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業界展望台

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安全・安心で高品質に 総合物流
グローバルサプライチェーンの拡充へ

10月5日(月曜日)付 日刊工業新聞 8面〜9面

 生鮮食品から医薬品に至るまでさまざまなモノを運び、生活を豊かにする物流業界。モノを運ぶだけではなく、グローバル化するサプライチェーンの効率性と持続可能性を高めて、スピードがあり安全・安心で高品質な物流網をきめ細かく整備していく「総合物流」が求められている。

■海外拠点を増強−日系メーカー需要対応

 日系メーカーの海外進出などグローバル化が進み、合わせて物流業界ではグローバルサプライチェーンの拡充がより一層求められている。

 日本通運は2015年12月にベトナム・ハイフォンに新たな物流施設を稼働させる。現地法人などを置いていない日系企業に向けて荷物を輸入通関せずに保管できる非居住者在庫に対応する。敷地面積5万5000平方メートル、倉庫面積1万7000平方メートルと、日通がベトナムに保有する自社の物流施設としては最大級となる。

 ハイフォン港はベトナム国内で貨物取扱量が2番目の港湾であり、隣接するディンブー工業団地には、IHIや京セラなど、大手メーカーの入居が相次ぐなど、今後の物流需要の拡大が見込まれている。

 新たな物流施設では非居住者在庫のほか、中国やタイなど周辺国に点在する生産拠点やサプライヤーから部品などの荷物を集めて海上輸送する物流サービスを展開。ベトナムに進出する日系メーカーの物流需要を取り込む。日通のベトナムにおける物流拠点は、ハイフォンで7カ所目で、総倉庫面積は3万670平方メートルとなる。

 郵船ロジスティクスは15年7月、メキシコ・メキシコシティー空港内外に二つの事務所を開設した。空港の保税区域内に航空輸入事務所を、空港外には航空輸出事務所を開設。これまで現地の代理店を通じて行っていた通関への対応や、航空会社との運賃交渉など、航空輸送の輸出入のオペレーションを自社で手がける。

 メキシコは自動車を中心に生産拠点の集積が加速し、物流の需要も拡大。空港に拠点を置くことで、競争力のある運賃の提供と、輸送品質の向上につなげる。

 郵船ロジスティクスでは今後、グアダラハラやモンテレーの空港でも同様の体制を整え、メキシコ発着の航空輸送サービスを強化する。

■ネットワーク活用−生鮮食品の保冷輸送も

 日系企業のグローバル化に伴って複雑化する物流業界。DHLグローバルフォワーディングは、10年にジャパンパワーネットワーク(JPN)を導入。DHLグループが持つ世界最大のネットワーク(220の国と地域をカバー、850拠点)を生かすと同時に日本人現地駐在員による細やかさで対応する。欧州を中心に北米・中南米・アジア諸国でJPNを展開。年内にはタイとインドネシアでも導入し、将来的にはメキシコとロシアにも展開する方針だ。JPNを広げることで、日本発着のビジネスに偏ることなく、現地発のサプライチェーンも含めて柔軟に対応する。ライフサイエンスやリテール、自動車やエネルギーなど各分野ごとに専門のスタッフが広くサポートする。女性スタッフも多く配置され、顧客のニーズを漏らすことなくカバーする。

 グローバルサプライチェーンの拡充により生鮮食品などの迅速かつ安全な輸送にも注目が集まる。日通は日本外食ベンチャー海外展開推進協会(JAOF)と業務提携を結んだ。JAOFは15年12月にシンガポールで会員企業が和食レストランを直営店形態で出店する「ジャパンフードタウン」を開設する計画。

 日通は生鮮食品対象の「NEX-FOODフレッシュ・コンテナ」を利用した航空輸送や海上冷凍混載などの一貫輸送サービスで、JAOFの会員企業を物流面でサポートする。JAOFは日本の食文化や食材を世界に広げるため、13年12月に設立された。今後はジャパンフードタウンを欧州や北米にも立ち上げることを目指している。

 一方、ヤマト運輸は日本からシンガポールに向けて冷蔵・冷凍品を宅配する国際クール宅急便を15年8月から開始。全日本空輸(ANA)と運用する沖縄・那覇空港内の貨物拠点「沖縄貨物ハブ」を経由し、生鮮食品などをシンガポールに保冷一貫輸送する。13年10月から国際クール宅急便を始めており、これまでに香港、台湾で展開してきた。東南アジア向けは、シンガポールが初めてとなる。

 国際クール宅急便は24時間通関が可能な沖縄貨物ハブを活用し、ANAの貨物便で発送日の翌日にシンガポールの営業所に到着。店舗や自宅には翌々日の午前中に届ける。料金は縦、横、高さの3辺の合計が60センチメートル以内、重量2キログラム以内で6050円。保冷機能を完備した専用車両で陸送し、航空輸送では航空保冷コンテナを使用する。

■リードタイム短縮−道路網整備で改善進む

 グローバルサプライチェーンの拡充でリードタイムの短縮がより一層求められる。

 日通の現地法人であるタイ日本通運とミャンマー日本通運は、15年6月にこれまで日替わり片側通行であったミャンマー国内のミャワディー―コーカレイ間の山岳道路の新バイパス開通を機に、陸路輸送ルートを変更した。相互通行が可能となったことから、同区間のリードタイムが短縮され、バンコク―ミャンマー間のドア・ツー・ドア輸送のリードタイムが4日間から3日間に短縮された。走行中のダメージも軽減され、輸送品質の改善を見込むことができる。

 日通は今後もアセアン地域での陸路輸送ネットワークを拡充する方針だ。

 現在は同区間での混載輸送も検討しており、さまざまな輸送ニーズに対応していく方針だ。

■成田国際空港−施設設備で効率化支援

 空港管理・運営会社の成田国際空港は、滑走路や誘導路、貨物取扱施設など、分野ごとに各種方策を練る。

 滑走路内に「高速離脱誘導路」を整備することでリードタイムの短縮を狙う。国土交通省の調査によると、A・Bの両滑走路における高速離脱誘導路の整備により、航空機の滑走路占有時間を短縮できることが想定される。

 14年度からより高い精度での航空機の監視が可能なWAM(管制機能の高度化に必要な監視装置)と併せた活用により、空港容量の目安である最大時間値が72回(空港処理能力拡大効果は約4万回)を達成できるとされる。

 世界101都市へのネットワークが強みの成田国際空港。14年の実績では国内の空港で取り扱われる国際航空貨物のうち、重量・貿易額ともに全体の約6割を占める。また、東京税関の発表によると、15年上半期分の貨物総取扱量は前年同期比2.3%増の101万9381トン。積込量は同8.9%増の48万7995トンとなった。「ネットワークの拡張を意識しながら、物流の効率化を図り、需要の創出につなげていきたい」と同社関係者は”成田“の未来を見据えて力を入れる。

 時間単位の便数を増やし、ネットワークの維持拡充を図り、近場に拠点を設けることで代替輸送にも対応し、顧客のビジネス展開を支える。

 そのほか貨物地区内の国際輸入上屋(うわや)では従来30キログラム以内の「小口貨物」以外は「大口貨物」としてフォークリフトで運んでいたが、新たに「中口貨物」を設定し、カゴ台車を導入。荷物引き渡しの効率化を狙う。国内にある空港の国際貨物上屋内でカゴ台車を本格的に運用するのは初めて。積み荷された台車が搬出口の近辺に待機することで、迅速に搬出配送することが可能となる。リードタイムの短縮やフォークリフト使用時における事故発生防止につなげる。

国内主要空港 国際交通貨物取扱量

 

物流博物館、夢を形に

■工作や映画鑑賞で関心深めて

 物流博物館(東京都港区、03・3280・1616)は、物流の役割を広く一般に紹介するとともに、次代を担う子どもたちにも関心を持ってもらうことを目的に設立された。

 館内では江戸時代から昭和までの物流業界の歩みを資料や写真、映像などで伝える。現代物流の要所である空港や港、鉄道やトラックの各ターミナルを再現したジオラマ模型や、物流に関するクイズやゲームなどもあり、暮らしと産業に欠かせない物流の仕組みをわかりやすく紹介する。

 老若男女問わずに幅広い層を迎え入れる同博物館は、物流関係各社の新入社員研修で利用されることもある。

 「幼子から老人まで、幅広い層に物流の魅力を伝え続けていきたい」と同博物館学芸員の玉井幹司氏。15年8月21日には内航船のペーパークラフト工作教室を開催。親子で作業に取り組む様子が見られた。「難しいけど楽しい。船乗りになりたい」と参加した子どもたちは完成した船を手に、目を輝かせる。

 日本内航海運組合総連合会広報室の畔柳健彦副部長は「内航海運をはじめ、物流への理解を深めて次代の追い風となって欲しい」と輝く原石たちに期待を寄せる。10月18日に同博物館で戦前戦後の貨物輸送を伝える映画鑑賞会を行う。

 開館時間は10時から17時(最終入館は16時半)まで。高校生以上は200円。中学生以下は無料。詳しくは物流博物館ホームページ(www.lmuse.or.jp/)へ。


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