業界展望台
ISO9001、ISO14001大幅改訂
トップマネジメントの積極的な関与を要求
10月16日(金曜日)付 日刊工業新聞 14面
2015年9月、国際標準化機構(ISO)が発行する品質管理の国際規格「ISO9001」と環境管理の国際規格「ISO14001」が大幅に改訂された。新規格はより一層、経営や事業との一体化を求めるものになる。旧規格で認証を取得している企業は、今後3年で新規格への移行が必要になる。経営のツールとして有効に活用し、企業のより一層の発展につなげることが期待される。
■ISO9001計画段階でリスク対策を
日本の産業界ではISO9001とISO14001の両規格の認証を取得している企業は少なくない。今回の改訂では複数のマネジメントシステム規格を同時利用する際の利便性を高めるため、ISO9001、ISO14001の両規格に共通の規格構造や要求事項などが採用されている。例えば、情報セキュリティーのマネジメントシステム「ISO/IEC27001」なども含めて統合し、より効果的に実施する体制を整えられるようになった。
9月に改訂された品質マネジメントシステム規格「ISO9001:2015」は企業などに対して、より実効性のある品質管理対策を求める。品質管理部門だけでPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回す従来のやり方ではなく、各組織の存在意義の中核をなす事業と品質マネジメントシステムの統合を呼びかけている。
ISO9001国内委員会の委員長を務める中央大学の中條武志教授は「相当大きな変更だ」と産業界などへ注意を促す。大きな変更点の一つが、関係するリスクを考えて計画の質を高める行為を明確に求めている点だ。
これは“大改訂"と言われた2000年の9001改訂で導入されたPDCAサイクルの弊害に対処するためだ。「計画をいいかげんに作って、とにかく後でPDCAサイクルを回せばいいという運用をする組織が増えてしまった」と中條教授は指摘する。その結果、トラブルや不祥事が多発したという。
15年改訂により、自社だけでなくサプライチェーン全体の品質に関わるリスクを計画段階で洗い出した上でPDCAを回すよう見直された。
他にはトップマネジメントの積極的な関与を要求しているのも主要な変更点だ。具体的には経営トップがシステムの有効性に説明責任を負うとともに、品質に関する戦略を立案して必要なリソースを確保してその結果に責任を持つことなどを求めている。
中條教授は「これまではトップ自身があまりシステムに関心を持たなかった。認証をとるためであり、事業のためのものではないという位置づけ。そんな形式的な運用ではうまくいかない」と語気を強める。
従来は独立しがちだった品質マネジメントシステムを、トップや事業と統合させることで個社の、そして世界の品質管理レベル全体を底上げしていくのが大きな狙いだ。
ISO9001は1987年に制定された。94年、00年、08年に改訂されたが、中條教授は「(大改訂と言われた)2000年よりも大きな変更と思ってほしい」と強調する。そして「これまであまり真面目に取り組んでこなかった組織にとって良いチャンスだ」と規格の活用を訴えた。新規格への移行期間は3年で、18年9月には08年版の認証が無効になる。
また、今後は関連規格の改訂作業が待っている。日本規格協会・国際標準化ユニットの佐藤恭子課長は「10規格以上の“シリーズもの"を全部見直していく」とすでに次へ目を向けている。
■ISO14001-攻めの環境活動へ転換
環境管理システムの改訂版「ISO14001:2015」も9月15日、発行された。96年の発行から20年目の“大改訂"は、企業に環境貢献と経営との一体化を促す。旧規格で認証を取得する企業は3年以内に新規格への移行が必要だ。
旧規格は環境活動を推進する体制を整える“手引書"だった。手順どおりに活動ができていると認証を取得できる。工場の環境保全を狙いに取得した企業が多い。
新規格は保全から踏み出し、本業での環境貢献も求める。“守り"から“攻め"の環境活動への転換だ。
新たな要求事項「組織及びその状況の理解」は本業での環境貢献を促す。“組織"は“企業"と置き換えてよく、企業活動が外部に与える影響、外部から受ける影響の理解を求めている。旧規格では工場の操業による環境破壊が「与える影響」として真っ先に浮かぶが、新規格では与えるプラス影響も含む。省エネルギー製品は温暖化抑制、節水製品は水資源保全といずれもプラス影響を与える。
外部から受ける影響としてわかりやすい例が、エネルギー価格や原材料価格の上昇だ。コストアップ要因となるため企業には重要な環境影響だ。
旧規格では「紙・ゴミ・電気」の節約を環境方針に掲げる企業も少なくなかった。目標にしやすいが、ほとんどの企業の場合、コピー用紙から受ける影響は限定される。新規格は経営にも環境にも共通する影響を考えるように促す。エネルギー問題のような経営上の大きな影響があれば、その影響の軽減を目標にする。
「利害関係者のニーズ及び期待の理解」も本業での貢献を促す要求事項だ。顧客ニーズを理解して新しい省エネ型製品を開発できたら販路を開拓できる。
「リスク及び機会への取り組み」も同じ。工場の公害はリスクだが、排水や排ガスを浄化する装置の開発はビジネスチャンスとなる。つまりリスクと機会は表裏一体であり、積極的にチャンスをつかむことも求めている。
他にも「リーダーシップ及びコミットメント」「事業プロセスへの統合」など、新規格には経営と環境貢献を直結させるキーワードがいくつも盛り込まれた。
環境負荷を低減する製品の販売は利益につながるため、息の長い環境貢献ができる。経営上の影響の特定も同じで、対策を講じると成長の制約を取り除けて経営にプラスとなり、社会の環境負荷の低減にも役立つ。環境保全は対策が進むと次第に効果は小さくなり、コスト負担が増えるばかりだった。新規格を実践すると事業成長と環境貢献を両立できると期待される。
■セミナー・相談会、移行をサポート
旧規格を取得している企業は、今後3年以内に新規格への移行が求められる。日本適合性認定協会で認定されたマネジメントシステム認証機関などでは、新規格の改訂のポイントを解説するセミナーなどを実施し、今後の対応をサポートする。
日本能率協会(JMA)では個別の研修メニューを用意する一方、10月30日14時半から東京・港区の同協会研修室でISO9001、ISO14001同時の無料説明・相談会を開催する。
日本規格協会(JSA)でも審査登録無料説明会をはじめ経営者から初心者まで幅広く現場を支援するセミナーや研修などを用意している。また今回のISO規格改訂に対応するJISの発行が11月20日頃予定されているが、それに対する説明会も行っていく。
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