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業界展望台

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モノづくりを変革する 3Dプリンター

8月31日(月曜日)付 日刊工業新聞 8面〜9面

 イメージしたものを即座に立体造形として出力することができる―。3DプリンターはプラスチックやABS樹脂、金属粉末などの材料を積層させて立体を造形していく装置だ。応力解析や組み付けと質感のチェック、さらに改良のための設計変更などを容易にする。デザインや設計に対する考え方、モノづくりのプロセスを変革する可能性があることに加えて、ハードウエアの低価格化、造形品のクオリティーや精度の向上といった技術発展で、普及拡大が進んでいる。

■材料や設計、データ作成など 知識やノウハウ重要

高精度完成品も

 3Dプリンターによって樹脂、金属を積層して行う立体造形はアディティブ・マニュファクチュアリング(Additive Manufacturing=AM)技術と呼ばれている。AMが利用されるのは大量生産に入る前の製品デザイン、機能、構造などを確認する試作品を作るといった場合が多かった。しかし、最近ではプリンターの性能向上やプリンターが扱う材料技術、精度の向上で完成品、市販品の生産に使用する例が増えてきてきた。中でも医療関連では手術訓練用の臓器を模した3Dモデルなど、オーダーメード品をはじめとする少量生産品においても利用が広がっている。

 樹脂を材料に使う3Dプリンターは吐出器のノズルから材料となるフィラメントを射出し、積層、硬化させていき、3Dデータ通りに造形していく。このほか、樹脂を材料にするものでは細かい粒子状の樹脂をノズルから噴射し、紫外線照射で固めながら積層していくタイプなどもある。

低価格化で普及

 ハードウエアの低価格化や販売チャンネルの拡大、オープンデータの増加によって、樹脂を材料に利用する3Dプリンターは身近なものになった。しかし「プリンターと出力用データを用意できても、簡単に試作や生産ができるとは思わないでほしい」と睦化工(むつみかこう)の古川亮一社長は語る。

 同社はプラスチック射出成形でモノづくりを行ってきた加工メーカー。本格的普及が始まる前にユーザーとして自社のモノづくりに樹脂用3Dプリンターを導入。現在は3Dプリンターによる出力・加工サービスの提供、代理店としてプリンターの販売なども行っている。古川社長は「3Dプリンターによる造形では材料や設計、データ作成、造形物が持つ特性などについての知識やノウハウが必要。また、プリンター性能にマッチしたデータ修正を行う必要もあるだろう」とアドバイスする。

■積層造形・ミーリング加工のハイブリッドタイプが普及

 金属3Dプリンターは従来の技術で不可能だった幾何学的構造を容易に加工できる。金属粉末を材料に利用して、粉末をレーザーや電子ビームで溶融、固体化させ、層を積み重ねるという加工プロセスで立体に造形していく。金属積層3Dプリンターで出力した場合、これまで複数の加工部品を組み合わせて作っていたものを一体造形することが可能となる。その結果、部品強度を向上させるだけでなく、工程やコストの削減も実現する。

 現在、普及拡大しているのは金属の積層造形機能とミーリング加工する切削機能を併せ持つハイブリッドタイプ。このタイプであれば、例えば放電加工を必要としていた深溝加工や射出成形機用金型での3次元冷却配管といった、工作機械では加工できなかった樹脂用金型のような複雑なものを2次加工なしのワンプロセスで実現することができる。

 3Dプリンターによる造形は決して簡単ではない。使いこなせないままに終わるケースも今後、増加してくるだろう。そうした失敗をしないためには3Dプリンターに関して、理解を深めておく必要がある。セミナーや展示会の参加は有効な手段だ。

関連技術一堂に

 15年1月、東京・有明の東京ビッグサイトで開催されたICSコンベンションデザイン主催の「3D Printing 2015」には大手3Dプリンターメーカー、材料メーカーの最新機器、材料、関連機器が展示された。主催者の発表では同時開催展の来場者を含み、会期3日間で約4万8000人が来場。展示物の造形サンプルを手に取って、スタッフに質問している来場者の姿を多くの出展社ブースで目にした。「3D Printing」は16年1月27日から東京ビッグサイトで開幕する予定。

 

有力企業の製品・技術紹介

金属技研

 金属技研は今年、神奈川工場にアーカム製電子ビーム方式金属3Dプリンター「Q20」を導入。既設のアーカム製電子ビーム方式とEOS製レーザー方式と合わせて3台体制を構築。新設機は従来より大型(直径350ミリ×380ミリメートル)造形可能で、小物も多数個造形できる。チタン64合金専用にしてコンタミネーション防止と効率化を図る。両方式とも造形物にHIP(熱間等方圧プレス加工)処理を施し、ほぼ100%に高密度化。疲労強度を高める。今後、国内の各工場にも導入を検討している。

睦化工

 睦化工は他社に先駆けて3Dプリンターを導入し、プラスチック射出成形のノウハウと融合させた試作から量産までのワンストップサービスを手がけている。3D造形、3D―CADデータの作成や編集も得意とする。デジタイザーやデジタルクレイモデラーを使い、リバースエンジニアリングや2Dデータの3D化も可能。量産に合ったデザインの相談や3D―CADの設計も請け負う。3Dプリンターで対応できない材料を使いたい場合、数量が多い物は真空注型機や射出成形機で対応できる点も強みだ。

ユテクジャパン

 ユテクジャパンは北海道から九州まで、全国15の拠点を通じて、顧客のモノづくりをサポート。同社が扱うプラクスエア・サーフィス・テクノロジーズは溶射用ガスアトマイズパウダーで50年以上の製造実績を持つ。コバルト、鉄、ニッケルなどの3Dプリンティング用金属パウダーに焦点を当て、研究開発。最近、チタンに最適なアトマイズ方法を開発し、3Dプリンター用チタンパウダーの安定的な量産を実現した。航空機のブラケットから、医療分野のインプラント製造向けまで充実のラインアップ。

日本バイナリー

 日本バイナリーはMakerbot、Airwolf、Lulzbotほか有力メーカーと代理店契約を結び、熱溶融積層方式3Dプリンターを販売。さらに光造形方式、選択的加熱焼結方式などのプリンターも扱っている。プリンター用の材料ではナイロン、ポリカーボネート、特殊ポリエステルなどに加え、木材、竹材、青銅、銅などの複合材料フィラメントを用意。手術訓練用の臓器質感フィラメントも開発中だ。また、3Dスキャナーや3Dモデリングシステムなども取り扱っている。

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