業界展望台
海外展開を加速する 紙・パルプ産業
8月21日(金曜日)付 日刊工業新聞 12面〜13面
2014年の紙・板紙生産量は前年比0.9%増の2648万トンで、わずかながらも2年連続のプラスとなった。だが、10年前の04年に比べると14.3%減の水準。リーマン・ショック翌年の09年に3000万トンを割り込んだまま低迷している。パソコンやスマートフォン、タブレット端末(携帯型情報端末)など情報通信機器の普及による“紙離れ”も背景だ。国内市場の成熟を受け、日本の紙・パルプ産業は海外進出を含め、事業構造転換を加速している。
■事業多角化を推進
日本製紙連合会の「紙・パルプ産業の現状−2015年版」によると、14年は生産量こそ微増だったものの、内需については紙・板紙全体で前年比0.9%減の2742万トンとなっており、4年連続のマイナス。このうち紙は同1.8%減の1587万トンで、新聞・印刷用紙の需要減退により8年連続のマイナス。一方、パッケージなどに使われる板紙は景気回復に伴い同0.5%増の1155万トンだが、04年比では7.1%減だ。
品種別にみると10年前との比較ではティッシュ、トイレット、タオルなどの衛生用紙を除き、軒並みマイナスとなっている。
こうした状況から、各社とも国内で設備集約などによる生産合理化に取り組むとともに、事業の多角化を推進している。特に大手メーカーの商品展開で象徴的なのは加工品の紙おむつ。国内では布おむつを席巻し、高齢化の進展で大人用が“伸びしろ”になっている状況だが、人口が増え続ける中国や東南アジア諸国では購買力も高まり、ベビー用が先行して目覚ましい普及をみせる。日本からの輸出拡大に加え、現地生産拠点の増強や新工場立地も進む。
大王製紙は紙おむつを中心とするH&PC(ホーム&パーソナルケア)事業で、17年度に売上高2000億円(14年度実績1468億円)を目指す中期経営計画(15―17年度)を策定した。全社の売上高目標5000億円(14年度実績4502億円)に対し、40%の事業ウエートになる。14年度の売上高に占める事業比率は32.6%で、海外展開を原動力に3年間で7.4ポイント高める計画だ。
同事業部門の生産子会社が16年1月、いわき新工場(福島県いわき市)を稼働して供給力を高めるほか、既存の中国とタイのベビー用紙おむつ工場で能力増強を進め、インドネシアでは12月の完成を目指して建設中。インドネシアはH&PC事業3番目の現地生産国になる。輸出はロシア、韓国、台湾などが好調。韓国と台湾、中国市場には大人用紙おむつも投入した。アジアにとどまらず中東への展開も視野に入れ、すでにテスト販売を始めた。
大王製紙はインドネシアにおけるベビー用紙おむつ事業を三菱商事と共同展開することも決定。大王製紙グループが全額出資する現地販売子会社と製造子会社の株式を一部譲渡し、それに併せて11月に第三者割当増資を実施して両子会社とも大王製紙60%、三菱商事40%の出資比率とする。現地生産化による本格的な市場参入に向け、同国の流通分野に強みがある三菱商事との共同出資を決めた。
■紙おむつ事業、アジアで本格展開
王子ホールディングス(HD)は今年1月、マレーシアの紙おむつメーカーであるピープル・アンド・グリットの発行済み株式の80%を取得した。これに併せ、東南アジアで本格的に紙おむつ事業を展開するため、子会社を通じた全額出資で同国に現地生産会社も設立。工場は11月に稼働する。また、インドネシアでもベビーフードを手がける現地メーカーと紙おむつの製造・販売で、それぞれ合弁会社を設立済み。早ければ年内にも事業が始動する見通しだ。
王子HDは海外紙おむつ事業で15年度に売上高50億円を見込み、3年後の18年度に9倍の450億円まで拡大する計画を打ち出しており、未進出国でM&A(合併・買収)による急展開もありそうだ。
国内の大人用紙おむつ・尿もれパッド市場に絞り込み、ヘルスケア事業を展開してきた日本製紙も、現状の事業規模70億円を中計(15-17年度)で200億円まで拡大する体制整備に取り組む。供給基地となっている京都工場(京都府福知山市)に50億円を投じ増産を進めて”マザー工場“化するほか、商品ラインアップを拡充して輸出も本格化。海外でのM&Aも選択肢で、当然ながら、撤退していたベビー用紙おむつへの再参入が考えられる。
同社はシンガポールに東南アジア地区の製品販売を統括する直営販社も設置した。販売子会社である日本紙通商の現地法人だったNPトレーディング・シンガポールを「NPインターナショナル」に改称し、全株式を取得。従来の孫会社から子会社に格上げし、意思疎通の円滑化と市場ニーズへの迅速な対応を図る。
中計の17年度の売上高目標は1兆1100億円(14年度実績1兆524億円)で、海外比率を20%(同13%)まで高める計画だ。直営販社は中計の具体化策で、東南アジアから中近東をカバーするマーケティング機能も備える。
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