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埼玉西部地区ビジネスセミナー

世界に羽ばたく日本の菓子機械メーカー
マスダック社長 増田文治氏

9月26日(水曜日)付 日刊工業新聞 19面〜21面 地域特集から

 

過去を否定しながら果敢に挑戦-社長自らが身を粉にして変化に対応

今年で創業55周年

マスダック社長 増田文治氏

 弊社は今年創業55周年目を迎えたお菓子の機械製造、製菓OEM(相手先ブランド)供給会社です。機械事業が売り上げの60%、和洋菓子をOEM供給する食品事業が40%を占めます。本社と工場は埼玉県所沢市にあり、海外ではオランダに拠点があります。
私は社長業のほか、現在、一般社団法人日本包装機械工業会、日本製パン製菓機械工業会、食品機械工業会に加盟し活動しています。10年4月から埼玉産業人クラブの会長、今年から埼玉県経営者協会の副会長をしています。

お菓子が導く人の笑顔に感銘

 父の増田文彦が創業者です。父は航空機の設計者を目指していました。ところがある日、東京で偶然再会した親友から依頼され、まんじゅう製造機械の開発を手伝いました。完成後、友人が台東区の上野公園にある西郷隆盛像前でお菓子の実演販売をすると言うのでついていくと、瞬く間にたくさんの人が集まり、目を輝かせて実演を見ていた姿を見て、「お菓子はこんなにも人を幸せにするものなのか」と感銘を受けたそうです。

 早速、お菓子の機械について調べて見ると、キャンディ、チョコレート、ビスケットの製造機械は海外から輸入、導入できたそうですが、菓子パンや和菓子の製造機械はないことが分かりました。「人々を楽しませてくれるお菓子を提供する機械作りを通じて、お菓子をもっと手軽に食べてもららいたい」「明るく笑顔に満ちた生活空間や円滑な人間関係づくりに貢献したい」。父は、当社を立ち上げ、機械作りに着手しました。

 お菓子の機械には「練る」「包装する」など目的に応じてさまざまな種類があります。当社機械事業部では材料を充填、成形し、焼き上げる機械を製造しており、これにミキサーや包装機、洗浄機を組み込んだ一貫生産ラインを提供できるのが強みです。例えば菓匠三全(仙台市青葉区)さんの「萩の月」、春華堂(浜松市中区)さんの「浜松うなぎパイ」の製造ラインや大手菓子メーカーの量産菓子製造ラインに当社の機械が使われています。

お菓子のOEMを開始

 売り上げの4割を占める食品事業部は91年にグレープストーンさんから「東京ばな奈 みぃ〜つけた」製造ラインの開発を依頼されたのがきっかけです。当社は自社開発した機械を試運転するために東京・高田馬場に食品工場を持っていました。当時、グレープストーンさんは東京ばな奈を生産する専用工場がなかったので、開発した機械を弊社の食品工場に導入。その流れで東京ばな奈のOEM供給を開始しました。

 モノが数多く売れる時代には機械を通じて生産技術を提供するだけでよかったのですが、今は豊かな時代になりいろいろな場面でお菓子を食べたり売ったりする機会が増えています。一方で、お菓子を作るのは本当に大変。工場はますます安心、安全に配慮しないといけないし、独自の機械設備、製造技術を持たなければならない。売るのが得意な人から要請を受けてお菓子を生産するOEMは菓子業界で重要な役割を担っていると思います。

 私たちはこれらの経験から、「ケーキ・マニュファクチュアリング・サービス(CMS)」を基本方針に掲げています。当社が独自に考えた言葉で、お菓子の機械製造、製造技術、衛生管理技術をお客さまに総合的に提供することを意味しており、これからもお菓子業界が抱えるさまざまな課題解決に向けて積極的に貢献していきます。

海外への進出

 海外ビジネスの話に移ります。父は当初、海外市場開拓には積極的ではなかった。だが、将来的な市場を見据えると海外ビジネスは避けて通れないと判断し、不二家に勤めていた私を呼び戻して海外留学を命じました。留学先に選んだのが世界各国のパン職人が集まるAIB(米国製パン研究所)でした。

 私は留学中、当時日本で売れていたアルミホイルで包装されたバターケーキを持っていき、研究所で一緒に学んでいた仲間に食べてもらいました。当時、欧米にはこのようなバターケーキはありませんでした。生地がアルミにくるまれておりしっとりとして味が良い。また、製造過程でほとんど人の手に触れないので衛生的で合理的だと仲間から絶賛されました。

 彼らの反響を見て自信を持った私は留学先から帰国後、海外担当としてバターケーキの製造機械を売って世界を回りました。結果、イギリス、フランス、イタリアの菓子、食品メーカーで相次いで採用が決まりました。

海外市場の壁に直面

 ところが、機械を売り、設置するまではよかったのですが肝心の菓子製造に必要な材料が入手できませんでした。オーブンの熱でも沸騰しないジャムが見つからない。日本なら何か製品を開発する際、原材料メーカーに連絡をすれば各メーカーの開発担当者からさまざまな材料の提案を受けられるのですが、海外ではそれがまったくなく途方に暮れました。

 たとえ機械が売れても適切な原材料が現地調達できなければ意味がありません。機械を売っただけは成功できないと分かり、海外でビジネス展開する際にこの反省材料を生かしていこうと心に刻みました。

 中国大手食品会社と取引を始めた際もいろいろな出来事がありました。突然、経営トップから呼び出され機械のプレゼンテーションをすると、1台1億2000万円する機械を3台納入することがその場で決まりました。そうかと思えば、菓子製造技術を公開してほしいと言われたり、値下げ要請があったりして商談が成立しないケースもありました。勝ったり負けたりの繰り返しで、海外ビジネスの難しさを思い知らされました。

欧風どら焼き機が当たる

欧州で大ヒットした“サンドイッチ・パンケーキマシン”

欧州で大ヒットした“サンドイッチ・パンケーキマシン”

 そんな中、02年にフランス・パリで3年に1度開催される展示会「ユーロパン」に初出展することになりました。日本製パン機械工業会を通じて出展要請があり、同工業界に所属する企業5社で出展。せっかく欧州の展示会に出るのだから、主力機械の中でも競合する製品ではなく、まだ欧州にはない全自動どら焼き製造機械を“サンドイッチパンケーキ製造機械”(写真)として名前を変えて展示し、勝負しようと決めました。

 初出展ということもありオランダ人の友人に現地で協力をお願いし、出展前にはどら焼き機で製造した商品を試食してもらいました。友人からは「苦みのある重曹を入れず、甘さを抑えたパンケーキ生地が良い」「あんこの替わりにチョコレートを挟んで提供すればヨーロッパ人から喜ばれるだろう」とアドバイスされました。

 展示会では日本の展示会と同様に実演販売しました。日本では当たり前でも欧州での実演販売は珍しく、4日間の出展期間中、朝から晩まで当社のブースの周りには二重三重の人だかりができました。日本から持っていった原材料はすべて使い切り、ものすごい量の引き合いを頂き大成功を収めました。

 これで海外ビジネスにだんだん本気になり、翌年秋にはドイツで開催されたパンの国際見本市「インターナショナルベーキングフェア」に当社単独で出展しました。

 欧州は物流環境が悪いため大量生産、大量販売に対応できる生産能力を持ち、さまざまな国籍の人が働いているため安全で誰もが使いやすい機械でなければなりません。これをふまえ、展示会に合わせて、1時間で6000個自動生産できる機械を新たに開発し現地に持っていきました。 結果、フランスの展示会と比べ10倍も多くの来場者が訪れました。04年5月にはオランダに営業拠点として「マスダックヨーロッパ」を設立しました。運河沿いにそびえ立つ築400年のビルの一室に事務所があります。

オランダ工場開設

 ちょうど04年頃の為替レートは1ユーロ=165円でした。リーマンショックを経て、現在では半分の1ユーロ=85円です。当社の機械はただでさえ高価格帯で提供していますから、円高に勝つには海外で生産するしかないと決断し、09年に機械を製造する現地法人「マスダックマニュファクチュアリング」を設立し、人形焼きの機械を現地生産し始めました。

 当社の設計者とオランダの設計者が一緒になって機械設計に取り組みました。日本のようにきめ細かな手間をかけない、ヨーロッパでは一般的な製造方法を取り入れました。ただし人形焼きの生地を絞り出す機械は日本でしか製造できないので輸出で対応します。

 海外ビジネス拡大に伴い、05年12月には国際規格「ISO9001」を取得。07年に社名を「新日本機械工業」から現在のマスダックに変更した後、12年にマスダックヨーロッパを子会社化しました。

これからが正念場の海外ビジネス

 ここまで海外ビジネスに関する取り組みを紹介してきましたが、まだまだ規模は小さい。09―11年度の機械事業部売上高は30億円から55億円に上昇しましたが、輸出による売り上げは10億円くらいです。将来を考えると、少子化で日本のお菓子の生産量、消費量が減少する中で、市場をアジア、世界各国に目を向け、輸出比率をさらに高めていかなければなりません。今はそのための導入時期だと思っています。

 まとめとして、一つ言えるのは海外進出は決して簡単ではないということです。社長自らが身を粉にし、過去を否定しながら変化に対応して果敢に挑戦する必要があります。経験談が少しでも皆さまの役に立てば幸いです。ご静聴ありがとうございました。


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