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業界展望台

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進化する省エネ技術 クリーンルーム

5月26日(火曜日)付 日刊工業新聞 23面~25面

 空気中の塵やホコリ、有機化合物、微生物などを低減し、温度、湿度、圧力などを制御した清浄空間を作り出す施設であるクリーンルームは電子部品、精密機械部品から化学品、医薬品にいたるまで、幅広いモノづくり分野で利用されている。産業界では環境に配慮したモノづくりを行っていくため、より一層の省エネルギー化実現に向けた取り組みが加速している。クリーンルームでも課題となっているのが省エネ化だ。

ISO改訂へ

 クリーンルームはインダストリアルクリーンルーム(ICR)とバイオロジカルクリーンルーム(BCR)という二つに分けることができる。

 ICRが利用されるのは電子部品、基板、半導体デバイス、フラットパネルディスプレーといった製品の製造や高精度が要求される精密機械・機器といった製品の開発・製造現場だ。温・湿度を管理するほか、不良品の原因となるパーティクルやコンタミネーションといった浮遊微小粒子、分子などを捕集・除去することでクリーンな環境を作り出す。また、ICR内は半導体デバイスの製造プロセスに利用する材料や薬液なども高い清浄度を保つことができる。

 BCRは医療関係、食品工場、医薬品工場、動物実験施設などで利用される。室内の生物微粒子や非生物微粒子のほか、温度、湿度および室圧力を制御する。微生物の排除や細菌がほかのものを経由して感染する交差感染などを防止する。失った臓器や組織を細胞によって再生・修復する治療法「再生医療」では高度な清浄環境を維持できるBCRが不可欠だ。

 クリーンルーム関連の国際規格はBCRとICRで異なる。BCR関連はISO14698「クリーンルーム及び関連制御環境」、ICRはISO14644「クリーンルーム及び関連制御環境」である。

 ICRの清浄度表示は基礎となる体積や粒子径などによりクラス分けされる。現在利用されているのはISO14644-1とJISB9920によるクラス分けだ。ISOはJISが骨格となって制定されたものである。ISOクラス1、JISクラス1はいずれも1立方メートル当たりの1マイクロメートル以上の粒子(塵埃)が10個以下に管理されている清浄度。最先端の半導体ウエハー工程で求められている清浄度はISOクラス0から1である。

 ISO14644-1は1999年に発行された国際標準であり、改訂に向けた取り組みが進んでいる。2014年には国際規格原案(照会原案)であるDraft International Standard(DIS)が公開された。国際規格としての改訂版発行はもうすぐそこまできている。

気流などを改善

 半導体など精密製品製造で利用されるクリーンルームでは特に高いレベルの清浄環境と徹底した温湿度管理が要求される。そこで問題となるのがエネルギーだ。クリーンルームは室内の温度や湿度、清浄度を管理する空調システムと熱源機器、塵や埃を進入させないHEPAやULPAフィルターなど多くの設備で構成されるため、消費エネルギーは大きい。

 それが半導体製造におけるプロセスの微細化進展によって、ウエハー工程で要求されるクリーン度は高まり、管理すべきパーティクルやコンタミネーションなどのサイズはこれまで以上に小さくなっている。温湿度の管理もより一層、シビアになり、省エネ化の実現は厳しくなっている。

 そうした状況を背景にクリーンルームメーカーでは全体を超高清浄化するのではなく、必要な部分を必要なだけ、局所的にクリーン化する方法や高効率空調機器の開発などでユーザーの省エネ化を支援してきた。これに加えて気流改善、排気量の削減や排熱利用、外気冷熱を活用した熱源システム導入などの省エネ化の提案も行っている。

 また、温・湿度や塵、ホコリの量などのクリーンルーム内の環境情報と電力使用量の「見える化」でエネルギーの無駄を見つけ、省エネ化を支援するソフトウエアの普及にも取り組んでいる。

 一方、クリーンルームユーザーも省エネ化を意識した取り組みを行っている。HORIBAグループは京都市南区上鳥羽鉾立町にある堀場エステック本社棟東側に「HORIBA最先端技術センター」を新設した。このセンターの中核となるのが2700平方メートルのクリーンルーム。ここで生産されるのはガス流量計に利用される流量センサーやガス測定器に搭載されるガス分析センサー、水素イオン濃度(pH)計で利用されるpH測定センサーなど、堀場製作所や堀場エステックの製品に組み込まれる半導体センサーである。前工程、成膜や実装工程などがクリーンルームで行われる。HORIBAグループは環境分析機器を手がけるメーカーであり、環境負荷低減に対して高い意識を持っている。今回のセンターの新設でも省エネ設備を導入。クリーンルームのエネルギー効率を高めているという。

 クリーンルームメーカーと周辺機器や関連機器メーカーはユーザーの省エネ化や安全対策に向けて、多くの課題を解決してきている。しかし、より一層の省エネ化実現にはクリーンルームメーカーだけではなく、クリーンルーム内の機器や装置メーカー、さらにはクリーンルームユーザーとの連携が重要だ。

 

【有力企業の製品・技術】

■ソーゴ

 ソーゴは1968年に設立された断熱パネル、クリーンルーム用パネル、断熱用建具、特殊冷却器メーカー。これまでに培ってきた高度な技術でクリーンルームに要求される不燃・準不燃パネル、防カビ・抗菌鋼板パネル、帯電防止鋼板などを開発。パネル工法の気密性、清浄性、断熱性、遮音性、施工性を活用し、危害分析重要管理点(HACCP)対応の食品工場から精密機器製造、電子機器といった工業系にいたるまで、クリーンルームの空間づくりに貢献している。

 同社は新潟の本社工場をはじめ、北海道、東北、三重、広島、九州の6カ所に工場を設置。安定供給体制を構築しているほか、全国22カ所に営業拠点がある。各地域の業者を優先したビジネス展開で、今後も顧客のニーズに応えていく。 

■ダイダン

 ダイダンの「バリアスマートシリーズ」は外乱に対応した同社独自の製薬関連施設向け室圧制御技術。クロスコンタミネーションのリスクを抑え、菌やホコリなどが侵入しないようにすることで、安定した研究・生産活動に欠かせない高度な室圧環境の構築が可能。

 基準圧を安定化させる「バリアスマートCM」、突風などによる室圧異常の頻度を減少させる「バリアスマートEQ」、扉の開閉に連動して一方向気流を形成し、交差汚染リスクを低減させる「バリアスマートHB」、室圧の安定化を最優先事項として各空調制御機器の動作の協調により、空調システム全体の安定化を図り、除染作業後の厳密なバリア化が可能な「バリアスマートAD」の四つのシステムで構成され、段階的により高度な制御を提供する。

■日本医化器械製作所

 日本医化器械製作所は病院、大学、研究開発施設におけるクリーンルームや環境制御施設の設計・施工を行う。同社は環境測定計測機器システムとカメラ遠隔鑑査システムを開発。環境測定計測機器システムはクリーンルームの清浄度や室圧、温度、湿度、炭酸ガス濃度などを継続的に測定することができる。測定間隔は1-24時間の範囲で任意に設定可能。クリーンルームの機能性維持を実証する記録としても活用可能。

 カメラ遠隔鑑査システムはクリーンルーム内の作業を遠隔地から鑑査することができるため、適切な評価やリアルタイムの作業監視が行える。鑑査画面を動画や静止画として保存でき、実証記録としても活用できる。今年度、それぞれ30台、総額1億円程度の販売を目指している。

■三機工業

 総合エンジニアリング企業の三機工業にはクリーンルームからクリーン搬送、ストッカーなどを提供する幅広い部門があり、連携して品質向上や省エネルギーに取り組んでいる。

 再生医療向けクリーンルームでは「CPCube」を提案し、安全キャビネットからの排気を整流化することで室内清浄度が向上し、20%の省エネを実現する。

 医薬向けバイオロジカルクリーンルームの室内殺菌には人体への発がん性に対する安全を考慮し、過酸化水素を用いたミスト噴霧方式の室内殺菌システムを開発。

 また、半導体や液晶を製造するクリーンルームでは加湿と冷却が同時にできる「Econo-Fog One」や「Package Fog」の導入で、25%以上の省エネ達成の実績がある。

■TRINC

 TRINCはクリーンルーム内でより清浄度の高い空間を作り出す装置「クリーンデスクトップトリンク」を発売した。机上に設置することで0.5マイクロメートル以上の微細異物を除去する。作業に必要なスペースを、約1分でクラス10以下のクリーン環境にする。デスクトップサイズで、体積はクリーンベンチの100分の1程度と省スペース設計だ。

 異物を除去した空気を循環させ清浄度の高い空間を作り、維持する。弧を描く空気の流れがエアカーテンの効果を発揮。塵やホコリの浸入を防ぎ、常にクリーンな空気が循環するためフィルターへの異物の付着も抑えられる。清浄度も高く、評価試験を実施した精密機器メーカーからは「異物による不良の発生がなくなった」と評価が高い。

■パイオニア風力機

 パイオニア風力機のクリーンエアシステムは製品の品質向上や快適な職場環境の実現に大きく貢献し、幅広い業種で好評を得ている。なかでも「クリーンルームダスター」は最も安全で効果的な空気力学を応用した画期的な製品。入口のドアを開けると上部、両側面の高速ジェットノズルから毎秒25メートル以上のエアを吹き出す。これにより毛髪やゴミ、ホコリを吹き落とし足元から吸い取るという独自の機構を採用、洗浄効果を高めている。

 設置が容易な「エアー吸着マット」は靴底や車輪に付着した汚れをスプリングブラシとエア吸引により、瞬時に除去する高性能玄関マット。人や台車が通る時だけスイッチが入り、踏んだ部分だけ吸引するので無駄がなく、省エネルギー。薄型設計で安全性も考慮した。

■高砂熱学工業

 高砂熱学工業はクリーンルームにおける室内環境維持と省エネを両立する課題解決に取り組んでいる。エネルギー消費量の大きい大規模クリーンルームの省エネは室内環境維持との両立が困難だった。その課題解決に有効なシステムが同社の「SWIT-CR(スウィットクリーンルーム)」。SWITは従来の混合空調や成層空調と比べ、搬送動力の低減、室内の温熱と作業環境の改善に適用してきた。

 同社はJISクラス6-8の精密空調クリーンルームでSWITの特性を技術的に検証し、清浄度維持だけでなく、省エネ、省コスト面でも有効であることを実証した。さらにクラス5の超精密空調への適用も展開中。今後、適用範囲を広げ、あらゆる分野での総合的な室内環境システムを目指し、開発していく。

■三建設備工業

 三建設備工業はシステム調整に豊富な経験と高い技術を持っている。クリーンルームでは清浄度の確保とともに室圧の管理も不可欠。特に先端医療等の分野では汚染や感染防止の観点から室圧の維持は重要な要素となる。室圧を常に適正に維持するためには状況の変化に応じて送風量を高速かつ正確にコントロールすることが求められる。同社はこうした要求に応じた環境を提供することできる。

 また、クリーンルームのような特殊環境においても省エネルギーの要求は高まっている。同社のつくばみらい技術センターはすでに建物全館でのゼロエネルギービル(ZEB)化を達成しており、ここで得られたノウハウや要素技術を応用することで、求められる室内環境の実現と省エネルギーの両立に貢献する。

■大気社

 大気社は半導体製造環境の改善と省コスト、省エネ化の実現を図る。超微細化が進んでいる半導体業界の製造環境では生産装置や測定装置の精度に悪影響を与える温度変化・低周波騒音・微振動などを排除していかなければならない。同社は(1)低周波騒音・微振動の制御(2)1000の1度C単位の温度制御(3)温湿度制御(4)ケミカル汚染制御(5)新自動制御-など各技術を最適化することで顧客の課題解決を実現する。

 また液晶業界もガラス基板の大型化やマイクロメートル以下の微細化を見据えた製造環境の改善とコスト削減の要求が大きい。さらなる局所化への対応・使用材料の見直しも重要なテーマだ。同社では顧客に仕様や材料選定について提案し、共に課題を解決していくことで顧客のモノづくりをサポートしていく。

■朝日工業社

 朝日工業社は自動リーク検査装置「SR-E」を開発した。近年、抗がん剤やホルモン剤などの高活性医薬品を製造する医薬品工場が増加。高活性物質は微量でも人体に影響を及ぼすため、封じ込め技術で排気用HEPAフィルターが設置されている。「SR-E」はHEPAフィルターで必要な定期的リーク検査を簡易化、高精度化する。フィルターからの距離、走査速度を一定に維持できるほか、1秒ごとの合否判定も可能。従来のマニュアル測定より信頼性の高い検査を行える。

 また、アイソレーターの給気用HEPAフィルター向けには常設型の「SR-i」を用意。複数枚のフィルターを連続測定可能で検査効率が大きく向上する。同社は今後も医薬品製造環境設備の建設とともに自動検査技術を提供していく。

■新日本空調

 新日本空調は微粒子可視化システムの新製品として、レーザーファイバー可視化光源「パラレルアイF」を開発、市場に投入した。装置内に設置できるコンパクトな筐体で、300度までレーザーシートを広げられる仕様。製造装置にまで踏み込んだクリーン化ニーズへ最適なソリューションを提供して行く。

 また電子デバイスなどの製造プロセス用局所排気設備に特化した耐酸可変風量システム「局排用高速VAV」を開発した。風量測定精度と安定制御に機能を絞り込むとともに、システムを一体化して、コストを従来比3分の1に抑えた。試験導入した工場では単体で40%以上の風量削減を実証。今後、半導体や液晶など電子デバイス工場の新築案件やリニューアル案件に、省エネルギーシステムとして提案する。

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