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埼玉西部地域特集
埼玉西部地区ビジネス交流セミナー

9月26日(木曜日)付 日刊工業新聞 13面〜15面  企画特集から


日本一楽しい会社を目指す! −ハンデをプラスに変える発想法

中里スプリング製作所社長 中里 良一氏

【“遊”“機”“質” 三つの事業分野】

 当社は1950年に設立しました。本社は群馬県高崎市にあり、バネを設計・製造・販売しています。資本金3000万円、社員数21人の小さな会社です。

 我々は仕事を楽しむため、事業分野を“遊”、“機”、“質”の三つに分類しています。一つ目の遊は遊び心のことで、インテリア用品、アクセサリー、ファッション雑貨などオリジナル商品をこの分野に位置付けています。

 二つ目の機は高機能を付加する分野です。受注品100%、つまり下請け仕事です。現在、この分野を大きく二つに分けています。一つはお客さまから図面やサンプルなどをお預かりして形にするケース、もう一つは我々が積極的に提案する共同開発の方式です。近年開発した商品の例として、医療用のバネが挙げられます。完成まで2年ほどかかりました。脳手術を行う時の止血などに使われています。

 三つ目の事業分野の質は、高品質を提供する分野です。オリジナル商品である6820種の規格バネ「ナスパックシリーズ」が該当します。100%自社製品、100%社内生産なのが特徴です。この分野は当社を下請けからメーカーへと進化させてくれました。


【入社して驚いた町工場の現実】

 私が当社に入社したのは76年のことです。当時は受注生産100%で、特定の親会社への依存度が高い典型的な下請け工場でした。そんな下請け工場に、オイルショックが大きなダメージを与えました。主力製品の大幅減産を強いられ、主力クラスのお客さまの倒産などにも直面しました。このためオイルショック後2年足らずで、売り上げはピーク時の3分の1以下に激減しました。

 そのころの私は、大学卒業後、東京で商社に勤めていました。経済環境は厳しかったものの、一流企業と折衝できることによる満足感、金額の大きな仕事を任されることから得る充実感があり、仕事の面白さや、やりがいを感じていた時期でした。そんな時に前社長である父から相談を受け、小さな会社に飛び込んでいきました。

 ある程度覚悟して入ったつもりでしたが、実際に小さな会社に入ってみると驚くことばかりでした。町工場の現実を思い知らされたわけです。特に驚いた点は三つあります。一つは社員のレベルの低さです。技術レベルも管理レベルも、最低水準にすら達していませんでした。何より、小さな会社で働く社員の心の貧しさにショックを受けました。二つ目はお客さまのレベルの低さです。特色あるモノづくりをやっているお客さまは1社もなく、当社の近隣に事業所を持つ3―5次下請けクラスの企業ばかりでした。

 三つ目は経営者のレベルの低さです。職人気質で、「作れば売れる」「仕事はこちらが“やってあげる”もの」という時代錯誤的な感覚を捨てきれず、時代が変化する中で場当たり的な経営を行っていたことに驚いたのです。同業他社と比較した場合のストロングポイントが何一つありませんでした。本当に必要とされる会社、存在感のある会社になれるのかと、私なりに危機感を覚えました。

 

【七つの経営改革に着手】

 そこで私は、社員の再教育と入れ替え、お客さまの入れ替え、経営実権の早期交代、この三つを目標に改革を始めました。具体的に行ったことが7つあります。一つ目が残業の廃止です。従業員に“忙しい”と“もうかる”は違うということを教え込み、生産性向上に努めさせました。二つ目はお客さまの分散化と高度化です。多業種・多業態のお客さまの確保を目指しました。大黒柱1本に支えられている見てくれの良い家ではなく、間柱をできるだけ多く使った頑丈な家を目指したわけです。

 特に、支払日の違うお客さまを意識的に開拓しました。今でも多くの中小企業では、一カ月の中で集金や入金が月末などに集中しています。しかし、こういった状態を当たり前のように続けていると、何らかの都合で集金がずれ込んだり集金できなかったりすると、小さな会社にとっては会社存続の危機につながります。一方、当社のお客さまの支払日を見ると、1カ月10回以上の“さみだれ式”に集金できていることが分かります。

 三つ目の改革は特色ある設備の導入です。同業他社にない大きなモノを作る機械と、逆に同業他社にない小さなモノを作る機械の両方をそろえました。これにより、他社との差別化を明確に打ち出したわけです。

 四つ目の改革は財務内容の強化です。私が入社したころは資本金50万円の町工場でしたが、小刻みに増資し、現在は3000万円になっています。加えて、手形の100%廃止、支払いの100%現金化も進めました。五つ目は新規取引先開拓用の営業資料を作成することです。私が会社に来る前はありませんでした。そして六つ目は特殊な加工へのチャレンジです。私が素人で怖いモノ知らずだからこそできたのかもしれません。他社がやりたがらない素材や形状などに積極的に挑戦していきました。即効薬としてではなく、10―20年先の当社の発展性を感じてもらうのが狙いでした。

 七つ目はアドバルーンを上げたことです。企業経営者にとって最も大切なことだと思っています。経営者である私の夢を毎日のように社員に語りました。そして、同じ夢を見ることのできる人を、順次入社・昇格させたのです。

 こうした七つの改革を実行することで、私の経営目標である“小さくても比重の大きい会社”を目指していきました。改革の過程で常々考えさせられたのは、下請け企業は計画的な運営が難しいということです。どうしても親会社の生産や販売の動向に左右され過ぎます。そんなことから、自社製品の必要性を強く感じ、開発を始めました。

 

【自社製品開発のプロセス】

 自社製品の開発では、どんな製品をどういった手順で開発していけば良いか迷うものです。私は、自社製品開発には大きく分けて四つのステージがあると考えています。第1ステージは発想の段階、第2ステージは製品が本当に売れるかテストする時期、第3ステージは製品を浸透させていく普及期、第4ステージは構想を現実化していくための拡大期です。

 発想段階で大切なのは、自社の設備だけで開発できるモノにターゲットを絞り込むことです。仕入れが20―30%以上発生する自社製品は確実に失敗すると思っています。テスト期では、お客さま本位で考えることが大事です。そして、経営者は感性と決断力を発揮しなければいけません。

 普及期で注意すべきことは、作り手が効率を追求することで、お客さまの要求が満たされなくなる場合があることです。つまりバリエーションを考えることが、大切なのです。お客さまに、多くのモノの中から1―2個を選ぶ満足感を味わってもらうのが、このステージのポイントになります。拡大期では、製品の役目が変化することを認識し、製品を常に進化させていく感覚を持つべきです。

 良いアイデアに頭数は要りません。優れたヒット商品を打ち出している企業でも、実際にヒットを生み出せる人は、大体1人か2人だけです。独自の製品開発は、少人数でやるべきものであり、大きな組織では当たり前の発想の物まね製品しかできないと思っています。

 

【自社製品は最高の営業マン】

 だからこそ、小さな会社は、大手より自社製品を生み出す上で恵まれた環境にあると認識すべきです。小さな会社が自社製品を作るメリットは、三つあります。一つは新規取引先の増加です。当社では、下請けだったころ、お客さんが15―16社しかありませんでしたが、現在は7月1日時点で1594社になっています。二つ目のメリットは、ロスの削減が無限大だということです。材料や時間のロス削減によってコストダウンが図れます。受注の合間や、社員一人ひとりの技術力の差による生産量のバラつきを簡単に改善できます。三つ目のメリットは、従業員の意識改革につながることです。自社製品がお客さまに浸透していく過程を従業員一人ひとりが体感することで、社内が活性化しています。

 自社製品は最高の営業マンだと思っています。特別な宣伝をしなくても自社製品が勝手に独り歩きして、ある種のブーメラン効果とも言えますが、お客さまを連れて戻ってくるわけです。だからこそ自社製品は、当たり前の発想の物まね製品ではなく、他社が作りたくても作れない製品であるべきです。

 もちろん良いことばかりではなく、自社製品を手がける上ではさまざまな問題が起こります。小さな会社には、自社が作る製品の適正価格について考える習慣が、ほとんどありません。このため、自社製品をまず作ると「できるだけ高く売らないと損だ」という貧しい感覚に陥りがちです。また、納期について、お客さまの要求に対して「無理を聞いてやってあげている」という勘違いした考え方の経営者が多いと思います。

 自社製品は、自社で売りたい値段をつけるのではなく、お客さまの価値観に基づき価格を決めるべきものです。また納期に関しても、お客さまが「欲しい」と思った瞬間に供給することこそが本当の技術だと考え、うぬぼれをなくしていくべきです。マイクロ単位の精度を出すことだけが技術ではありません。お客さまが自社に何を望んでいるかを読み取ることも技術です。21世紀だからこそ、メンタル面での技術力を高めることが、中小企業の必勝法になると考えています。

Next メッセージ/川越商工会議所 会頭 大久保敏三氏「地域活性に全力」

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