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業界展望台

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多様なニーズに技術力で応える 工作油剤・クーラント

7月21日(火曜日)付 日刊工業新聞 16面〜17面

 工作油剤は潤滑油や切削油のほか防錆油、熱処理油など機能別に多様な製品が開発され、切削や圧延、引き抜き、プレス、鍛造など金属加工分野で広く採用されている。クーラントは冷却を主目的に研削や研磨工程の潤滑および防錆、切りくず付着防止などの用途で効用を発揮する。工作油剤の普及はモノづくりの進化を促し機械産業の発展を支えてきた。さらに市場ニーズは工作機械の性能向上目的や加工素材の軽量・高硬度化対応など多様化が進む。油剤メーカーは品質や付加価値の向上とともに製品の長寿命化および環境負荷低減を開発テーマに採用域の拡大を図っている。

■潤滑と冷却

 工作油剤は多種多様な金属加工における潤滑と冷却を基本機能に開発された油剤。完成した機械や器物の機能維持に使用するタービン油などの機械潤滑油とは区別される。また工作油剤には金属加工向けに鉱物油(ベースオイル)を主成分とする水に溶けない不水溶性工作油と、加工時の発熱を抑えるためにベースオイルおよび各種添加剤を水で希釈した水溶性工作油がある。

 その特性は工具表面に分子膜を形成し加工対象物(ワーク)との摩擦を軽減、工具の摩耗を抑えることで加工効率を向上させる。形成された分子膜は加工時の癒着を防止するため、切削工具の構成刃物の抑制やプレス加工時のワークと金型の分離などにも採用されてきた。

■採用が拡大

 仕上げ面の良好さや潤滑性能を重視した結果、これまでは油成分の性能を生かした不水溶性油剤が広く採用されてきた。ただ昨今は油成分の流出やオイルミストの発生などによる作業環境の悪化が課題となる一方、効率的な加工ニーズから加工速度を追求する傾向が強まってきた。そのため工具やワークの加工熱上昇への対策が急務となり、切削加工を中心として冷却性能に優れた水溶性油剤の採用が拡大していった。

 現状では水溶性油剤の潤滑性能が飛躍的に向上。微生物の発生や使用期間の短さなどの課題を克服した多様な製品が登場している。こうした製品開発が作業環境の改善に加え、油剤使用量削減による加工コストの低減化にも寄与している。

 水溶性への転換とともに環境性を重視したテーマが工作油の塩素フリー化だ。現状、含有不可欠な分野の製品を除き、国産工作油商品群の大半が脱塩素系製品として高い環境性能を実証している。さらに近年、新たな発がん性物質が規制対象となるなど使用材料の選定に厳しさが増す。メーカーは納入先の規制要求に対し、コスト高な代替材料開発といった新たな課題に直面している。

【多地域で生産活動展開】

 工作油剤の2014年度国内生産量は25万5000キロリットルの実績。13年度の25万4861キロリットルから微増横ばい推移となった。ここ数年、リーマン・ショック以降の需要減や長引く円高基調、ユーザーの海外シフト要因などから国内需要は低迷。10年度の27万8940キロリットルをピークに漸減傾向を示していた。ただ好転する足もとの景況感や活況な輸出などを材料に、生産減少傾向は踊り場を迎えている。

■海外生産は堅調

 一方、堅調なのは海外生産。工作油剤の製造・販売会社34社で構成する全国工作油剤工業組合(東京都中央区)では加盟各社の海外展開動向を3年ごとに調査している。
現状では10を超える中国の生産拠点を筆頭にタイやマレーシア、米国、メキシコ、ブラジルなど多地域で生産活動が展開されている。

 現地では自動車メーカーなどの海外生産シフトにより機械加工に伴う工作油剤の需要が拡大。現地投入する工作機械は精度向上著しく、機械の性能発揮には実績のある日本製工作油剤を求める声が強い。油剤メーカーは原料を現地調達する効率的対応とともに高品位な製品開発を進めている。

 昨今、円安基調から生産拠点国内回帰が話題に上るが、底堅い現地需要を背景に工作油剤メーカーの海外シフトは当面続きそうだ。

 メーカーは製品を輸出する際、国際法規制の順守および徹底した性能表示が求められる。現状、化学物質を扱うには労働安全衛生法および日本工業規格(JIS)記載項目に準じた化学物質等安全データシート(MSDS)の添付が義務づけられている。また危険有害性については化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)に基づく分類と内容記載が必要になる。

■新たな問題

 この表示義務が工作油業界にとって新たな問題として注視されている。表示は輸出先の労働者へ周知させるため対象国の母国語使用が条件とされ、頻繁に変更される各国特有の制度や規制条件などの動向、知識の習得も必要になる。

 こうした習得作業やラベル印刷に充てるコスト増は価格転嫁が困難な国内中堅メーカーにとって悩ましき課題といえる。

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