2019国際ロボット展の歩き方
産業用ロボットは人類を3K(危険、汚い、きつい)作業から解放するとともに、これを用いて製造される製品の品質が安定することが世界的に高く評価され、中長期的に見てさらなる発展への期待が大きい。近年、産業用ロボットは技術的に大きな変革の時を迎えつつあり、人との協働作業が可能な協働ロボットは、その代表例である。安全柵でロボットを囲う必要がなく人の作業現場にそのまま設置することができるため、人とロボットがそれぞれ得意分野を生かす分業が可能になるなど、作業環境や人の働き方へも大きな影響を与えつつある。従来のロボットと比べて協働ロボットと正式に呼称されるためには、第三者安全認証機関から国際規格ISO10218―1適合の安全認証を取得することが推奨されている。
日本国内では従来、労働安全衛生規則に基づき、ロボット各軸モーターの定格出力が80ワットを超える場合には人の侵入を防ぐための安全柵の使用が義務付けられていた。しかし、2013年末にこの法規制が緩和され、国際規格ISO10218―1:2011の5・10項「協働運転要求事項」を満たすロボットについても安全柵なしの運用が可能となった。ISO10218―1:2011で規定される協働運転要求事項は①監視された安全適合停止②ハンドガイド③速度および隔離監視④動力および力の制限―の4要件である。安全柵なしでロボットを運用するためには、これら4要件のうち、いずれか一つ以上を満たすことが求められる。
「①監視された安全適合停止」では、ロボットの動作領域内に人間が侵入した際に即座にロボットを停止することが必要とされる。「②ハンドガイド」は、図1に示すように人がロボットを直接触って操作するモードで、非常停止とイネーブルスイッチを設け、かつ、ロボットの動作速度を監視することが求められる。「③速度および隔離監視」では、ロボットと人間の相対速度と距離が基準値を超えた場合にロボットを停止することが要求される。「④動力および力の制限」では、ロボットの発生力が制限され、基準値を超えた場合にはロボットを停止することが要求される。いずれの要件も、安全機能として高い信頼性が求められ、ISO13849―1で規定される安全カテゴリー3、PL(Performance Level)=dが必要とされる。
自動車の最終組み立て工程では複雑な部品取り付け作業が多く、現状、かなりの工程が人手で行われている。部品供給などを中心にロボットによる自動化が可能な部分もあるが、安全柵を設置してロボットを導入することは、組み立て作業者の往来や作業の妨げとなり非効率であることから、これまでは自動化が積極的に行われていなかった。
このような組み立て現場に対し、安全柵不要の協働ロボットは人手作業を妨げることなく、生産効率を上げることが可能である。
例えば、図2のようなスペアタイヤを車のトランクに積み込む作業は、中腰でそれなりの重量物を繰り返し運搬することになるので、作業者の肉体的負担が大きい3K作業の一つである。協働ロボットがスペアタイヤをストックから取り出してトランク付近まで自動搬送した後、人がハンドガイドでロボットを操作してトランク内の適切な位置に微調整してタイヤを設置することができる。従来の人手作業のみの場合と比較し、ロボットがタイヤを自動搬送するため、作業者は重量物であるタイヤを搬送する必要がないだけでなく、その間に別作業を行うことができる。
ボールネジにベアリングを圧入する組み立て作業(図3)を行うためには、ボールネジの格納場所からベアリングの圧入機までボールネジを毎回運搬する必要がある。ボールネジは人が運搬可能であるが、それなりの重量があるので、繰り返し運搬することは作業者の肉体的負担が大きい3K作業である。
そのため、ボールネジの格納場所から圧入機までの運搬を協働ロボットが行い、ベアリングをボールネジに挿入して圧入機で圧入するという、人の手先の感覚が必要となる作業を作業者が行うことで、作業者の負担を大幅に減らすとともに、協働ロボットがボールネジを運搬している間、作業者は別の作業を行うことで、全体の作業効率を上げることができる。
加工機への加工対象物(ワーク)供給のロボット化は、すでに多くの加工現場に導入されているが、人が工作機械に近づいて直接操作する場合も多く、その都度安全柵の扉を開けてロボットを停止させる必要があった。
一方、協働ロボットでは、図4に示す通り、安全柵が不要となり、ロボットを停止することなく人が工作機械を操作できる。ワークの加工時間が短く、頻繁にワーク補充が必要な場合などには特に有効である。
また、加工機へのワーク供給をロボットにより自動化する場合、加工機の正面にロボットを配置すると、作業者がワークを供給する際にロボットが邪魔になることがあるため、通常は、加工機の側面や背面に自動開閉するドアを設け、そこからロボットがワーク供給することが多い。これに対し、協働ロボットは、人が手で押すことで簡単にどけることができるので、加工機の正面に配置しても問題にならない。
さらに、重量ワークを加工機の加工治具に取り付ける際は、協働ロボットのハンドガイドを使用することで、重量ワークを作業者が運搬することなく加工治具に取り付けることができ、作業者の肉体的負担を減らすことができる。
我が国では現在、少子高齢化に伴う人手不足が懸念されているが、協働ロボットは人とロボットがそれぞれの得意分野を生かすことができ、人手不足解消とともに人の働き方改革にもつながるため大きな注目を集めており、さらなる発展が期待されている。
アイ・ディー・エス株式会社
株式会社ゼネテック
NOK株式会社/日本メクトロン株式会社
株式会社ミツトヨ
カワダロボティクス株式会社
ユニバーサルロボット
THK株式会社
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