社会の困難、発明で乗り越える

新型コロナウイルス感染症の拡大が、世界に大きな影響を及ぼしています。「アフター・コロナ」「ウィズ・コロナ」と呼ばれるように、社会・経済構造の新たな変革を迫るような大きなインパクトを人類に与えています。感染症の世界的な蔓延は、人々の意識を大きく変えてしまいました。しかし新型コロナに効果のあるワクチンの登場で、悲観論に傾きがちだった世界の世論の動向に、希望の光が射し始めたことも事実です。変異株の広がりやワクチンの副反応への懸念は残るものの、ワクチンが今の状況を好転させる原動力になるのではないか、という期待は高まっています。

そのワクチンは「発明」によって生まれました。18世紀末にイギリスの医学者ジェンナーが少年に牛痘を接種したのが世界初のワクチンだったということは、子ども向けの偉人伝など書物でも広く知られています。その後、フランスの細菌学者のパスツールが、炭疽菌ワクチンなどを発明してワクチンの製造法を確立したことも有名です。
二人の偉人の足跡は、発明にとって重要な点を明らかにしています。天然痘に感染した人が再び天然痘にかからないことは、当時も知られていました。弱毒化した天然痘を接種して免疫を得る方法も伝わっていましたが、接種で死者が出るなど安全な方法ではありませんでした。その後、人が感染しても症状が軽い牛痘に感染した人が、天然痘にかからなかったり、かかっても軽かったりということが知られるようになって、ジェンナーは牛痘を少年に接種しました。

それまで培われてきた過去の蓄積と、新たな知見との融合が、現代にも今なお多大な恩恵をもたらしているワクチンという発明につながりました。天然痘ワクチン製造法が他の病気にも応用できるのではないか、とパスツールが考えて実践したことが、さまざまな感染症に対するワクチンの製造につながりました。一人の秀でた人間が全く独立して新しい発明を生み出すのではなく、多くの人々の経験や蓄積を生かしながら、既存技術の応用可能性に挑戦した結果、人類にとって不可欠な発明が生まれたことを、ワクチン開発の例は教えてくれます。

発明は人類が未来に進むために、なくてはならない強力で重要な武器です。これまでも人類は多くの発明によって今の社会を築いてきました。これからも築いていくことでしょう。我々を取り巻く環境は、様々な課題や困難に満ちあふれています。特に環境問題は、地球が未来永劫存続できるのかという重要な問いを私たちに突きつけています。政治的な議論や実践とともに、発明を含めた技術開発が不可欠になります。環境問題だけではありません。感染症を含めた疾病対策、環境問題と密接にかかわるエネルギー問題、人類の将来を左右する生殖医療などのバイオテクノロジーの今後など、我々が解決すべき課題は幅広い分野に及んでいます。また技術の進歩にも目が離せません。自動運転やドローン、電動航空機などの移動革命は今後、ますます加速していきます。人工知能(AI)は今まで以上に我々の暮らしに入り込んでいくことは間違いありません。高効率の全固体電池や燃料電池の開発と普及は全産業が待ち望んでいます。国連の持続可能な開発目標(SDGs)推進に向け、環境との調和を促す新しい技術も必要とされています。そうした一連の技術のさらなる進化にも新たな発明が欠かせません。そうした課題を解決する手段の一つとして発明はこれからも、その存在意義を高めていくことでしょう。人類が再びコロナのような壁に直面しても、解決すべき何かを誰かが発明してくれる。こうした認識が人類の未来を切り拓いていくに違いありません。

「発明大賞」は創設から47回目を迎えます。中堅・中小企業、個人の発明家や研究者を対象に、優秀な発明考案を生み出すことを通じて成果をあげた企業や個人をこれまで数多く表彰してきました。発明大賞の特色として特に伝えたいのは、歴代の受賞者をはじめとした企業や個人の幅広いネットワークが、発明を生み出しやすくする環境を醸成している点です。発明は孤立の中から生まれるものではありません。過去の英知を学び、それを咀嚼して、自らの強みを生かして新たに生み育てる。それが発明です。そうした発明の輪が人類を進歩させ、豊かで幸福な社会を構築していくのです。

これからも人類は、新型コロナ感染症とは違う新たな困難や課題に何度も直面していくことでしょう。しかし、発明によって様々な問題を解決していくことで、その歩みを止めることは決してないことは明言できます。ぜひ、発明を通じて、新たな未来を切り拓く人々の輪に参加していただければと願っています。

応募を心からお待ちしております。

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【概要】優秀な発明や研究を通じて産業の発展、国民の生活向上に寄与した中堅・中小企業、個人を表彰

【応募案件】特許・実用新案を登録済み、または公開された発明考案

【応募資格】中堅・中小企業(資本金10億円以下)および個人、またはグループ

【審査】学識経験者らによる審査委員会で、発明考案の革新性や社会的意義などを厳正に審査

公益財団法人日本発明振興協会はわが国の中堅・中小企業の発明の振興と普及啓発のために活動しております。この表彰事業は公益財団法人日本発明振興協会の事業に対する各位からのご寄付による資金により実施するものです。

<主催>

公益財団法人 日本発明振興協会
公益財団法人 日本発明振興協会
日刊工業新聞
日刊工業新聞社

<後援>

<協力>