業界展望台
車・医療分野へ拡大−マグネシウム合金
9月15日(火曜日)付 日刊工業新聞 17面
マグネシウムは実用金属の中で最も軽く、鉄やアルミニウムより高強度な材料。省エネルギーなどの観点から輸送機器の軽量化などに期待され、自動車部材や電子機器の筐体(きょうたい)といった構造材のほか、幅広い分野の材料として研究開発が展開されている。難加工材のマグネシウムを量産拡大につなげていくには、マグネシウムの持つ特性を生かせる合金を成形技術に合わせて開発し、発展していくことが求められる。
マグネシウムの比重は1.74と鉄の4分の1、アルミニウムと比べても3分の2で、最も軽い金属だ。重量当たりの強度や剛性は鉄やアルミニウムと比べて大変優れている。しかし加工性能が低く、加工コストが高くつく傾向にある。また、空気中の酸素と結びつきやすく、黒く酸化するなど腐食しやすい点もある。酸素と結びつくことで熱を発生し、金属火災を引き起こす。延べ板加工する前のチップ状マグネシウムや、薬剤に使用される粉状マグネシウムなどは高い可燃性が問題となっており、保管場所には金属火災用放射器の設置が望ましい。
これらマグネシウムの持つデメリットをカバーするのが、アルミニウムや亜鉛、マンガンやシリコンを混ぜたマグネシウム合金だ。自動車部材に使用されるダイカスト成形ではアルミニウムと亜鉛を9対1の割合で混ぜた合金が使用され、パソコンなどの電子機器類の筐体に使われる展伸材としてはアルミニウムと亜鉛が3対1の割合で配合された合金が使用される。
マグネシウムは土壌からも海水からも生成できる鉱物だ。掘削して産出したドロマイトやマグネサイトなどの鉱石を精製し、マグネシウム地金を生産している。日本国内でも1992年ごろまではマグネシウム生産を行っていたが、現在は生産コストや人件費問題もあり、ほぼ100%を輸入に頼っている。2000年ごろから中国産マグネシウムが生産量世界第1位に躍り出ている。日本マグネシウム協会によると、14年のマグネシウム国内需要量は、13年比12.4%増の4万290トン、11年以降3年ぶりに4万トンを超えた。
同協会では14年から「自動車マグネシウム適用拡大検討委員会」を設立している。リーマン・ショック以前はマグネシウムの需要は右肩上がりで伸びていたが、現在はその加工コストなどの問題もあり、国内需要は伸び悩んでいる。しかし一方で燃費削減の観点から自動車車体の軽量化が叫ばれ、マグネシウムに大きな期待が寄せられている。同検討委員会では車載部品にマグネシウム合金がどのように使用できるか検討し、マグネシウムの需要を呼び起こしたい姿勢だ。
米連邦航空局(FAA)では航空機分野でのマグネシウム部材の使用が解禁された。民間機も含め、シート材などでマグネシウム合金材が使用できる。現在熊本大学の先進マグネシウム国際研究センターの河村能人教授らが米ボーイング社とともに「KUMADAIマグネシウム合金」として耐熱・不燃マグネシウム合金を共同開発しており、FAA基準試験に合格。16年度末までには実用化を目指している。
医療の分野でもマグネシウムは注目されている。人体にはもともと平均30グラムのマグネシウムが存在する。骨折時に使用するボルトやボーンプレート、または動脈内に挿入して血管の流れを回復させる冠状動脈用ステントなどにマグネシウムの医療用部材使用が見込まれている。体液に反応したマグネシウムが徐々にとけだし、体内で調和、その親和性の高さが注目されている。後日手術で金属ボルトを取り出す負担が減るなど、患者にとって使用メリットが大きい。マグネシウムの腐食しやすいというデメリットが利点として生かされている。
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