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地域応援隊

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埼玉西部地区ビジネスセミナー

基調講演
 工場現場にみる日本のモノづくり「カイゼン」の強み
 PEC産業教育センター所長 山田 日登志氏

9月26日(水曜日)付 日刊工業新聞 19面〜21面 地域特集から

 

 7月23日、川越プリンスホテル(川越市)で、埼玉産業人クラブ、川越商工会議所、日刊工業新聞社共同主催の「埼玉西部地区ビジネス交流セミナー」が開催された。基調講演ではPEC産業教育センター所長の山田日登志氏が「日本のモノづくりを極める」をテーマに講演。2部のビジネスセミナーではマスダック社長の増田文治氏が「世界に羽ばたく日本の菓子機械メーカー」をテーマに語った。地元経営者など、およそ120人が参加し、会場は熱気に包まれた。

 

加工時間と停滞時間を短く-社長の権限で現場の問題改善を

トヨタ生産方式との出会い

PEC産業教育センター所長 山田 日登志氏

 今日のセミナーのテーマは「日本的モノづくりを極める」です。工業立国・日本のモノづくりの“カイゼン”などについて話します。

 私は1963年に中部経済新聞社に入社しました。ちょうど日本に中小企業基本法ができ、コンサルタントという新しい職業が生まれたころです。私は新聞記者として商工会議所を取材していました。経営コンサルタントが講演すると、たった2時間で大金を稼ぎます。すごい職業があるのだと思いました。これが私がコンサルタントになろうとしたきっかけです。運良く、そのころ、岐阜県生産性本部がコンサルタントの卵を募集していました。当時、岐阜県経営者協会の専務理事が同生産性本部の事務局長を兼ねていました。事務局長とは知り合いだったので、スムーズに転職することができました。

人不足時代に人が余る?

 高度経済成長期だった当時、人手が足りず、求人や従業員定着のためのセミナーが求められていました。同生産性本部でもそうしたセミナーを企画しており、特別講師として白羽の矢が立ったのが、トヨタ自動車専務だった大野耐一氏です。早速依頼して、特別講師として招きました。講演を聴くと、内容は全て、人が余る話です。岐阜県中の会社が、「人が足りない」と言っていた時代です。本当に人が余るようなことがあるのかと疑問に思い、講演後に楽屋で大野氏に質問しました。これが、大野氏との出会いです。

 大野氏の答えは「人を余らせる方法は実際にある」とのことでした。その後、トヨタ車のシートを縫っている会社で、トヨタの生産調査室のメンバーが改善指導する現場を見学しました。指導後、20人で行っていた作業が16人でできるようになっていました。強烈なショックでした。たった3時間改善しただけで、20人が16人になるのです。一体何をやったのかと考えると、夜も眠れないほどでした。トヨタ生産方式に初めて触れたのが、この時です。そして、もう一度見学させてもらった時に、コツが分かりました。目がさめる思いでした。

 さっそく当時岐阜にたくさんあった縫製工場で実践しました。仕掛品をなくし、後工程の人が取りやすい置き方をすることで、生産性を3−4割すぐに上げられることが分かりました。また、例えば布を縫う時は、縫う場所を探すのに縫うこと自体よりも多くの時間がかかりがちです。これに対し、後工程の人が縫う場所を探しやすくするだけで、5人必要な所を3−4人に減らせることを実証できました。こうした指導をビジネス化するため、78年にPEC産業教育センターを作りました。

停滞の無駄を削減せよ

 私の原点であるトヨタ生産方式のポイントは、加工時間と停滞時間をトータルでできるだけ短くすることです。調べてみたところ、トヨタの工場では、加工時間を1とすると停滞時間は300でした。その後、岐阜にあるプレス業者や溶接業者など中小企業についても調べました。総じて、停滞時間は3000−5000くらいで、トヨタの10倍以上という結果が出ました。さらに私は、赤字の会社についても調べました。結果は、加工時間1に対して1万くらいでした。赤字になるのは停滞が多いからだと結論づけました。

 大野氏の著書には、「作り過ぎのムダ」に関する記述があります。これについて現場で話すと、始めは怒られました。自分で作り過ぎだと自覚しながらモノを作る人は1人もいません。当時はまだモノが不足しており、作れば売れるという時代です。そんな時代に作り過ぎという言葉は、現場では通用しなかったのです。トヨタのグループでは通用しても、一般の会社では通用しなかったわけです。そこで私は考えました。これを“停滞のムダ”と呼ぶことにしたのです。「停滞しているということは、モノが寝ているのではなくお金が寝ていることだ。工場の中に札束が転がっている」と説きました。こうすることで、中小企業の社長や現場の班長らも、耳を傾けてくれるようになりました。

後工程に合わせよ

 停滞のムダを省くことは難しいことです。そこで私は、新たな方法を見いだしました。それは、後工程が使う最小限の量だけを供給することです。検証の結果、必要なのは半日分だと結論づけました。つまり、作るのは後工程が半日で使う分までで、それ以上はムダだという結論です。

 ある時、在庫が山積みになっている現場で理由を聞くと、「生産計画通りに作っている。後工程が遅れているのが原因」と答えられました。後工程が遅れていても関係なく作る会社は、もうかりません。後工程からの情報に基づいて作ることが大切なのです。後工程が翌日の午前中に必要とする分を、当日の午後に作れば良いわけです。

 92年には、ソニーから現場改善の依頼を受けました。初めて訪問した際に、たった3時間の指導で17人くらいを余らせることに成功しました。当時の専務は大いに驚いていました。これがソニーとの付き合いの始まりです。その後、ソニーのさまざまな工場で改善活動を実施しました。やがて、同社の国内最大級の工場である幸田サイト(愛知県幸田町)で指導する機会が訪れました。従業員数約4000人(当時)の工場です。そこで私は、ある実験をしました。コンベヤー中心の方式から多能工を軸にするやり方への切り替えです。すると、1人あたりの生産量が半年で5割増えました。不良率も6分の1くらいになりました。

 00年代に指導したキヤノンの工場では、1年目で400人分くらいの工数低減を目標としました。1年目は達成できませんでしたが、2年目には目標値に達しました。その後、徐々に目標を上げていき、5年で生産性は3倍くらいに高まりました。ちなみに、97年から指導した同社とスタンレー電気では、10年間で営業利益率が10%程改善しました。

中小企業は社長が率先して工場改革せよ

 リーマンショック以降、中小企業を指導する機会が増えました。中小の弱点は、管理に手が回らない場合があることです。昔は、中小企業は同じモノを作るだけでうまくいっていました。まとめて作り、できるだけ安くすれば良かったわけです。今は中小企業が同じラインで何品種も作る時代です。顧客の注文によって、ロットも変わってきます。結果、工場全体を管理するのが難しくなっています。管理方法が分からないと、経営者は注意のしようがありません。

 そうなると、整理・整頓もできなくなります。私の指導では、まず工場の掃除から始めます。こうして初めて工場がよみがえるのです。そこから先で重要なのは、社長自らが現場で一緒に学ぶことです。社長が乗り気になる会社ならば、もうかるようにすることができます。逆に、社長が現場改善を工場長など部下に任せきってしまう会社は、あまり伸びません。中小企業では、社長1人がひときわ強い権限を持っています。社長以外の権限で改善を実行しようとすると、敵ができてしまい、失敗しやすくなります。

 利益が出て人も育ってから部下に任せることは、問題ありません。しかし、利益が出ていない会社では、部下に任せてうまくいくはずがありません。社長と私が改善の問題を共有できれば、会社は必ず良くなります。在庫がなくなり、キャッシュフローが改善します。工数も低減できます。

 PEC産業教育センターでは、中小企業から相談を受けると、まず現場診断会を開きます。診断会では、現場でのさまざまなムダを指摘します。その後、本格的に依頼されると、我々が他の会社を指導している様子を幹部に見てもらいます。ここまでやって我々のやり方を事前に理解してもらうと、指導しやすくなります。企業側が協力的になるので、スピードが高まるわけです。
我々がまず最初に指導するのは、一番後の工程、すなわち出荷です。どの企業も生産計画を重視する一方、出荷を重く見ていません。「今日は何をどれだけ出荷するか」と聞かれて答えられる工場長はいません。出荷して初めて、売り上げになります。つまり、出荷をしっかり管理することで収支をリアルタイムで把握し、それに応じて問題があれば生産面で即座に対策を講じることができるのです。

中小企業は機動力が重要

 中小企業にとって、すぐに対策を講じる機動力はとても重要です。例えば、牛若丸が弁慶との戦いに勝ったのは、機動力を持っていたからです。弁慶は体格面で優れ、七つ道具という強力な“設備”も持っていました。それでも牛若丸が勝ったということは、それだけ機動力が大切だということです。小回りの利く経営こそが、これからの時代を生き抜く手段だと思います。

 まず出荷されるモノを見て、いつ投入したかを聞けば、工場の実態がある程度分かります。いつ投入し、完成し、倉庫に入れたかを把握し、どこに停滞のムダが生じているかを推測できるのです。この停滞のムダを一つずつ取り除くことが、“カイゼン”です。私は、「当日出荷する分以外は出荷ヤードに置くな」と指導します。これだけで、出荷場の要員を半減できます。

 私がやっていることは、ムダをとることによって、会社の利益率を高めることです。40年近くにわたって、さまざまな現場を指導してきました。指導させていただいた会社、一緒にやってくれた仲間に感謝しています。そして、この21世紀は、こうした仲間同士の“絆”が重視される時代になればいいと思っています。


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