国際社会は今、大きな変革期を迎えています。2016年には英国が国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めました。また同年秋の米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利し、今年、大統領に就任しました。どちらも僅差ながら、大方の事前予想を裏切る結果となり、世界を驚かせました。一方、フランスでは大統領選で5月に決戦投票が行われた結果、中道のマクロン候補が極右政党のルペン候補を破り、仏国史上最年少の大統領が誕生することになりました。これからも予想外の地球規模の出来事や課題が次々と起こる可能性は否定できません。経済分野でも、より根源的で本質的な議論が沸き起こってくるようになりました。先進国の経済成長が頭打ちの状況が続く中で、先導役とされていた新興国の成長にも鈍化傾向が生まれ、国際経済にも停滞感が広がっています。地域間や世代間で格差が広がる状況を背景に、資本主義経済に疑問を呈したり、その課題を指摘する書籍も相次いで出版されるようになりました。
こうした状況を打開する方策の一つとして、今まで以上に科学技術への期待が高まっています。言うまでもなく科学の進展や技術の発展は、これまで人類社会の進歩に重要な役割を果たしてきました。実際に、開発されたさまざまな技術が経済社会を飛躍的に高め、高い成長を後押ししてきたことに異論はないでしょう。さらにノーベル賞などに値するような世界的な発見が、科学者だけでなく一般の人々に多くの希望や勇気を与えてきたことも疑いはないのではないでしょうか。経済や社会全体に閉塞感が広がる中で、科学技術の役割は今後一層、重要性が増してくることは間違いありません。科学技術をどう発展させていくかに各国は知恵を絞っていますが、日本はその先頭集団を走っています。2016年には東京工業大学の大隅良典栄誉教授が、ノーベル医学生理学賞を受賞しました。日本人のノーベル賞受賞は3年連続です。2016年版の科学技術白書によると、2001年以降の21世紀に入ってからの自然科学分野のノーベル3賞(医学・生理学、物理学、化学)の受賞者は、米国に次いで日本は2位と存在感を高めています。
科学技術は、大きく「科学」と「技術」に分けられます。それぞれ密接に関連していますが、科学は自然への理解を深めるもの、技術は生活の利便性を向上させるもの、と言う人もいます。科学は「知る」こと、技術は「創る」ことと定義する人もいます。解釈はさまざまです。そして、科学にとって重要な要素が「発見」であるとすれば、技術の醍醐味は「発明」です。これまでにない方法によって、より便利に、より快適な社会を実現する。発明した企業や個人にとってこれに勝る喜びはありません。発明は、それが例えどんなに小さな規模のものであっても、世の中を便利にするだけでなく、人々の心を豊かにすることもできます。発明は人類社会を発展させる大きな原動力になるといっても過言ではありません。
今回で43回目を迎える「発明大賞」は、優秀な発明考案を生み出し成果をあげた企業や個人を表彰してきました。大企業ではなく、中堅中小企業、ベンチャー、研究者、個人発明家などを対象にしているのが大きな特徴です。さらに、受賞してそれで終わりという賞ではなく、歴代受賞者を含めた幅広く構築された企業や個人のネットワークにより、次の発明を生み出す機会を提供している点も評価されています。優秀な発明者の集まりが、次の新たな発明を創造する。発明大賞はそういった高い理想に基づいた表彰制度でもあります。発明は世界を変えることができます。社会を育てる力も備えています。発明大賞を通じて、日本の科学技術の発展に貢献していただく方々の仲間に入っていただければと望んでいます。
どうぞ奮ってご応募ください。