【特集】11月25日は金型の日(1)金型メーカー「工場」から「企業」に

 11月25日は「金型の日」。日本金型工業会は内外に対する金型工業の認識を深めるとともに、今後の業界の発展を期するため、工業会の創立記念日を「金型の日」と定め、記念式典を実施している。今年は新型コロナウイルスの感染症拡大に伴い、記念式典の開催は中止した。社会や価値観が変容する今、あらためて金型産業への知識を深める日としたい。(2020年11月25日 日刊工業新聞に掲載)

日本金型工業会会長 小出 悟

「金型の日」を迎えるにあたって

人材育成にフォーカスし発展へ

日本金型工業会会長 小出 悟

 過去に類を見ないほど、社会も経済も乱れた環境下で「第47回金型の日」を迎えました。リアルな式典が開催できず、必要最小限の行事を遂行するに至ったことは、痛恨の極みです。しかし、人と接する機会がことごとく失われている今だからこそ、年行事である金型の日に感謝と喜びを皆さまと共有できることは大変意味があると考えています。

 2017年に始めた金型マスター認定制度では、同年に第一期生が誕生しました。19年は二期生を輩出するとともに、一期生71名の中から19名のシニア金型マスター認定者が決定しました。「人」こそ宝であり、社会での真の力は最終的には人間力がその優劣を決めるものと考えます。

 IoT(モノのインターネット)・人工知能(AI)・ロボット・工場自動化(FA)技術はこれから間違いなく激変するでしょう。新型コロナウイルスのような人間社会の根幹を揺るがす存在が今後も現れることを考えると、人の英知で対応するより方法がないように思えます。

 だからこそ、人材育成にフォーカスすることで日本社会の安定と発展を促し、日本金型工業会としても今まで以上に積極的に立ち向かいながら、今年10月に発表した新金型産業ビジョンでまとめたように、意識と行動が先駆的・能動的にできるようにしなければならないと思います。

 当工業会が中心的存在となり、金型産業を安定的に発展させるためにも会員企業をはじめ、関連団体、官公庁の皆さまのさらなるご指導、ご鞭撻べんたつ、ご協力をお願い申し上げます。

産業ビジョン 6年ぶり改訂

 金型はプラスチック成形やプレス加工には欠かせないマザーツールである。自動車や航空機、家電製品など、あらゆる工業製品の量産に用いられ、金型の精度が製品精度に直結する。

 近年、主な需要先である自動車産業や自動車部品産業は、為替リスクや政治リスクの回避のため現地生産・販売を目指す。顧客の海外生産拠点での現地金型調達が加速すれば、国内の金型需要の減少が進む恐れがある。

 国内の金型業界は従業員数20人以下の中小・零細企業が約8割を占める。2019年の市場規模は約1兆5000億円。その金型産業に設備や材料を供給するのが、鋼材、工作機械、機械工具、熱処理、CAD/CAMなどの産業だ。関連する業界は幅広く、日本の製造業にとって金型産業は重要な産業である。

 日本金型工業会は10月、6年ぶりに産業ビジョンを改訂した。先行きが不透明な時代にある今、日本の金型産業が目指すべき方向性を示す。発注スペック通りの金型を作る「工場」から、顧客の求める新たな価値を提供し、自ら利益を求める「企業」への転換を促している。

 その手段として、同業だけでなく、異業種や川上・川下企業との連携、地域連携などを提示する。また、課題解決のため、IoT(モノのインターネット)の活用、デジタル化や自動化の必要性にも言及している。

金型メーカー、海外展開

昨年9月にスペインで開かれたICFG総会で開会の挨拶をするヤマナカゴーキンの山中社長

昨年9月にスペインで開かれたICFG総会で開会の挨拶をするヤマナカゴーキンの山中社長

アジアで製造、欧と交流

 拡大する海外需要を取り込むことも、企業を成長させるための有効な方策だ。

 鍛造金型の設計や製作などを手がけるヤマナカゴーキン(大阪府東大阪市)は、1994年にシンガポールで製造会社を設立して以降、海外展開を進めている。現在は中国やタイに鍛造部品などの製造会社を持ち、売上高全体に対する海外比率は3割強を占める。

 一方、最先端の技術は欧米から取り入れている。山中雅仁社長が20年以上活動に参加している国際冷間鍛造グループ(ICFG)は、冷間鍛造の最先端技術の共有と世界への発信を目的に67年に設立された。現在、約30の国々から大学教授や企業研究者が参画。山中社長は15年から4年間、アジア人初の会長も務めた。

 ICFGでの技術交流がきっかけで、16年に独コンセンサスと契約。同社が開発したボルト内部に圧電素子が埋め込まれたセンサーのアジア地区における販売と日本国内での製造が可能となった。9月から東京工場(千葉県佐倉市)で生産を始めている。

 19年にはデンマークのレリボンドが開発した、電線ケーブルの端面自動処理装置を日本国内で販売。同社は洋上風力発電向けに同装置の改良・開発も進めているという。再生エネルギー関連の設備に鍛造技術が応用できる可能性を見据えつつ、ネットワークを広げられることなどからレリボンドに少額出資もしている。今後は「(ソリューション提供などの)ソフト面と金型のかけ算で勝負していく」(山中社長)と、付加価値を高めたビジネスモデルを描く。

狭山金型製作所は微細金型やプラスチック成形品を製造する

狭山金型製作所は微細金型やプラスチック成形品を製造する

成形品を売り 技術守る

 狭山金型製作所(埼玉県入間市)は、超精密微細金型の設計・製造からプラスチック部品の成形まで手がける。同社は価格競争を避けるため、価値に見合った価格で購入してくれる国や企業とのみ取引する。大場治社長は「国内総生産(GDP)が高い国を対象にしている」という。

 12年、シンガポールの成形メーカー「サンワグループ」と現地に合弁会社を設立した。サンワグループの生産拠点で、日本から輸出した超精密金型を使って成形する。サンワグループの主な顧客は欧米の自動車部品企業、日系の事務機・コネクターの企業など。同社の販路を活用して海外市場を取り込む。すでに生産拠点を持つ海外企業と提携することで、拠点設立のための初期費用と販路開拓の手間を省ける。

 現地の成形メーカーと組むことは、日本の金型技術を守ることにもつながる。大場社長は「海外の拠点で成形し、金型ではなく成形品を売れば、金型技術の流出が防げる」という。さらに、「シンガポールから成形品を欧米に輸出している」(大場社長)という。

 狭山金型製作所の海外比率は1―2割。現在、スイスの企業とも業務提携に向けコンタクトをとっているという。大場社長は「国内の仕事を維持しつつ、海外からの受注を積み上げ、海外比率を5割にしたい」と話す。

(日刊工業新聞 2020年11月25日付 19面)

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