業界展望台
産業界を下支え ネジと関連機器
9月10日(木曜日)付 日刊工業新聞 18面〜19面
ネジやナットは社会において必要不可欠な基礎部品。「産業の塩」と呼ばれ種類も多く、自動車や建築、家電、産業機械などさまざまな分野で使用されている。ネジメーカーでは軽量化や高強度などのニーズを追求し、付加価値を高めるモノづくりを推進。一方、製品を取り扱う商社では物流システムを充実させ、高品質のネジをタイムリーに供給している。市場動向としては自動車関連などが堅調であり、住宅、建築は軟調である。ネジ関連業界の動きを追った。
■プラス成長
ネジが使われる主要業種の動向をみると、自動車関係は好調を維持し、工作機械関係も堅調である。日本工作機械工業会によると、2015年7月の受注総額は前年同月比1.7%増の1299億3900万円だった。7月としては07年に次いで、過去で2番目に高い水準となった。22カ月連続でプラス成長している。
低迷が続いていた住宅関連でもここにきて回復傾向となっている。15年7月の新設住宅着工戸数は前年同月比7.4%増の7万8263戸で、5カ月連続のプラス。消費増税前の駆け込み需要の反動減が薄れ、持ち直している。特に反動減の大きかった持ち家についても7月は同8.0%増で、3カ月連続してプラスとなっている。国の経済対策などの効果が住宅関連にも表れ始めているようだ。
ただ、ネジ業界では異なる見方もあるようだ。工作機械の分野では「中国経済の減速による影響もあり、以前と比べ動きが鈍くなってきている」(大手ネジ商社)。住宅関係についても「これまでの在庫から供給過多になっている」(同)と語るように、懸念の声も聞かれる。
■五輪需要に期待
このため業界では15年度下期からの動向を注視する考え。20年に開催される東京五輪向けの需要を期待している。その一環として、あるネジ商社では、首都圏を中心に従業員数を増やし、さらなる顧客の獲得に力を注いでいる。社内ではソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を有効に活用し、常に従業員の声を聞ける体制を整えている。社員全体で最新の情報を共有することによって、営業活動に素早く反映し顧客満足度の向上につなげている。
ネジに求められるニーズとしては高強度や高耐食性、軽量化、マイクロ化などが挙げられる。メーカーは新規市場の開拓とともに製品の改良にも力を入れている。例えば、あるメーカーでは医療分野に特化した製品を開発・製造している。金属と樹脂を一本化するインサート成形ネジで、耐薬品性の高い材料を採用。点滴スタンドや介護機器への使用を想定している。顧客の希望するサイズに応じ、受注生産も行う。
■多様な分野で
実用金属の中で最も軽いマグネシウムを使ったネジを開発したメーカーもある。ネジの軽量化だけでなく、比強度や振動吸収性、電磁シールド性を向上させた。マグネシウム合金との接触による電食も生じないため、自動車、情報、航空機など多様な分野で活躍している。
別のメーカーでは、亜鉛の優れた保護性能を応用した防食保護キャップを開発した。アンカーボルトやボルトナットの締結部にスパナなどで締め付けるだけで酸性雨などからの腐食を防ぐことができるため、メンテナンスコストを大幅に削減できる。耐震性能の維持も可能であり、付加価値の高い製品となっている。太陽光のソーラーパネルや、高速道路の防音壁などで採用されている。同製品を取り扱う小林産業(大阪市西区)ではさらなる需要拡大に力を入れている。
主要各社の製品・技術紹介
■ヤマヒロ
建築用ファスナー総合メーカーのヤマヒロは、屋根・外壁用「ジャックポイント」、内装用「ドライウォールスクリュー」をはじめ、木材用やコンクリート用など数百種類ある製品の即納体制を整えている。顧客独自仕様の製品も設計・製造、建築業界に提供する。
同社は非構造材に締結するネジ類にも日本工業規格(JIS)仕様が増えているため、同規格認証工場を取得。認証区分はドリルネジ。規格番号はJISB1124およびJISB1125。主要サイズをそろえ、JIS規格物件に対応する。
■サンコーインダストリー
サンコーインダストリーの「エイトロックワッシャー」は、ネジの緩みの問題を解決するために開発した。ワッシャーに角度をつけて、座面の傾斜により緩み止め効果を発揮する新しい概念のワッシャーとなっている。
テーパー締め付けによりボルトとナットの間に高い摩擦力が生じ、緩み回転に対して抵抗を与えるため、振動と衝撃に高い緩み止め効果を発揮する(NAS3350規格試験クリア)。
省スペース対応や低コストでの利用を実現した。
■神山鉄工所
神山鉄工所はドリルネジを中心に、タッピングネジやタップタイトネジを設計・製造している。ドリル刃先は独自で設計。成形金型の内製化で、最適にカスタマイズされたネジを提供する。薄鉄板から構造用鋼板、コンクリートやセラミック系板材など幅広い部材の締結部品に採用されている。ユーザーにも開発型の提案を続けている。
本社立体倉庫と製造工場、営業事務所を結ぶ生産管理システムで多品種少量商品の在庫を最適化。OEM(相手先ブランド)生産で顧客の要望に応える。
■ゴトウネジ
ゴトウネジはネジの製造で培った固有技術と管理技術を生かし、金属部品の先進メーカーとして高付加価値製品の開発、生産合理化に力を注いでいる。
過去には、さまざまな金属部品の“作り方”や“使い方”で、価値分析(VA)による提案が盛んだった。その中には、部品自体のコストダウンがアセンブリー製品の価値低減に寄与していないものが少なくない。同社は固定概念にとらわれず、真に価値があるVAを提案。今後もこの考えにこだわり続けていく。
■ハードロック工業
ハードロック工業は「求められるものを形に」をモットーに、緩み止めナットでは他の追随を許さない。安全性の追求と新しい発想で顧客ニーズを形にすることを目指し、技術開発へのこだわりを失うことはない。
同社の全製品がドイツのユンカー式試験と米国航空宇宙規格(NAS3350)の緩み試験に合格。日本古来のくさびの原理を応用した「HL」「HLB」や、バネの弾発作用を応用した「スペースロックナット」は産業界からも広く支持を得ている。
■大丸鋲螺製作所
大丸鋲螺製作所はゴム製Oリングと、ネジ・ボルト・キャップボルト・座金を一体化した「シールシリーズ」を製造・販売する。頭裏に溝をつくり、Oリングをはめ込んだ。締めるとリングが沈み込み、隙間を埋めて水や油、空気などの漏れを強力に防ぐ。
シールキャップボルトは六角レンチで締めるため、狭い場所での作業も簡便。Oリング材質は標準がニトリルゴムで、シリコン・フッ素ゴム、その他にも対応可能だ。「とにかく漏れを防ぎたい!」という顧客の要望をこれ1本で解決する。
■大阪フォーミング
大阪フォーミングは創業時より培ってきたステンレスの加工で技術を蓄積。多様なステンレス製品の製造・販売においてユーザーの支持を得ている。緩み止めナットでは「E―LOCK」をシリーズ化し、あらゆる分野のユーザーに対応できるようラインアップを増強。大手メーカーからの受注も増大、着実に実績を伸ばしている。
同社は2012年「超モノづくり部品大賞 機械部品賞」を受賞。近畿経済産業局の「関西ものづくり新撰2015」にも選定されるなど高い評価を得ている。
■マツダ
マツダのコア技術である”冷間圧造“には材料ロスが少ない、加工スピードが速い、熱による歪み(ゆがみ)が少ないといった特徴がある。社内で試作から金型製作、量産までを一貫して行うことで、納期短縮・高精度化・歩留まり向上を実現している。
9月11日に大阪マーチャンダイズ・マートで開催される展示会「ものづくりパートナーフォーラムin大阪2015」では、過去の試作事例を紹介するとともに、量産への不安や製品実現への希望を抱く顧客のパートナーとなるべく、可能性を探る。
■八幡ねじ
八幡ねじはユーザー製品の安全性向上のため、ボルトやナットに”対緩み性“を付加した新製品を提供している。「くさびナット」は非対称のネジ山を利用した緩み止めナット。くさび面を備えた特殊な谷底形状がくさび効果を生み、ボルトを強力にロックする。
「モーションタイト」は特殊なネジ山の緩み止めボルト。特殊ネジ山形状でネジ山の反力を増大させ、複数山に応力を分散させて強い緩み止め効果を発揮する。ユーザーの組み立て効率を落とすことなく安全性を向上できる。
■小林産業
小林産業はネジ・機械工具の専門商社。
「NEWロックナット」はNEXCO西日本グループが開発した緩み止めナットで強力な緩み止め効果と優れた作業性を併せ持つ。高い安全性が要求される高速道路や橋梁、トンネルなどの構造物で効果が実証されている。
「ジンクハット」は高純度亜鉛の優れた保護機能を応用した防食保護キャップ。ボルトナットのサビを防止し長時間防食作用を発揮する。太陽光や原子力発電所、道路などに採用され構造物の安全を支えている。
■ジェーピー
ジェーピーは特殊リベット、ネジ精密部品の専用メーカーとして、長年にわたって高品質、高精度の部品をつくり続けている。部品コストの低減や品質向上、材料費の削減をモットーとしており、同社製品は全国のユーザーから幅広い支持を得て、自動車や電機、産業機械などあらゆる産業で使用されている。
また、同社製品に使用する材質も普通鋼、特殊鋼(硬鋼線材)、ステンレス、チタン、真ちゅう、アルミニウム、銅などと幅広く、用途に応じてスピーディーに対応、製作・販売している。
■ユタカ
ユタカのガラステーブル式画像検査装置「YS―2GRシリーズ」はナットのほか首下の短い逆立ちが可能なネジ、ボルト、部品などを一度に両面検査できる。
内ネジや外周を検査する際、回転や穴内にカメラを差し込む必要があるが、特殊レンズ採用によりその手間が省け、1ショットで立体的な検査を可能にした。
6月の東京ビッグサイトにて開催された「MF―TOKYO2015」に同装置を出展して注目を集め、各方面からの案件および受注が増えている。
■八尾製鋲
八尾製鋲が販売するプロ仕様の「拘りシリーズ」は顧客のさまざまなニーズに合わせて開発された製品。そこで使用されている特殊刃(タピックス形状)は同社製品の最大のセールスポイントで、木割れしにくい先端加工により、堅木でも低トルクへ入り込むことができる。また、顧客の要望があれば特注品の開発も行っており、米国での販売実績持つ。
同社は今後も「創造し走り出すことで革命が生まれる」というテーマのもと、得意とする製品開発で顧客の要望に応えていく。
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