業界展望台
市場広がる植物工場
9月25日(金曜日)付 日刊工業新聞 12面
植物工場は高度な環境制御を行うことで、野菜をはじめとする植物を計画生産する栽培施設。新鮮、清潔、無農薬などの点で、植物工場で生産される植物には高い付加価値がある。食の安全・安心の確保や、食の安定供給の観点から注目されているほか、遊休地の有効活用や地域活性化からの期待もある。メーカーでの技術革新の進展により対象品目が増えていることも手伝い、市場全体も徐々に広がっている。
■食の安全・安心、安定供給-栽培技術、革新進む
事業化が進展
植物工場は利用する光源によって、(1)蛍光灯や発光ダイオード(LED)ランプ、冷陰極蛍光管(CCFL)のみを利用する「完全人工光型」(2)太陽光をある程度利用する「太陽光・人工光併用型」の二つに分けることができる。
植物工場では栽培室の陰圧制御などにより気密管理を行う。栽培室の温度や湿度、洗浄度をはじめ、光量や赤、青、緑といった光質、光の照射時間を制御する。最適条件で栽培するために、栄養価が露地栽培に比べて高いなどの特徴がある。また、密閉型植物工場で高付加価値な製品を生産するために、遺伝子組み換え植物について総合的に生産・製造する技術の確立も進んでいる。
現在国内の民間企業で植物工場を事業化する動きは、多岐にわたっている。
ある大手化学メーカーで進めているのは、人工光を用いて、閉鎖環境で苗を育てる閉鎖型苗生産システム「苗テラス」と、その苗を太陽光を利用して育てる葉菜類用養液システム「ナッパーランド」を組み合わせた製品を発売。天候や土壌に左右されることなく、光や二酸化炭素(CO2)、培養液などを統括的に制御できるので、定時・定量・定質・定価格での栽培が可能なのが特徴だ。植物工場の栽培期間中には農薬を使用しないため、ユーザーから高い評価を受けており、納入実績も増加中という。同社は国内実績を基にして、中国や豪州での展開も並行して進めている。
化学メーカーでは高効率の植物栽培ユニットを売り出しているメーカーもある。このユニットは、特殊な波長のLEDを採用し、通常の栽培方法と比べて、収穫期間の短縮と収穫量の増加を実現したのが特徴。照明から栽培棚、空調、養液タンクまで必要な設備をパッケージで提供している。
ノウハウ活用
電機メーカーの中では、半導体製造工場のクリーンルームを転用して、植物工場を稼働させているケースがある。ここではクリーンルームの運用で培った、最適製造条件の割り出しや雑菌管理のノウハウを活用するのが特徴。空気や液体肥料に含まれる成分などを細かくコントロールすることで、最適な育成環境を実現している。
ある大手電機メーカーでは、事業立案から運用保守まで、ユーザーの植物工場ビジネスへの新規参入を支援するトータルサポートを行えるのが売り物。具体的には機器・設備、運営までの豊富なノウハウを生かし、植物工場の環境制御や機器管理を複合的に管理して、データベース(DB)に蓄積。さらにはパソコンやタブレット端末(携帯型情報端末)でデータ確認も可能にしている。
都市部で営業を行う鉄道会社は、日照時間の少ない高架下の土地を有効活用し、完全人工光型植物工場を稼働させ、レタス販売を開始している。
ほかの鉄道会社は沿線の地元で農産物の作り手が減っているところから、先進的な農家と組みトマトを生産する新法人を設立した。この新法人は太陽光利用植物工場を建設、生産から販売までの取り組みを通じ、交流人口の創出や地域活性化を図っていく。
植物工場の専業メーカーでは、野菜の水耕栽培にドーム型太陽光利用型植物工場を使って取り組む企業もある。この植物工場では約15年の耐久性を持つ散乱光型フィルムを使用して、ドームの内部に約1万5000株の野菜を栽培する円形の水槽を設置。約1カ月かけて成長した野菜を収穫する。この仕組みで従来型のハウスに比べて、面積比で約1.5倍の野菜生産が可能になった。またドーム内部の水温、気温、pH(水素イオン濃度)、肥料濃度を自動制御化したことで、安定した栽培と出荷を実現。コンピューターによる24時間管理により、スタッフの作業時間は8時間以内に短縮した。
今後はソフトウエア企業と共同で、遠隔地からの施設管理を図っていくほか、工場内での農産物の生産、加工、販売に至るプロセスを総合的に管理する仕組みをクラウドサービスとして確立したい考えだ。
販促組織発足
さらに2013年7月には、産業界での植物工場への関心の高まりを受けて、人工光型植物工場の生産・販売に取り組む企業や団体が集まり、販売促進や各社に共通した課題に取り組むための一般社団法人「生産者のための人工光型植物工場協議会」が発足して、活動を進めている。
同協議会は10月21日13時半から、千葉大学環境健康フィールド科学センター(千葉県柏市柏の葉6の2の1)で、「人工光型植物工場の最新動向」をテーマに、セミナーを開催する。二つの事業者と大学関係者が講演する。参加費は会員が3000円。非会員は5000円。問い合わせは事務局(04・7137・8114)へ。
このほか植物工場に関しては、総務省が情報通信技術(ICT)を使った農業情報の活用を推進するためとして、(1)インテリジェント農作物生産システム(2)ICTを活用した農業生産指導システム(3)ICTを活用した青果物情報流通プラットフォーム―の3テーマで実証実験に取り組んでいる。
有力企業の製品・技術<順不同>
■富士電機
富士電機は植物工場の機器・設備をはじめ、プラント設計、そして運営のノウハウまで、トータルでエンジニアリング・サポートサービスを提供。電気エネルギー技術や冷熱技術を生かした設備面のハードと、環境制御・ITを駆使したシステムにデータベース化されたノウハウを加え、最適な植物工場システムをエンジニアリングする。
そのカギを握る「複合環境制御システム」は、植物の成長に影響を及ぼす温度や湿度、日射量など、さまざまな環境条件を複合的に管理し、パソコンやタブレット端末(携帯型情報端末)で確認できる。収量・品質の向上とともに、設備稼働をコントロールすることで省エネにも貢献する。
■大和コンピューター
大和コンピューターは情報通信技術を活用した「i―農業」を展開。静岡県袋井市に農業生産設備を確保している。必要な養分を含んだ培養液で栽培する「養液栽培」で、メロンとトマトを栽培。自動化に向け「総合環境制御システム」を構築した。温度や湿度、二酸化炭素(CO2)、日照を各種センサーでデータ化。すでにコンピューターに登録された最適な育成環境データと比較し、窓の開閉や暖房機、加湿器、除湿器、CO2発生装置のオンとオフを最適に制御する。ICタグを活用した流通トレーサビリティーや農作物向けeコマース(電子商取引)システムに、ソーシャルシステムを連携させた新モデルも実用化させた。
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