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業界展望台

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豊かな住まいが豊かな人生をつなぐ 住宅産業

7月14日(火曜日)付 日刊工業新聞 15面〜17面

【「省エネ住宅ポイント」後押し】

 昨年4月1日から始まった8%の消費増税から1年が過ぎた。駆け込み需要の反動などもあり、一時期は落ち込んだ住宅業界だが、回復基調にあるようだ。またスマートハウス(次世代環境住宅)や今年3月から始まった「省エネ住宅ポイント」などの政策が功を奏し、住宅産業はもとより、関連業界も盛り上がりをみせている。この好機を生かすべく、各社が反転攻勢に転じている。

■消費増税の影響一巡−「持ち家」プラスに

 住宅業界は好転の兆しが見えつつある。2014年の消費増税の影響は想定より長引いたものの、そろそろ影響は一巡したようだ。国土交通省がまとめた「建築着工統計調査報告」によると5月の新設住宅着工戸数は前年同月比5.8%増の7万1720戸と3カ月連続で増加した。注文住宅、いわゆる「持ち家」も16カ月ぶりのプラスとなり同1.1%増の2万2542戸となった。

 足元では住宅展示場への客足が回復基調にある。長期固定の住宅ローン「フラット35」の金利優遇など政府の支援策も効いているようだ。17年4月に再度の消費増税を控え、再び駆け込み需要が盛り上がる可能性もある。消費増税を巡っては住宅生産団体連合会(住団連)など業界団体が軽減税率導入を強く訴えている。実現すれば購入意欲を中長期にわたって下支えしよう。

 ただ、中長期的に見ると新設住宅着工戸数は減っていく。野村総合研究所(NRI)の市場予測によると30年度の新設住宅着工戸数は14年度比4割減の約53万戸にとどまる。バブル崩壊後のピークだった96年度の3分の1の水準だ。

 昨今では空き家問題も注目されている。国交省が作成した資料によると13年時点の住宅総数は約6060万戸で、総世帯数に比べて約16%多い。住宅ストックは量的には充足している。

 とはいえ、新築住宅が不要という議論は早計だ。居住者のいる約5210万戸のうち築35年以上の住宅ストックは約1369万戸存在する。このうち一戸建て住宅は約993万戸で、相当数の建て替えが必要と見られる。国交省がガイドラインを策定し、今後は倒壊などの危険性がある空き家の除去が進む見通しだが「壊して終わり」では地域のコミュニティーが揺らぐ。整備した都市インフラも無駄になる。

 住宅の大量供給の時代は過ぎ、住宅メーカーの役割はより質を重視した住まいの提供にシフトしていく。既存住宅の建て替えやリフォームの促進、地域のコミュニティーを活性化するような住まいのあり方も求められよう。事業環境の変化を踏まえ、大手住宅メーカーにも特徴的な動きが見られる。

■多世代交流型賃貸−ファミリー+サ高住

 積水ハウスは2月、ファミリー向け住宅とサービス付き高齢者住宅(サ高住)を備えた多世代交流型賃貸マンション「マストクレリアン神楽坂」(東京都新宿区)を完成させた。入居者だけでなく地域を巻き込んだお祭りなど多くのイベントも開催する予定。世代間交流の減少という社会課題解決に資する取り組みとして期待される。

■エネ自給自足型リフォーム提案

 旭化成ホームズは3階建て住宅「ヘーベルハウス テラ クラフト」の販売に力を入れている。同社が5月に公表した調査報告書によると30年暮らした二世帯同居の満足度は9割を超えたという。テラ クラフトは周囲に建物が密集する立地でも広さや明るさを確保した空間をつくれる。都市部の空き家増加の抑制にもひと役買いそうだ。

 住友林業は耐火建築物として4階建てまで対応する一戸建て住宅「BF−耐火」を発売した。住宅密集地における防耐火のニーズに応えつつ土地の有効活用を提案する。一方では筑波研究所(茨城県つくば市)内部に防耐火試験用の多目的大型炉を設置した検証棟を建設中。10月に完成する計画で、耐火関連の技術開発を加速する。

 積水化学工業は既存住宅向けにエネルギー自給自足型住宅へのリフォームを提案する戦略商品「グリーンシフト!」を発売した。太陽光発電(PV)システムと蓄電池、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)をパッケージ化。築20―30年の“適齢期”の住宅を中心に導入を促し、リフォーム領域でも「スマートハウスNo.1戦略」を推進する。

【住宅用太陽光発電−メーカー増産、高効率化追求】

 住宅用太陽光発電システムが普及期に向けた巡航速度に入った。2014年度は需要が減少したものの、安定した底堅い需要が続く。スマートハウスの標準化や、使ったエネルギーを発電したエネルギーで相殺する「ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)」の実現に太陽光が必須となるからだ。太陽光発電システムメーカー各社も増産や高効率化を追求している。

 太陽光発電協会によると14年度の住宅用太陽光パネルの出荷量は前年度比16%減と減少に転じた。経済産業省が公表する再生可能エネルギー発電所の設備認定からも減少がうかがえる。住宅用が含まれる10キロワット未満の太陽光発電の年度別の増加数をみると13年度は28万件だったが、14年度は21万件にとどまった。

 減少の理由として補助金打ち切りの影響があげられる。13年度末まで住宅用太陽光発電システムの購入に補助金があったが、14年度からなくなった。

 ただ、減少が続くとは思われない。そもそも補助金がなくても20万件の底堅い需要があった。住宅メーカーがスマートハウスの標準化を、政府がZEHを推進しており、太陽光は今後も普及が続く。

 太陽光発電システムメーカー各社も住宅用太陽光に力を入れている。東芝はモジュール変換効率が20.1%の太陽光パネルを販売している。変換効率は高いほど、同じ設置面積で多くの電力を生み出せる。東芝のパネルは1枚で250ワットの発電が可能だ。例えば全体で5キロワットのシステムを屋根に設置する場合、東芝製だと20枚で済むが、一般的な多結晶製だと27枚必要となる。東芝は半分サイズの高効率パネルもあり、通常サイズとの組み合わせで屋根スペースを発電に有効活用できる。

 シャープは3月末、堺工場に14億円を投資し、住宅用パネル「ブラックソーラー」の生産能力を引き上げると発表した。パナソニックも95億円を投じ、島根と滋賀の2工場の生産設備を増強。16年3月に高効率パネル「HIT」の生産能力を拡大する。

 京セラは多結晶と単結晶の両方のパネルを量産するが、住宅用には変換効率が高い単結晶製に切り替えつつある。同社は発電した電力を充電する蓄電池や家庭用エネルギー管理システム(HEMS)とのセット販売にも力を入れている。

 三菱電機は高効率なパワーコンディショナーを製品化した。太陽光パネルの直流電力を交流に変換する効率は98%。太陽光パネルから家庭に電力を送る時に2%しか失われないため、発電した電力をより多く使える。

 

大きなメリットを呼び込む−三世代同居

 厚生労働省の2014年人口動態統計月報年計によると、14年に生まれた新生児は100万3532人。1971年から始まった第2次ベビーブームのピークでは年間200万人の新生児が生まれており、それと比べるとほぼ半減している。少子高齢化問題への対策が喫緊の中、政府は少しでも出生率を上げようとさまざまな取り組みを打ち出している。ここでは住宅に焦点を当て、問題への取り組みを追った。

【ワーキングマザーを支える】

 5月に発表されたWHO世界保健統計2015によると、加盟している194カ国中、日本の合計特殊出生率(女性が一生の内に出産する子供の数)は1.4人。加盟国の平均値は2.5人であり、最下位ではないものの、平均を下回っている。

 さらに、国内の高齢化も依然深刻である。内閣府が毎年発表している高齢社会白書によると、14年の総人口(1億2708万人)に対する65歳以上の割合は26.0%。高齢者人口は過去最高の3300万人に上り、4人に1人以上が高齢者だ。

 出生率の低下は人口減少を招き、将来的に国内の労働力や経済規模の縮小、税収入の減少や年金基金の基盤を揺るがす。一方、高齢化が進むことで行政機能不全に陥る「限界集落・都市」の発生、医療費負担の増加など、国の将来は明るくない。

■労働力確保と少子化対策

 そうした現状を受けて、内閣府では3月に「少子化社会対策大綱」を閣議決定した。今までの大綱とは一線を画し、女性の働き方や結婚観、出産環境の整備など、社会全体で少子化対策に取り組む姿勢を国として推し進める方針だ。その重要課題の中で注目するのが「三世代同居・近居の促進」だ。

 内閣府の資料によると三世代同居世帯率は、80年時点で国内総世帯数の半数を占めていた。それが12年になると15.3%まで落ち込んでいる。

 一方、97年以降、国内では共働き世帯が片働き世帯を上回る状況が続いている。その中で、妊娠を機に離職する女性は、就業する女性の約6割。女性の離職理由は、仕事と育児の両立ができないなどの不安が大半だ。

 労働力の促進として国は女性の就業を推進しているが、それが妊娠・出産をためらう理由になってはならないと、仕事と育児の両立をサポートする役として祖父母との同居・近居を推奨している。祖父母が育児に寄り添う環境を整えることで、ワーキングマザーという新たな労働力を確保しつつ、出生率を上げようという国の意図がある。

■税控除を上手に活用

 国の方針を受け、国土交通省では同居・近居を希望する世帯には優遇策として税負担軽減特例措置を講じている。具体的には二世帯住宅に対し、不動産取得税は課税標準からの控除額を一般住宅の特例(1200万円控除)からさらに拡充し、1300万円までを控除している。また固定資産税について、新築住宅を取得し当該住宅で三世代が一般住宅で3年以上、中高層住宅では5年以上同居状態が続いた住宅を減税の対象としている。

 また、新築住宅にかかる減税特例の減額対象を拡充する。そのほか個人住民税や所得税上でも特例を講じている。

 今回の少子化社会対策大綱では触れていないが、同居については相続税などの観点からも非常に有益だ。1月から始まった相続税の基礎控除額減額に対しても大きな対抗策となっている。

【「地方力」再生へ奮闘】

 国交省の優遇策と並行して、地方も動きはじめている。地域によってはすでに人口減少・高齢化が進んでおり、およそ50年後には地方圏を中心に、全国の4分の1の自治体で行政機能不全に陥るとの予測もある。国からの税優遇策に対し、独自に魅力あるプランを提案。人口流入を推し進めるとともに、弱体化する「地方力」を何とか再生させたいと奮闘する姿が見える。

■地方自治体での動き

 対策を取る地方行政では二世帯住宅の取得やリフォーム・増築に対して補助金を用意したり、定住補助金を給付する動きがある。また、中には二世帯住宅取得に向けた住宅ローンやリフォームローン、あるいは定期預金について金利優遇をうたっているところもある。代表的なものに、東京都北区の取り組みがある。

 毎年東京都が発表している「敬老の日にちなんだ東京都の高齢者人口(推計)」によると、14年の都内高齢化率は22.5%。その中で北区は高齢者の割合が25%を超え、都内23区の中でトップの割合だ。都心に近いため、大きな人口流出はないものの、多世代で同居できる優良住宅が少なく、子育て世帯の減少が近年目立ってきたという背景がある。

 そこで北区は地域コミュニティーの活性化と高齢者の割合の減少を目的に92年から「三世代住宅建設助成」を実施している。これは住宅を新築する際、玄関やトイレ、風呂などに手すりをもうけるなど規定通りの仕様に建築すると、区から定額で50万円が助成される制度だ。建築設計段階から申請し、竣工後は区職員による現地審査が必要だが、同助成に対し、年間12件前後の申請があるという。「実際には区として高齢者割合が低下するなど、問題が解決したといいきるにはまだまだ件数は乏しいが、今後ともファミリー世帯が居住地を決める際の決め手になれば」(北区まちづくり部住宅課)と話す。

■ゆくゆくは介護も

 「三世代同居・近居の促進」について、実施に伴った表向きの理由は「出生率の向上」だが、孫を世話してくれる祖父母世帯が、ゆくゆくは自らの介護などに直面した際に子供世帯から「サポート返し」を期待する面も、三世代同居には込められているようだ。北区のほか、助成申請時に住宅建設基準を設けている自治体は数多く存在するが、多くは「高齢者のためのバリアフリー化」を必須条件に据えているところから、介護を見据えた住まい作りが見えてくる。今後ますます逼迫(ひっぱく)する介護負担を、在宅介護という形で各家庭に割り振りたい自治体の思惑が透けて見える。

■多世代住宅を市場へ

 内閣府による13年度「家族と地域における子育てに関する意識調査」では、アンケート対象世帯の半数以上が三世代同居・近居を理想としており、また、子供が小学校に入るまでの間、祖父母のサポートを得たい現役世帯と、それを手助けしたいと考えている高齢世帯は7割以上にも上っている。一方で実際に同居・近居している世帯は12年では15%ほど。今回の施策により、各世帯の希望と現実のギャップをいかに埋められるかが問われている。

 また、そういった同居希望を持つ世帯に対し、住宅メーカー各社はどのようなきめ細かい提案ができるのか。多世代が一緒に暮らす住宅で、コミュニケーションの円滑さとプライベートの確保をいかにうまく組み合わせるか。大きなマーケットを前に、各社の工夫が詰まった多世代住宅に熱い視線が注がれている。

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