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業界展望台

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インフラ守り、安心・安全な社会を築く 重防食塗装

8月5日(水曜日)付 日刊工業新聞 08面

■老朽化対応が急務

 防錆・防食性を長期間維持できる塗料を厚く塗り、構造物の長寿命化を図る重防食塗装。インフラをはじめ橋梁や送電鉄塔、石油・化学プラントなど幅広い建築物の耐候性を高め、社会の安全と安心を維持する不可欠な技術だ。高度成長期の建設ラッシュで造られた道路橋などは現在、ストック量が膨大であり、一様に老朽化が進んでいる。そのため補修・補強が急務となっており、塗り替えニーズは今後も続くとみられる。

 社会インフラの多くを成り立たせている強靭(きょうじん)な鋼は絶えず風や雨、寒暖差など厳しい自然環境にさらされているためサビという厄介者が常につきまとう。サビから鋼を守り、強度と耐久性をできるだけ長く維持しようとするのが、重防食塗装の役割だ。

 このところクローズアップされているインフラ老朽化問題に対しては特に大きな関わりを持つ技術である。重防食塗装がどれだけの機能を発揮できるかが、ライフサイクルコスト(LCC)削減という経済的な要請と、ストック型社会の構築という中長期的なテーマの実現を左右するといってもよいだろう。

 しかしながら近年、課題となっている大規模な橋梁の防錆・防食対策は、その多くが手つかずのままか、着手して間もない段階のようだ。背景には、腐食問題が注目されるようになったのは最近のことであり、対応できる技術開発が進んでいないという状況がある。防錆・防食にはさまざまな対策を組み合わせて最適を導き出すことが重要であり、この技術がまだ満足できるレベルにないという。

 そのような中、国はメンテナンスを重視する政策を推進する。2014年7月、道路や橋梁を管理する自治体に、トンネルや2メートル以上の道路橋などを5年に1度の頻度で点検することを義務付けた。トンネルは全国に約1万本、2メートル以上の橋は約70万本あるといわれる。点検の義務化により、今後は道路や橋梁、トンネルなどのメンテナンスの動きが加速することが予想される。

 この流れを捉えるべく、重防食塗料や塗装システムの販売拡大を狙うのが塗料メーカーだ。塗装に関するコスト削減や、環境負荷を低減する製品ラインアップの充実に力を入れている。短納期やカラーバリエーションなど、多様化するニーズに対応できる体制づくりにも余念がない。

 「近年はユニバーサルデザインに対する意識の高まりや、景観に関する色彩の基準やトレンドも変化している」(塗料メーカー)という。中でも重視されるのは高耐久性、省工程、環境対応型。これらの課題解決に向けた製品開発や、供給・サービス体制の強化を図っている。

神東塗料/「シントーフロン」シリーズ−高品質・低価格がテーマ

 神東塗料は、フッ素樹脂塗料上塗りの「シントーフロン」シリーズのラインアップを充実させた。橋梁やプラント構造物など鋼構造物全般の重防食塗装用途で需要拡大を図る。同社の鋼構造物向け上塗り用として、最も耐候性に優れる塗料だ。主剤となる溶剤可溶物中に、高い結合エネルギーを有する四フッ化タイプのフッ素樹脂を高濃度で配合し、これに高密度酸化チタンを合わせて使用することで、耐候性と塗膜安定性を向上している。

 シリーズの主力製品となる強溶剤厚膜形塗料「シントーフロン#100S―HB」はスプレーやローラー、ハケでの1回塗りで乾燥膜厚55マイクロメートルの塗装が可能。同社の厚膜形下塗り塗料と組み合わせることにより塗装工程の省略化を実現する。「シントーフロン#100マイルドHB」は、弱溶剤厚膜形塗料。1回塗りで50マイクロ―60マイクロメートルの乾燥膜厚を塗装できる。メンテナンス需要における省工程ニーズに対応できる上塗り塗料として注目されている。いずれの製品も同社の標準型フッ素樹脂塗料(25マイクロメートルタイプ)に比べ、約2倍の耐久性が期待できるという。

 そして現在は、日本工業規格(JIS)の「JIS K 5659 鋼構造物用耐候性塗料 上塗1級」の認証を取得。また、シリーズ全ての塗料に低汚染機能を付与している。一般財団法人土木研究センターが行う「土木用防汚材料評価促進試験方法I(案)」の評価試験でI種合格しており、美観・景観性が求められる構造物には最適だ。

 とはいえ、フッ素樹脂塗料上塗りは機能に対する認知度と評価は高いが価格も高価である。神東塗料は、同社従来品より機能を高めながら価格を10%程度抑え「高品質で低価格」をテーマに販売を促進する。民間需要の妨げとなる価格面での課題を克服し、フッ素の上塗りコートの普及拡大に力を入れる方針だ。

 近年、構造物の高層化や高意匠化により塗り替えや洗浄が困難となり、塗膜上の汚れが目立ちやすい傾向にある。同社は耐候・耐久性に加え、低汚染機能にも優れた製品開発を進め、LCCの低減ニーズに応えていく。

関西ペイント/省工程で高耐久性実現−「ユニティーモ」提案に力

 関西ペイントは、環境対応型省工程重防食塗装システム「unitimo/ユニティーモ」の提案に力を入れる。同社がこれまで行ってきた工法より少ない工程で、従来工法以上の膜厚と耐久性を実現している。これを可能にしているのが、低揮発性有機化合物(VOC)・弱溶剤厚膜変性エポキシ樹脂系さび止め塗料「エスコNBマイルドH」と、下上兼用塗料「ユニテクトシリーズ」である。

 エスコNBマイルドHは、溶剤含有量の少ないエポキシ樹脂系塗料。液状エポキシ樹脂と独自開発の特殊樹脂を反応させることにより、弱溶剤に可溶である。特殊粘性調整剤により、厚塗り性と塗装作業性を向上している。

 1回のハケ塗りで120マイクロメートルの膜厚を確保でき、弱溶剤系でありながら従来の強溶剤系のエポキシ樹脂系さび止め塗料と同等以上の防錆性能を発揮するという。弱溶剤化することによりリフティング(チヂミ)の問題を改善し、旧塗膜への適性も高めている。

 ユニテクトシリーズは、下塗り上塗り兼用塗料。1回で60マイクロメートルの膜厚を塗り付けられる。中塗りから上塗りまでを1回の塗装で済ませられるため、省工程化に貢献する。「ユニテクト30SF」は、シリーズの中で最も耐候性に優れるシリコン変性エポキシ樹脂系塗料。独自の配向性技術により、塗膜の下層から表層になるほど、含有するシリコン成分の密度を高めている。下塗りに必要とされる防食性と、上塗りに求められる耐候性の両立を実現している。また、シリーズ全ての塗料が鉛・クロムフリー。ノニルフェノールなどの化学物質を含まないため、身体への悪影響も抑制している。この重防食塗装システムは、これまで4回塗りが必要だった塗装工程を2回塗りで済ませることができ、環境保全とコスト低減を両立したシステムとして顧客からの注目度も高い。同社は、今後も引き続き需要増が見込める橋梁や電力・石油プラントの維持・補修向けをメーンに、提案を進めていく。

塗料業界は20年に開催される東京オリンピックに向け期待感を高めている。東京湾岸周辺に建設が進むスタジアムやインフラ向けなど、新たな需要を取り込むための販売促進に力を注いでいる。最近は、建築現場での職人不足や資材の高騰が大きな問題となっている。塗料メーカーが普及拡大に力を入れる省工程型の重防食塗料は人手不足を補い、施工コストを低減するために不可欠なものとなる。

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