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地域応援隊

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オンリーワン技術でひた走るエクセレント企業
 埼玉西部地域

9月24日(木曜日)付 日刊工業新聞 15面〜17面

 原油価格が下降気味など、世界経済に減速の兆しがある。日本でも、消費増税後の国内消費が冷え込み、追加増税に慎重な見方も出てきた。一方、機械などの設備投資は7月頃から回復傾向をみせており、景気動向はまだら模様。国内経済が一進一退の踊り場の様相を呈する中、中小企業の奮闘は続く。埼玉西部地域に拠点を置く有力企業の最新動向を追った。(順不同)

■白河工場、増設棟が稼働

大口径シームレス管拡管機

 日本伸管は、白河工場で進めて来たアルミ管引き抜き加工に関する増設投資を完了し全面稼働した。OA機器向け精密V字溝入りマグネットローラーの量産ライン、直径350ミリメートルまでの大口径シームレス管拡管機(写真)を導入すると同時にテクニカルセンターを建設した。

 マグネットローラー量産ラインは、溝深さのバラツキをプラスマイナス6マイクロメートルに抑えながら、従来より生産性を高めた。直径350ミリメートル拡管機は、高い真円度など高精度性が特徴。

■白金測温抵抗温度計で豊富な実績

極最小型白金抵抗素子「NES―OV45」

 ネツシンは「白金測温抵抗素子を限りなく点に近づける」との社是の元、世界最小クラスの製品を相次いで市場投入してきた。最新型の極最小型白金抵抗素子「NES-OV45=写真」は、感温部の寸法0.5ミリメートルと自社最小品比5分の1に小型化。アンプルを用いたDNA増幅やiPS細胞の培養に用いるサーマルサイクラ装置向けなどに用いる。測定温度誤差でプラスマイナス0.1度C以内の高精度判定が可能。

■CFRP熱間プレス量産成形で増産投資

 チャレンヂが三菱レイヨンと共同開発した炭素繊維複合材(CFRP)の熱間プレス成形法「PCM工法」が好調だ。欧州メーカーが同工法を正式採用。国内、米国の大手自動車部品メーカーとも同工法の実用化実験に入った。増産体制整備のため本社工場の増設にも近く着手する。

 5分程度で成形できるなど、従来のオートクレーブ式に比べ圧倒的に成形時間を短縮した。完成品の強度などは、オートクレーブと同等。

■生菓子向け製菓機械が受注好調

蒸し菓子機

 マスダックは、製菓機械の製造販売と生菓子のOEM製造が二本柱。前3月期は、好調な製菓機械受注が寄与するなどして、過去最高の売上高を記録した。国内では、コンビニエンスストアなどでの生菓子需要の伸びに支えられ、需要は底堅い。欧米などでは、受注が好調なサンドイッチパンケーキマシン、マンジュウファンケーキマシンのほか、蒸し菓子機(写真)にさらなる伸びが期待できる。

■精密機械向け梱包などに強み

 モスト技研は、精密機械、重量のある機械部品向けなどの梱包材の設計製造が強み。電子顕微鏡や大型プロッターなどの精密機器から、発電機などの重量装置、ミサイル弾頭に至るまで多岐にわたる重要輸送物の梱包を手がけてきた。簡単に組み立てられる強化段ボールベット「モストエコベッド」も開発。組み立て前は一抱えで運べる可動性に加え、10トンの加重に耐える堅固さやリサイクルゴミとして出せる点が高い評価を受けた。段ボール製家具や被災時用のトイレも取りそろえた。

■タイでスリット加工

本社工場から移設したスリッターマシン

 垣堺精機は、タイの子会社工場に、本社工場からスリッターマシン(写真)を移設した。自動車や電子部品関連の現地日系メーカー向けなどに各種金属コイルの分割切断/巻き取り加工を請け負う。受託加工が軌道に乗り次第、装置のノックダウン生産に着手するほか、東南アジア全域をにらんだ営業の核拠点として活用する。

■新型点字メモ機発売

 ケージーエスは、音声出力機能を備えた新型の点字メモ用電子機器「ブレイルメモスマート16」を発売した。操作内容や入力した点字文章を、日本語音声で聞くことができる。入力点字データを漢字やカナ交じりの日本語文章データに自動変換する機能も追加した。一度に点字16文字を機器上で再現する。パソコンに接続してメールやインターネットも操作可能。

■欧州で航空機足回り部品受注

 三芳合金工業は、各種銅合金製品製造を手がける。消しゴム用金型や、航空機向け足周り部材などで高シェアを持つ一方、顧客層は製造業全般に幅広い。三陸沖海底に敷設されている地震・津波観測網の部品などにも、同社の銅合金が利用されている。新たにフランスの航空機部品大手メシア・ブガッティ社から銅合金製品に関する品質認可を受けた。それに伴い、欧州向けに航空機の足回り用軸受部品を初受注した。

■画質2倍のアナログ映像向け光通信機発売

アナログ映像信号向け光送受信機セット

 七星科学開発センターは、映像の色再現性など画質を自社従来機比で約2倍に向上した、アナログ映像信号向け光送受信機セット(写真)を発売した。光ファイバー一芯で、アナログカメラなどの映像信号を単方向で送信するほか、カメラのコントロール用制御信号1チャンネルを双方向送信できる。約30キロメートル送信可能。RS232C対応品のほか、RS422/485対応品も用意した。

■深絞り量産加工に強み

 吉野プレス工場は、大正12年の創業で、深絞り加工の量産化に強み。川崎油工製深絞り用油圧500トンプレス機をはじめとする大型タンデムプレス機を用いて、燃料タンク・自動車部品・医療機器などさまざまな分野に製品を供給する。高張力鋼板のプレス加工にも対応。

■医療機器で自社ブランド開発

 幸大ハイテックはプリント基板、電子機器、FA機器などの受託製造を手がける。各種センサーを利用した電子制御技術が持ち味。電子機器製造では特に医療機器に軸足を移しており、実績豊富な内視鏡の本体を始め、簡易聴力診断機、歯垢除去機、新生児保育器など幅広く扱う。

 新たに医療機器を末端ユーザーに外販できる販売業の資格を取得。11月の薬事法改正で医療機器事業参入の垣根が下がるのを見据えて、自社ブランドの開発に取り組む。

■洗浄機を累計1000台出荷

複雑形状部品用洗浄機

 東洋パーツは、ステアリングやターボチャージャー向けなど自動車部品加工を手がける。こうした複雑形状部品を洗うための現場需要から洗浄機(写真)を17年前に開発。現在は「水神くん」、「風神くん」、「竜神くん」の3タイプ累計で1000台近くを販売。

 ロングランで売れており、日系海外工場での導入が増えている。同洗浄機シリーズは、移動機能もある複数のノズルから高圧でお湯を吹き付けて切りくずや油などを除去する。

■油圧バルブユニット生産開始

 新電元メカトロニクスは、新設の茜台工場を全面稼働した。建機や産業機械向けなどに油圧ソレノイド生産を手がける。7月からは、ソレノイドを組み込んだ油圧バルブユニットの生産にも着手した。油圧バルブユニットの生産では、当面は複数機種混載の1ライン体制で行う。今後は、部品など内製化を進めるため、新たにコイル巻き線機、溶接機、数値制御(NC)旋盤などの新規導入も進めていく。

■トルンプ製  光ファイバー加工機・溶接機導入

トルンプ製ファイバーレーザー加工機

 野火止製作所は創業50年を超える板金とレーザー加工のメーカー。看板などのサイン事業と、各種部品加工が二本柱。トルンプ製ファイバーレーザー加工機(写真)、同溶接機、バリ取り面取り機などを新たに導入。短納期、高品質化のため内製化を進めている。トルンプ製ファイバーレーザー加工機は薄板だと従来比10倍の加工速度。同溶接機は溶接痕がきれいで、薄板の溶接もゆがめずにできるのが特徴。

■ステンレス並みの高耐食アルマイト処理が好調

 エムエフケイは、蓚酸アルマイト、硬質アルマイトを始め、アノダイズ、電解研磨、化学研磨、精密洗浄などの表面処理およびオリジナルコートを手がける。中でも独自の「MFコート」は10-15マイクロメートルの厚さでステンレス並の高耐食性を実現する優れたアルマイト被膜。半導体製造装置や油圧・空圧シリンダー向けなど、高耐食性や耐摩耗性が要求される分野に豊富な採用実績。

■選針圧電アクチュエーターでトップシェア

ニット編み機の選針圧電アクチュエーター

 ワックデータサービスは、ニット編み機の選針圧電アクチュエーター(写真は実地試験中の新型)の製造販売が主力で、丸編み機向けでは世界でも市場占有率7割とトップシェアを握る。社内システム整備のため、新たに在庫管理システムのカスタム導入に着手。年明け頃の稼働を目指す。「稼働により、顧客への高応答性を図ると同時に二重発注などの無駄をなくす」考え。開発、設計、営業が一堂に会して製品開発を進める「デザインレビュー」も開始した。

■柳下技研に協調融資

 武蔵野銀行は8月29日、群馬銀行、商工中金など6行と共同で、柳下技研(埼玉県和光市、柳下勇社長)に対して、12億円のシンジケートローンを組成した。

■コジェネレーション設備でリース事業

 武州ガスは4月、環境エネルギー部内に新たにエネルギーサービスグループを新設。ガスコジェネレーション設備やガス空調機器のリース事業に乗り出した。リース方式により、導入初期コストを下げることで、ガスコジェネレーションなどのさらなる普及を目指す。

 

埼玉県西部地区ビジネス交流セミナー/企業人の安心と安全

 埼玉産業人クラブ・西部支部(細沼哲夫支部長=日本伸管会長)は7月23日、埼玉県川越市の川越プリンスホテルで埼玉県西部地区ビジネス交流セミナー「企業人の安全と安心」を開いた。ビジネスセミナー(1)では、元警視庁捜査一課長の光真章氏が講師として「警察捜査の社会的役割と企業人の危機管理について」をテーマに講演した。ビジネスセミナー(2)では、東京電機大学理工学部教授の椎葉究氏が「食品と微生物のとても深い関係-病気を予防する食品とは」と題し、講演した。地元経営者など約100人が参加。セミナー終了後には懇親会が開かれ、参加者による活発な交流が行われた。

【講演1】
警察捜査の社会的役割と企業人の危機管理について

元警視庁捜査一課長 光真章(みつざね・あきら)氏

光真章氏

元警視庁捜査一課長 光真章氏

 皆さんこんにちは。元警視庁捜査一課長の光真章です。今回は企業人の危機管理について、知っておいていただいたほうがよかろう、という体験をいくつかご紹介し、その体験談を通じて、いわば危機管理のあり方ということについてお考えいただきたいと思います。

■警視庁捜査一課の役割

 さっそくですが、まず最初に、警視庁捜査一課の役割についてちょっと触れさせていただきます。全国都道府県警察には捜査一課があり、それぞれに課長がいる。捜査一課長は主に凶暴事件といわれる殺人事件や列車事故などを含めて指揮をとります。警視庁捜査一課長は、就任時に全国紙に就任記事が載ります。例えば顔とか、人物とかのコーナーで、現場を扱う担当者として格別な取り扱いで紹介されます。警視庁捜査一課長以外にも東京地方検察庁特捜部長などの方々が載ります。私も地元紙の北国新聞のコラムに載りました。

 警視庁は首都警察だからいろいろな事件・情報を扱う。警視庁捜査一課長というのは、重大事件の陣頭指揮をとり、全国の安全・安心・治安を担うのが役目です。花形ポストでマスコミの注目度も高いです。それでは、警視庁捜査一課長は警察階級でみると、一体どのくらいの地位にあるのかというと、警察一の花形部署のトップではありますが、上から数えて60番目になります。

 東京地検特捜部はご存じの通り、政財界を巻き込んだりする経済事案を扱っています。マスコミの取材を受けることで我々もいろいろな事件の情報を公表する際には互いにとってよい関係で協力しています。現在は、明治14年からカウントして第68代の警視庁捜査第一課長が活躍しています。私は退職して7年になりますが、63代目でした。

■個人情報漏洩について

 今回は個人情報の管理漏洩で経験したことをぜひともお話したいと思います。現在、1000万件もの会員顧客の個人情報が名簿業者に漏洩したことが判明したベネッセコーポレーションの事件は、私に言わせれば起こるべくして起こった事件です。むしろ、これを機に個人情報管理の重要性が高まったと思います。

 今からお話するのは、平成18年の時に起こった個人情報の管理漏洩事件の話です。ある警察OBから相談がきた。情報処理大手企業に、ある男が記録媒体を持ち込んできたという。それには都内のある区の住民基本台帳に記載された情報が結構な人数分入っていた。マスコミには捜査中ということで伏せておいたが、記録媒体の中身の情報はほぼ、本物だということが判明した。それで、どういう捜査になるかという話しになった。不当競争防止法のくくりで、著作権を無駄に使ったということで捜査することになった。暗に金銭や物品を求めた、ということで恐喝未遂で記録媒体を持ち込んだその男ら関係者を逮捕した。よく調べると100万件にも及ぶ個人情報データが入っていた。まだ拡散される前で、逮捕した男が持っているだけの状態だったので大事にはならなかったが、ベネッセの事件のように一度名簿業者やさらにそこから拡散されたら手の打ちようがない。

 意外とIT技術の分野は年配の人を含め、よく分からないものです。顧客情報だけに限らず自社の社員情報も含め、派遣社員を雇ったり業務委託していると、情報は自分の手中では抑えられない。企業側は情報が漏洩しないよう相当な努力をしないといけない。

■企業恐喝事件

 企業恐喝事件も何件か扱いましたが、食品に毒物を混入する事件が起きた。社内の不祥事を暴露するぞ、という脅しに対し、どう対処するか。その場合は速やかに警察に頼るのが一番だ。この事件の始まりは関西に本社を置く、ある食品会社の某支社に「製品に毒を入れたぞ」との電話が入ってきた。他府県で発生した事件は事案が発生した現場を管轄する警察が扱うものと規定されています。しかし、県境をまたぎ、どこで扱えばいいか、やるところがなければ引き受けてやる、というポリシーでやっているのが警視庁捜査一課です。それで、引き受けました。犯人から電話がかかってきたら、今度は東京本社に電話を回せ、と指示を出しました。そうすれば警視庁の事件として扱うことができるからです。

 当時は通信会社に協力を求め、犯人がいる発信地を教えてもらって捜査した。最初は犯人のほうが力を持っている。犯人側の情報を得て、その力関係を逆転させ、最後は網の中に追い込むのがセオリーです。犯人の言うペースに乗っているように見せかけて計算通りには行かせない。例えば、犯人が求めてくる状況を、アクシデント発生によって犯人の想定通りにやらせない、こちらのペースに持って行く、というのがそのやり方です。

 犯人が「2億円をバッグに入れて新幹線に乗って名古屋駅で降りろ」と言ってきても、「乗り過ごしてしまいました」、と答える。次の段階では「京都駅で降りろ、駅前のレンタカー屋で車を借りろ」と言われても、「免許を持っていないです」と答えて、捜査員側が有利な状況に持って行き、犯人を逮捕しやすい状況へと追い込んでいくのです。

 面白いもので、大金を目の前にした犯人は視野が狭くなります。我々は捜査している中で、よく「目が点になる」と言っています。お金の入ったバッグを鎖につないで置いておくと、犯人はもう目の前の金が欲しいからバッグを引っ張ったりして何とかして持ち去ろうと必死になる。そんな状況になって捜査員が登場、まるで漫画みたいな状況で犯人を逮捕しました。

■連続放火事件

 連続放火事件も扱いました。連続放火魔というのは、あれは病気です。放火犯について、我々は現行犯でないと逮捕できない。放火事件は証拠が残らない。そこで、犯人は否認するが、「常に現場にコイツがいるぞ」という状況証拠を根拠に通常逮捕しよう、という事案もあった。何より、次の犠牲者を出さないために他なりません。

■スリ犯

 現行犯逮捕がなかなかできない事件は、スリ犯の逮捕も同じです。韓国人のスリグループが乗った電車の中で度々、スリ事件が発生した。しかし、犯人を捕まえてみても証拠品がないから、ということで逮捕できない。これは、犯人Aは乗客から財布を奪う担当が自分の役目で、犯人Bは、犯人Aから奪った財布を犯人Cにサッと渡すのが役目。そして、犯人Cは受け取った財布をさらに犯人Dへ回していく、といったように役割を分担しているため、なかなか犯行現場や証拠を押さえられないというのが実際の状況でした。しかし、そのグループが乗った電車の中では被害が実際に起こっている。我々は犯人を逮捕し、裁判にかけて、有罪判決にするというところまでやるのが最終目標なのですが、その課程の中で、時として事件が崩れてもいいから逮捕しないといけないという風に捜査の流れも変わってきています。この犯行グループを逮捕したことで列車内スリは激減しました。

■予防捜査に注力

 現在では、予防捜査ということも大きな動きになってきています。かつてはなかったのですが、ストーカー事件をどう予防するか、というのが大きな問題になってきています。さらには、中国人留学生などが気軽に自分の銀行口座を犯罪組織に売ったりして、その口座が振り込め詐欺などの犯罪に利用されることをどうやって防止するか、ということも問題になっています。

 また、さきほどお話しましたベネッセコーポレーションなどのような個人情報漏洩事件については、持ち込まれた情報が盗まれたものであることを、買った側の名簿業者側が知っていたかどうかが焦点になります。これは買った側の心の中、内心を問うことになるので捜査する側にとっては非常に難しい仕事になります。

■犯行の理由を徹底検証

 「立ち小便の理論」というのがあります。これは、ある男がある場所で立ち小便をした。立ち小便はどこでもできるはずなのに、その男は「なぜ」、「その場所」で立ち小便をしたのか。理由を突き止めること、「なぜ」を突き止めるには、犯人をよく取り調べてみないと分からない。

 犯罪の証拠がそろっているだけではダメで、犯行を犯した理由を徹底的に調べあげることで、ようやく適切な量刑を求めることができる。現在、冤罪(えんざい)がなくなるよう司法制度改革も進められています。

講演する光真章氏

 さて、私は警察官の受験月報「Vamos!」(警察研修社)に、コラムを4年ほど前に書いていたのですが、これまでの捜査経験を一冊の本にまとめました。小冊子『刑事たちのCOFFEE・BREAK』です。警察の若手育成のために書きました。公安事件の捜査も、どういうやり方をしているのかについても、支障のない範囲で書いています。会場のみなさんに一冊ずつ差し上げますので、ぜひ読んでみてください。

 


【講演2】
食品と微生物のとても深い関係
     -病気を予防する食品とは

東京電機大学理工学部教授 椎葉究氏

椎葉究氏

東京電機大学理工学部教授 椎葉究氏

発酵食品の力で丈夫で長生き

 本日は、一人ひとりの体内にいる微生物の話、腸内細菌の話をご紹介させていただきます。「人間と食品と微生物の深い関係」ということで、キーワードとして食品、環境、発酵、腸内細菌、遺伝子、病気予防の話をしたいと思います。

 微生物というとどうしてもアメーバなどのイメージがあるのではないかと思いますが、微生物といってもすごく広い範囲ですね。実は人間や植物に比べて微生物の方がずっと広い範囲を表します。生物というのは動物、植物、微生物に分かれますが、微生物が一番大きいところを占めています。

微生物とは

 微生物といっても真核微生物、原核微生物、古細菌の三つの大きいグループがあります。真核微生物というのは植物や動物に近いです。例えば動物と(真核微生物の)カビは非常に近い関係、微生物の方からみれば人間とカビは遠い親戚といっていいぐらい近い仲間だということがわかります。

 その歴史なんですけれども、46億年前、地球が誕生したといわれています。38億年前には細菌のような原始生命体ができていました。思ったよりも早い段階で、生物ができているのがわかると思います。いまから33億年前に細菌と古細菌が分かれました。27億年前、シアノバクテリアと呼ばれる微生物が大発生しました。これがなぜ地球上にすごく影響を与えたかというと、これが酸素をつくったんですね。われわれ酸素を必要とする生物が地球に出てくるようになったということがあります。

 21億年前、放線菌やグラム陽性菌が出てきました。18億年前、ようやくわれわれの祖先である真核生物ができてきました。15億年前には酵母が出てきました。9億年前、動物、植物、菌類がようやく分岐しました。それから2億年前、ほ乳類が誕生し、恐竜が全盛期を迎えました。1億年前、寒冷化が起こって、生物種が激減し、隕石(いんせき)が衝突しました。500万年前にヒトとサルが分岐しました。そういう歴史があることが、遺伝子を分析することからわかってきました。

微生物と人の密接な関わり

 微生物がわれわれにとって、非常に身近な存在であることがわかっています。微生物と人間はいろいろな関わり方がありますが、人間が積極的に微生物を利用している分野があります。発酵食品、医薬品、環境浄化、工業製品などです。これに対して、人間が微生物に対抗して関わっている分野があります。例えば腐敗に対しては保存法、容器を人間は発明してきました。病原菌に対しては抗生物質を、毒素に対しては界面活性剤や殺菌剤を、さびに対しては酸化防止や抗酸化をつくってきました。

 従来の食品における微生物との関係性ですが、食品製造に積極的に利用する発酵食品がありますし、食品製造上好ましくない腐敗微生物とその繁殖を防御するものとして原料の保存、保管、調理、包装などの食品製造工程管理が開発されてきました。

 人間の衛生上好ましくない病原微生物の混入と繁殖を防ぐものに工場の衛生管理がありますし、食品残渣などの廃棄物を微生物により処理する技術もあって、微生物と食品の関係は拡大してきました。

発酵食品の効用

 発酵食品で利用されている代表的な微生物には、みそ・しょうゆ・酒に利用されている糸状菌(麹〈こうじ〉)、パン・ビールに使われている酵母、食酢やナタデココに利用されている酢酸菌、ヨーグルトや漬物に利用されている乳酸菌、納豆に利用されている納豆菌があります。

 これらは健康にいいといわれてますけれども、例えば納豆の栄養効果としては、血液凝固因子をつくるのに不可欠なビタミンKや大豆由来のたんぱく質が豊富とか、「プレバイオティクス」と呼ばれる腸内環境に有用な成分があるとか、納豆菌は「プロバイオティクス」と呼ばれ、腸内環境に有用であるとか、病原性大腸菌O157、サルモネラ菌に対する抗菌作用も立証されているとか、納豆には血栓を溶かす酵素が含まれ、ナットウキナーゼを投与したイヌで血栓の溶解が観察されているとか、ポリグルタミン酸にはカルシウムの吸収促進効果があるとか、納豆菌の一部は安定した芽胞のまま腸内まで生きて到達してビフィズス菌を増やし腸内環境を正常化するとか、納豆の水溶性食物繊維や粘性の高い成分が血糖を抑制する効果が確認されているとか、いいことだらけですね。

病気予防と微生物

 ここからは、食品の腸内微生物に与える影響と病気予防について、最近の科学を踏まえながら話をしたいと思います。

 人間は非常に多くの数の微生物を持っています。例えば口の中には1平方センチメートル当たり約1億個、皮膚には1平方センチメートル当たり100-1000個ぐらいです。一番多いのは大腸ですね。1立方センチメートル当たり100億-1000億個ぐらい微生物を飼っています。

 ヒト1人当たりの腸内細菌数は100兆個。ヒト1人の細胞数は60兆個しかないですね。ということは、微生物の方が多いです。しかも1キロ〜1.5キログラムぐらい重さがあります。非常に多くの微生物が存在していることがわかると思います。

 最近、この微生物が何をやっているのかを「メタゲノム解析」という解析方法で、培養することなく環境中の微生物の遺伝子配列を分析して、菌の種類や遺伝情報を知ることができるようになりました。1990年代ぐらいから急速に発展してきました。

 そういった解析方法から、腸内微生物がどういう働きをしているかがだんだんわかってきました。プラスの機能とマイナスの機能があるということですが、プラスの機能として病原細菌からの感染防御や腸免疫能力の向上、代謝の促進、ビタミンB12やビタミンKなどの有用成分の生産などがわかってきました。

 マイナスの機能には有害菌の増殖による腸免疫能力の低下、発がん性物質の生産、粘液バリアー機能の低下があります。われわれとしてはプラスの機能を伸ばしてマイナスの機能を抑えることが必要だと考えています。年齢との関係もわかってきました。例えばウェルシュ菌という悪玉菌は(年齢とともに)だんだん増えています。

腸内細菌の由来と特徴

 それでは腸内細菌はどこからきたのかといいますと、生まれてすぐの場合、赤ん坊のおなかの中には腸内細菌はゼロなんですね。一つは出産時や授乳のときに母親から伝播し、もう一つは環境、食事から伝播するといわれています。

 成人の腸内細菌のうちバクテロイデスという菌はどういう菌かというと、グラム陰性の偏性嫌気性非芽胞形成桿菌で、重要なのは人間が消化できない糖を代謝できる遺伝子を持っているという点です。宿主の生理機能にも影響を与えているとの報告もあります。実際に肥満の人とバクテロイデスはどういう関係があるかといいますと、肥満の人はファーミキューテス(という種類)が非常に多くてバクテロイデスはほとんどいません。肥満でない人はファーミキューテスが減ってきてその代わりバクテロイデスが増えているということがあります。こんな形で、食生活と肥満との関係が明らかになってきました。

 腸内微生物の遺伝子を解析すると、腸内細菌中の遺伝子について、日本人と欧州人の共通遺伝子は20%しかありません。ところが欧州人とアメリカ人は共通遺伝子が57%あります。こういったものは食習慣や環境の違いに影響を受けているということがわかりました。重要なのはヒトの遺伝子の違いは人種、性別間でわずか数%にすぎないということです。そのことを考えると、この差というのは非常に大きいといえます。

理想的な和食

 和食の理想は1975年のメニューだとする東北大学の研究がありました。1975年ごろの典型的な和食は非常に果実類、海草類、魚介類が多いことがわかります。発酵食品が糖質のもので、良質のたんぱく質があるということで日本人にとって腸内細菌によいものが生まれています。1975年が理想的だったということが腸内細菌の方からも理解できます。

 海草類などの難消化性糖質や発酵食品を食べて期待される効果としては、腸内微生物のプラス機能が働いてマイナス機能が抑えられますので、肥満防止、感染症予防、血圧降下、血中コレステロール低下、抗がん作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用、免疫力の亢進といったことが起こってくることがわかっています。こういった食品を食べることが非常に重要です。

竹の魅力

 当大学で研究している腸内細菌と環境保全に寄与する食品について紹介します。

 竹は成長が早く、多糖類が多い。これを利用して腸内環境改善とバイオマスエネルギーに利用できないか。竹から生理活性物質をつくる方法を研究しておりまして、これを応用して化粧品や食材、医薬品に使おうとしています。「ヒトの健康とエネルギー循環に資する竹の総合利用に関する研究」ということで、腸内細菌を活性化する素材、抗酸化を有する素材、再生可能エネルギー素材として竹を利用する研究です。

 病気を予防する食品とは、バクテロイデス、ビフィズス菌、乳酸菌などの腸内微生物が喜ぶ食事を心がけるということが重要ではないかと思います。発酵食品や海草類などを食べると特に日本人にはいいです。自分の体内にいる微生物を大切にしてほしいと思います。

 


メッセージ/川越商工会議所会頭 立原雅夫氏
「想定外危機への対処」

立原雅夫氏

川越商工会議所会頭 立原雅夫氏

 本日は、埼玉産業人クラブと川越商工会議所、日刊工業新聞社が共催する埼玉西部地区ビジネスセミナーにお越しいただきき、誠にありがとうございます。常日頃、川越商工会議所の諸活動にご参加・ご尽力いただいておりますこと、この場を借りて、改めて御礼申し上げます。

 埼玉産業人クラブは、設立よりおよそ50年間に渡り、各種表彰や顕彰会、講演会、勉強会など埼玉県の企業や行政、各種団体向けに交流を広める場として活動してきました。埼玉西部地区におきましては、本日開催のビジネス交流セミナーを毎年開催し、川越をはじめとするエリアにおける経済界の交流を深めて参りました。本日のセミナーテーマは「危機管理」に軸足を置いております。昨今、企業においても、想定外の危機が降りかかることがあり、いずれも単独の企業では解決不能な案件が多々散見されます。そうした局面に遭遇した場合、どのように対処すべきか、本セミナーを参考にしていただけたらと思います。

 最後になりますが、本日のセミナー開催にご尽力いただきました、関係各位に改めて御礼申し上げまして、挨拶とさせていただきます。

<出稿企業一覧>

企業名    新聞広告
三芳合金工業 銅合金製品のパイオニア
垣堺精機 スリッターマシンでオンリーワン
ネツシン 白金測温抵抗温度計のトップメーカー
日本伸管 アルミ伸管の国内トップメーカー
マスダック お菓子作りをもっと美味しく、新しく
幸大ハイテック 医療機器の自社ブランド品発売へ
野火止製作所 最先端のレーザー加工機導入
武蔵野銀行 柳下技研に協調融資
エムエフケイ アルマイトでステンレス並の高耐蝕
ワックデータサービス 丸編み機用圧電選針圧電アクチュエーターでトップシェア
吉野プレス工場 深絞り加工で90年の実績
新電元メカトロニクス ソレノイドの総合メーカー
東洋パーツ 洗浄機累計販売1000台へ
ケージーエス 点字機器ソレノイドで世界シェア7割
七星科学開発センター 光通信機器のパイオニア
武州ガス 埼玉西部の都市ガスはおまかせ
チャレンヂ CFRP部品を5分で成形
モスト技研 段ボール家具の販売を拡大

 

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