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業界展望台

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市場ニーズに機能化で応える不織布産業
        −国内、増産基調続く

10月9日(金曜日)付 日刊工業新聞 16面

 文字通り「織らない布」である不織布。細かな繊維を重ね合わせ、熱や水圧、機械的・化学的手法などで結合し製品化する。一般的な織布製品と比べ製造工程が短縮化される上、機械化による量産に適している。用途は各製造法による特性を生かし、衣料用品をはじめ農業・土木・建築資材、自動車内装材、医療関連など広範にわたる。さらに近年は紙おむつなど衛生用品の世界的な普及を背景に需要急増のタイミングを迎えている。

衛生用品向け、アジア需要急増も−大手各社、生産設備増強で対応

 日本での不織布生産は1950年代、米国から乾式の不織布製造機を導入し始まった。当初の原料は植物・動物系天然繊維やレーヨン、キュプラなどの再生繊維が中心であり、その後ポリエステルやナイロンなど合成繊維の採用が進む。

 不織布の製造は専用機でフリース状繊維(ウェブ)の集合体を形成、これを物理・化学的に接合および結合させ製品材料の原反にする。ウェブ形成には短繊維を機械内の空気流で一定方向およびランダムに並べる「乾式」と、水中に分散した短い繊維を脱水、乾燥しフリース形成する「湿式」を基本に発展。その後、原料の樹脂を直接ノズルから溶出・紡糸し連続した長繊維形成と絡合を1工程で行う「スパンボンド法」が開発。広幅不織布の高速かつ効率的な生産を可能にした。

 その他、繊維結合にはエマルジョン系接着樹脂をフリースに含浸・吹き付ける「ケミカルボンド法」、低融点の熱融着繊維を混合しロールで熱圧着し結合させる「サーマルボンド法」、フリースを高速で上下する針で突き刺し物理的に絡合させる「ニードルパンチ法」、高圧水流で繊維を絡ませ結合させる「スパンレース法」など機能や用途別に多様な手法が開発された。

 不織布の国内生産量は2014年(1〜12月)の1年間で約33万6277トン(経済産業省生産動態調査)と、前年比1.4%増の実績。4月以降、消費増税が出荷量に少なからず影響したものの、その後は堅調に推移し3年連続の増産基調を示している。その流れは15年も変わらず、1〜7月累計の国内総生産量が19万6818トン(同)と、前年同期比0.4%増で推移している。

 用途別に動向を見ると、フェイスマスク向けなどで好調な生活雑貨が2.7%、紙おむつを中心とした医療・衛生品向け2.3%と、それぞれ前年同期比プラス。一方、衣料用(芯地と中入れ綿)が海外生産の進展を材料に24.2%減、農業用が同18.4%減となった。また車両用が前年同期比0.2%の微増。国内自動車生産が年間通し前年割れの中、不織布が実績を伸ばしたのは内装材や消音材、外気吸入フィルターなど車両部材に採用される不織布の増加傾向が要因と考えられる。

 一方、生産全体シェアの50%を超える生活関連、医薬・衛生材料分野は世界的にも需要が拡大。中でも紙おむつなど衛生用品向け材料の国内生産はフル操業状態が続く。不織布メーカーは製品メーカーとともに需要が急増する海外での現地生産に拍車をかける。現在では国内市場へ海外進出企業の現地生産品(原反)を逆輸入するケースも散見できる。

 海外進出した日本企業および日系企業(49%以上出資)の現地生産動向を調査する日本不織布協会(井上和久会長)によると、統計調査を開始した12年(1〜12月)の進出企業累計生産実績は約16万5000トン。翌13年(同)は各社設備拡充に動いた生産動向が反映し同19万6000トンと拡大傾向にある。

 先行き、世界的需要は中国市場の経済鈍化が懸念材料。とはいえ、人口大国であり堅実に経済成長を果たすアジア各国では、今後も個人所得の上昇により子供用紙おむつなど衛生用品の使用量拡大が想定されている。

 一方、ここに来て紙おむつなど衛生材料の需要増に対応し、大手メーカーが国内に生産設備を増強する動きが見られる。紙おむつは先行き国内総人口の減少、とりわけ新生児が減ることで国内市場は縮小傾向が想定される。ただ国民高齢化により大人向けや介護用製品などの需要拡大に期待がかかる。

有力各社の製品&技術 〈順不同〉

三澤繊維

 三澤繊維は紡績、不織布事業で顧客に応じた高品質な製品を提供している。綿紡の強みを生かして商品化したのが綿のニードルパンチ不織布。従来の生成綿とさらし綿の2タイプに加え、合成繊維の混紡製品にも力を注ぐ。

 そのほか、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、レーヨン、アクリルを原料とした製品の開発も多く、用途はフィルター、衣料、寝具、日用雑貨、産業資材など幅広い。

 特に現在は吸音材、防音材、保温材、断熱材での採用が増えている。また、多層構造の不織布やフィルム、ネット、スパンポンドとの複合製品の開発も進める。品質のみならず土足厳禁の衛生的な工場や、混率ムラの少ない大型混綿機など生産設備への評価も高い。

JNC

 JNCの不織布の最大の特徴は、熱接着性複合繊維「ES繊維」で作られていることである。低刺激で安全性が高いことからおむつなどの衛生材料に用途が拡大している。優れた品質性能と加工性を兼ね備え、高い評価を得ている。

 ES繊維を販売する「ES ファイバービジョンズ」は販売拠点が日本、香港、中国、欧州、米国に、生産工場が滋賀県守山、中国広州・蘇州、米国、デンマークにある。加えて、2016年春にタイ新工場が稼働する。

 不織布「EsSoft」工場は中国広州・常熟、タイに拡大し、更に中国広州工場に開発部門、上海に不織布販売会社「捷恩智繊維貿易(NESCO)」を置いている。今後も伸長する衛生材料市場においてさらなる事業拡大を目指す。

ダイワボウポリテック

 ダイワボウポリテックは原料から不織布製造、最終製品までの一貫生産体制を構築。スパンレースとニードルパンチの製造法をメーンに、単体および複合技術による高付加価値製品の生産拡大を図っている。

 近年はコスメ分野に注力。大手ブランドメーカーと共同で伸縮性を付与した機能性フェイスマスクや拭き取り性を向上させたクレンジング材など、ニーズに応じた製品を開発。今年5月には「中国美容博覧会」に出展、香港事務所と連携しさらなる飛躍を目指す。「ダイワボウ ノンウーヴン インドネシア」では、本年度中に2号機が操業を開始し新たな顧客開拓に取り組んでいる。今後も顧客ニーズや課題解決を念頭に技術開発を進め、総合不織布メーカーとしての存在を高めていく。

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