935億円規模の市場となっている。これらの構成の多くを占める研削ホイール、切削工具などを中心に設備投資が活発な機械や自動車関連での需要が拡大した。
15年の動向がわかるのはこれからとなるが工作機械関連が好調に推移していることから比較的、堅調な推移が期待されている(図)。また財務省の貿易統計では14年の輸出額が前年比22.2%増の472億円となっており、国内生産品が多くの海外工場で使われていることがわかる。
リーマン・ショック後の急激な落ち込みからの脱出をようやく果たしつつあるダイヤモンド工具業界。工具メーカーが加盟する団体のダイヤモンド工業協会でも「航空機産業などの拡大に注目して勉強会を開催しているほか、今後はオリンピックや東北エリアでの復興需要など建設関連需要の動きにも期待したい」(武藤隆事務局長)という。省エネや安全、超精密といった、時代が求める産業では、ダイヤモンドやcBN工具の役割はますます重要になるとみられ、それに合わせて、メーカーの製品開発と市場開拓が続けられている。
有力企業の製品・技術 <順不同>
■ノリタケカンパニーリミテド
ノリタケカンパニーリミテドは国内最大規模の研削、研磨の総合メーカーとして、研削砥石(といし)やダイヤモンド・cBN工具、研磨布紙など多岐にわたる研削研磨製品をさまざまな製造業に提供している。
近年では超耐熱鋼に対して研削焼けの抑制と、形状維持性を向上させたビト均質ポーラス砥石「ノンクロッティ」をはじめ、航空機材料の穴あけや切削工具向けにドレスが容易で長寿命なダイヤホイール「ドレスレスメタル」などの製品を相次いで開発し、市場のニーズに応えている。
■旭ダイヤモンド工業
旭ダイヤモンド工業の電着ダイヤモンドワイヤ「EcoMEP(エコメップ)」は、高張力ワイヤに特殊技術で、ダイヤモンド砥粒(とりゅう)を電着した細径長尺ワイヤである。従来の遊離砥粒に比べ、シリコンやサファイアなど、硬脆(こうぜい)材料のスライス加工時間を短縮できるほか、切りしろや加工歪みが低減され、歩留まり向上が期待できる。
水溶性切削液を使用、切りくずの回収や再資源化が行え、トータルなコスト低減を図れる地球環境に優しい製品である。
■エービーイーダイヤモンド
エービーイーダイヤモンドは創業以来、ダイヤモンドブレード、ポリッシャー、ドライブブレード、ヒューム管ビット、コアビットなど多種多様なダイヤモンド工具を広範な業界に向け製造・販売している。さらに最近では耐火れんが向けダイヤモンドブレードの製造・販売に参入した。多品種少量生産などの製造依頼に応え、顧客個々のニーズに合致するきめ細かなサービス、技術対応や問題解決を実現している。高品質なダイヤモンド工具製品群を安定供給。「切る」「あける」「磨く」の三つに関するどんな問題も引き受ける。
■豊田バンモップス
豊田バンモップスは新ビトリファイドcBNホイール「タフプレミアムVi」を開発した。
革新的な高強度結合剤および分散技術により、寿命と切れ味の両面で大幅な性能向上を実現した。ホイールの寿命を従来比2倍に延長し、切れ味では研削動力を20%低減させた。工作物1本当たりの加工コストを、大きく減少させることで顧客の期待に応える革新ホイールであり、市場で多くの実績を上げている。エンジニアリング力を武器にし、同製品で市場拡大を目指す。
■住友電気工業
住友電気工業の焼き入れ鋼加工用コーテッドスミボロンBNCシリーズに新材種が登場した。「BNC2010」は新開発の特殊多層コーティングを採用。面粗度や寸法精度が要求される仕上げ加工に最適。スミボロン「ワンユースワイパーチップWG型/WH型」と組み合わせることで優れた面粗度を長時間維持。「BNC2020」は焼き入れ鋼全般の加工に対応した汎用材種で、窒化チタンアルミ(TiAIN)系コーティング膜の界面に特殊密着層を付加し、コーティングの耐剥離性を向上。長寿命化を実現する。
■日本ダイヤモンド
日本ダイヤモンドは新メタルボンド超砥粒(とりゅう)ホイール「グランメタル」を開発・展開している。砥粒を固着するボンド(結合材)のメタルに特殊なフィラー(鉱物性微粉末)を配合し、成形・焼結することで、従来のレジンボンドホイールの切れ味を維持しながらメタルボンドホイールの長寿命を兼ね備えた研削性能を持つ。
重研削など厳しい加工条件でも高送りが可能となり、高い加工効率を実現。超硬工具やサーメット材種、ハイス加工などに最適。
■兼房
兼房は国内でトップシェアを誇る工業用機械刃物の専門メーカー。中でもダイヤモンド刃物は非鉄金属系、樹脂系、木質系、窯業系の材料の切削で高い評価を得ている。
特に加工精度の高さを求められるダイヤモンド工具の設計においては、技術者が直接顧客のもとへ出向き、工程短縮や刃具コスト低減などを提案して問題点を解決する。
また多刃ダイヤフェースミルは多刃仕様により、アルミ合金の平面フライス加工の高速、高能率加工を実現している。
■京浜工業所
京浜工業所は自動車部品などの生産に使う研削砥石(といし)やダイヤモンド工具を開発・製造している。「切る」「削る」「磨く」を追求し、開発力を武器に顧客の信頼を獲得している。開発の一環として、これまで車業界向けが多かった製品ラインアップを見直し、電機業界向けに精度を従来の10倍程度に高めた超精密ダイヤモンドバイトを開発した。この技術は液晶パネル内部の樹脂シートの生産工程で活用され、液晶パネルの消費電力コスト削減に役立つことが期待される。同社は来年創業80周年、設立75周年を迎える。
■片桐製作所
片桐製作所の「STRAX(シュトラックス)」の「BTホイール」は、新開発の「BTボンド」により形状を維持しつつ研削抵抗が少ない理想的な研削加工を実現。CNC工具研削盤による超硬エンドミルやボールエンドミルなどの加工用として使用でき、高送り(従来比2倍)のフルート溝加工が可能。高硬度鋼旋削用インサートチップ「VELTIO(ベルティオ)」はHRC63のハイス鋼など高硬度鋼旋削加工に効果を発揮。自社開発の高硬度高靱(じん)性材種Ft05を採用し、刃先摩耗を軽減させながら刃先欠損を抑制する。
■神谷機工
神谷機工は丸鋸、機械刃物の製造・販売を手がけている。鉄鋼や食品、フィルム向けのチップソー、丸ナイフなど、幅広いラインアップをそろえる。大量受注はもちろん、小径から大径までサイズも柔軟に対応。対象物を実際に使った試切削や再研磨、コーティングも行う。
最近では環境対策やコスト面での厳しい要求に対応した”切り粉を最小限に抑える刃物“や、素材リサイクルのための粉砕・破砕用刃物が高い評価を得ている。
■ニートレックス
ニートレックスは遊離砥粒(とりゅう)の加工分野において、固定砥粒化することで大幅に加工能率をアップした新ディスク型ダイヤモンドホイール「ラティス」を開発した。
同製品は特殊セラミックス上にダイヤモンド層を格子状に配列させる。これにより、加工時に特殊セラミックスのドレス効果で切れ味が持続し、さらに格子状配列によるエッジ効果で切れ味が向上する。超硬や多結晶焼結ダイヤモンド(PCD)、セラミックスなどの減厚加工で優れた成果を示している。
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