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業界展望台

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倉庫業 災害に強い物流システム構築

9月4日(金曜日)付 日刊工業新聞 10面

 2011年3月に発生した東日本大震災では物流網が寸断し、グローバル・サプライチェーンに多大な影響が出た。倉庫業界では災害時の物流網の被害を最小限に抑えるため、災害に強い物流システムの構築や倉庫関連の災害対策、事業継続計画(BCP)の策定などを官民一体で推進する。一方、倉庫各社では、高齢化社会の進展で需要の拡大が見込まれる医薬品や再生医療用iPS細胞の保管や輸送に注力する動きが加速する。

■検討会を設置

 国土交通省は14年8月に「荷主と物流事業者が連携したBCP策定促進に関する検討会」を設置。14年10月に検討会を開催し、3月に報告書を取りまとめた。検討会では、荷主と物流事業者の連携によるサプライチェーンの維持に必要なBCP対策のためのガイドラインを作成。連携の取り組み事例を抜粋した「ベストプラクティス集」と「連携訓練マニュアル」も作成した。国交省では、この3点セットにより、荷主と物流事業者の取り組みを支援する。

 検討会ではこのほか、ガイドラインを活用した連携体制の構築・強化のモデルを作成した。モデルでは、荷主と物流事業者が双方で人材育成を進め、行動マニュアルなどを作成した上で、これを共有。さらにこの行動マニュアルを基に共同訓練を実施し、行動マニュアルの手直しなどをした上で、BCPに発展させることなどを推進する。

 国交省は4月に災害に強い物流システムの構築に向けた14年度の取り組みをまとめ、公表した。災害時に支援物資の物流拠点となる「民間物資拠点」のリストアップを進め、13年度の1169拠点から1203拠点に拡大。各都道府県と物流事業者の間で締結する協力協定も、13年度末時点の120から、14年度末時点では132に増えた。

 国交省では15年度も引き続き、災害に強い物流システムの構築に向け、さまざまな調査や検討を進める。トラック、鉄道、船舶、航空機など、多様な輸送機関で支援物資輸送を行う体制の整備に向け、使用可能な港湾施設、鉄道駅などのリストアップや周辺自治体や全国の都道府県からの応援体制などを調査、検討する方針だ。

■情報記録管理

 住友倉庫は6月に情報記録管理施設の「羽生アーカイブス第2センター」(埼玉県羽生市)に第2期倉庫を開設した。企業の文書や磁気テープ、フィルムなどの情報記録に特化した倉庫で、免震構造の鉄筋コンクリート造と、72時間対応の非常用自家発電設備を置くなど災害に強く、顧客のBCPに対応した。

■医療関連拡充

 また、倉庫各社では、医療関係の物流を強化する動きが加速する。三井倉庫ホールディングスは8月から、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)が医療機関などに提供するため、健康なボランティアの血液や皮膚から作製したiPS細胞を保存する「再生医療用iPS細胞ストック」の輸送を始めた。三井倉庫は治験薬をはじめとした医薬品や医療機器など、ヘルスケア関連の物流に注力しており、12年にiPS細胞を輸送する容器の開発に着手。液体窒素を充填し、マイナス180度C以下の超低温状態を100時間以上維持して振動を最小限に抑える専用容器「MEDi STAR」を開発し、輸送を受託した。

 三菱倉庫は9月から医薬品の流通過程における品質管理基準「Good Distribution Practice(GDP)」に対応した新たな医薬品保冷配送サービス「DP-Cool」を始める。三菱倉庫は11年11月に医薬品専門の運送子会社「DPネットワーク」を設立。すでにGDPが導入されている欧州各国で調査を進め、サービスの構築に着手した。9月から管理基準に準拠した医薬品の配送サービスをスタートする。

日本倉庫協会会長・安部正一「公共性を認識し活動推進」】

 日本の経済は、円安や原油安を追い風に企業業績が回復するなど、緩やかな回復基調を持続しています。倉庫業界におきましては、保管残高数量は前年を上回る水準で推移していますが、貨物の荷動きは、入出庫数量の前年割れの状態が続き低迷しており、倉庫事業者は厳しい状況に直面していると言えます。

 このような情勢の下、日本倉庫協会としましては、倉庫業の公共性を認識し維持していくことを念頭におき、引き続き災害に強い物流システム構築に向けて、倉庫の災害対応力の強化に努めてまいりたいと考えています。災害時の支援物資物流に関しましても、各地区の倉庫協会と当該自治体との間で協定締結が進んできており、当協会でも継続して協定締結の支援を実施しているところです。

 また、物流業界全体に関わる大きな課題として、トラック運転手不足があります。現行の物流総合効率化法の下で、倉庫の集約化などにより輸送網の効率化を進めてまいりましたが、現状のトラック運転手不足による物流の停滞などを解決するため、物流拠点におけるトラックの手待ち時間の解消などを図り、輸送フローの効率化の一助となるような対策にも取り組んでいきたいと考えています。

 さらに、当協会におきましては、会員事業者向けの教育研修プログラムに力を注いでおり、倉庫業務、倉庫法令、3PLなどの実務研修やeラーニング研修を充実させています。昨年1年間は、新規研修事業の検討を行ってきており、今年は現行の研修制度に加え、新たにいくつかの研修事業を始めることとしています。そのほか、会員事業者の大多数を占める中小規模事業者を支援する制度の再検討や、倉庫業に関する諸課題などをテーマに毎年開催している物流フォーラムの開催も時宜にかなった新たなテーマで実施いたします。

 倉庫業は生産、販売、消費といった一連の経済活動の結節点にあって、貨物の保管、流通加工などを行うことにより、サプライチェーンの維持や国民生活の利便性の確保に大きな役割を果たしています。このような公益的な役割を担っていることを常に意識し、今後も会員事業者から求められる協会活動を推進し、倉庫業界の発展に貢献してまいりたいと考えております。

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