12月19日、横浜・山下ふ頭に「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」がオープンする。高さ18mの実物大ガンダムを実際に動かすプロジェクト「ガンダムGLOBAL CHALLENGE(GGC)」によって建造が進められてきた。同施設は“動くガンダム”を格納・メンテナンスするデッキ「GUNDAM―DOCK」と動く仕組みを学べる展示施設などが入った「GUNDAM―LAB」で構成される。2019年、TVアニメ「機動戦士ガンダム」放映の40周年をきっかけに、今回のプロジェクトがスタートし、いよいよ世界中のガンダムファンが夢に描いた動くガンダムが大地に立つ。開催期間は2022年3月31日までとなっている。
“動くガンダム”に携わる多くのスタッフをけん引してきたのが、石井啓範テクニカルディレクター、川原正毅クリエイティブディレクター、吉崎航システムディレクターの3人。石井ディレクターはGGCのために大手企業を退社し専念。川原ディレクターはお台場に設置された実物大ガンダム立像の外装デザイン・演出を手がけた実績を持つ。また、吉崎ディレクターはGGCに参画する前からロボットの制御プログラムを独自に作成し、ガンダムへの応用を模索するなど、筋金入りのガンダムファンばかり。“動くガンダム”はそれぞれが、これまでの半生で培ってきた得意分野の経験と知見を余すことなく注ぎ込み完成させた。3人のガンダムに寄せる思いを聞いた。
―ガンダムとの出会いはいつ頃でしたか。
石井D「鳥取県の出身なのですが、最初のガンダムのテレビ放送は鳥取では放映されていませんでした。ファーストコンタクトは小学生の時のガンプラブームです。でもなかなか手に入らなかった」
川原D「富野由悠季監督作品の以前よりのファンで、日本サンライズ(現サンライズ)制作の『無敵超人ザンボット3』『無敵鋼人ダイターン3』に続く新作として、リアルタイムで、初回放送を見ました。その時は中学生、まさにアムロ達と同じ世代でした。したがって、作品のSF感、大人っぽさに衝撃を受けました。まさに“黄金の感性”と言われる年代に、直撃を受けてしまった訳です」
吉崎D「ディレクター3人の中では、私が一番下の世代になりますので、アニメは『機動戦士Vガンダム』や『機動武闘伝Gガンダム』からです。小学生低学年だったと思いますが当時、重たい話が多かったVガンダム最終回の後、Gガンダムの激しいノリへ変化したことに驚いていました」
―みなさん、出会いは子ども時代ということですが、今でも持ち続けているガンダムへの情熱の原点は?
石井D「ガンプラブームの時に、モビルスーツのカッコよさにしびれました。その体験が原点となり、いつか搭乗型ロボットを作りたいと思うようになり、エンジニアへの道を志し、今回のプロジェクトにつながっています」
川原D「少年の頃からのSFファンでしたので、その日本のSFアニメシーンのシンボルであるガンダムにリアル空間で携わり続ける責任とプライドとプレッシャー、皆様の期待感です」
吉崎D「アニメとの出会いは前述の通り小学生の頃なのですが、実はガンプラにはまったのはそのずっと以前でした。1/60スケールやSDガンダムなんかのプラモデルを作っていた覚えがあります。当時から段ボール細工でロボットをつくっていました。また、中学の自由研究は“巨大ロボットを動かす”ことをテーマとしたものでしたし、その後も高専や大学でロボットを作るための研究を続けてきましたので、興味の方向性は変わっていないかもしれません」
―“動くガンダム”の設計にフレーム構造を採用していますが、このことによる設計の難しさや、一番工夫を凝らした部分はどこですか。
石井D「そもそも、ガンダムの意匠がロボットとしての構造を踏まえてデザインされたものではありません。ですから、モノコックで設計することは非常に困難ですし、理にかなっていないものと考えます。一方、今回のガンダムの内部フレームは、力の流れを考慮して設計を進めているので、機能的に美しい形状になったと感じています。外装が付くとほとんど見えないのですが。一番困難だったのは、外装とフレームの整合性を持たせることでした。デザインを生かしたまま、可動を実現するためにフレームとデザインの両側面から解決策を探して、工夫を凝らしました。この部分では、川原さんとたくさん議論しました」
―議論が白熱する場面などもあったのでは?
石井D「課題解決のためにディレクター陣を筆頭に開発担当者の皆で知恵を出し合って、ひとつひとつ壁を乗り越えてきた感じです」
川原D「3人の役割が明確になっていましたし、石井さん、吉崎さんが、トップスキルのエンジニアであることから、意見がぶつかった記憶はありません。常に動くガンダムを良いモノにするため、デザインと可動部の調整も、お2人には前向きに検討していただきました。それに、我々デザインサイドも、出来るだけ対応させていただいてました。やり取りはかなりの回数になりましたね」
吉崎D「強いて言えば、関節数の考え方でしょうか。私はメカの重量や故障を心配して、関節数を今より少なくしようと模索していました。一方で、石井さんは動きの自由度を落とさないよう、関節を増やす方向で提案されていました。今にして思うと立場が逆ですが。だからこそ客観的に検討できたのかもしれません。もちろん、いざ関節数が決まっても外装にかっこよく収められなければNGです。そこで川原さんから、むしろ演出のための追加関節アイデアをいただきました。ぶつかり合いというより、緻密なすり合わせですね。最終的には指を含めて約30の関節を入れることができました。今回のガンダムの動きを実現する上で最も重要な検討でした」
―最終的に約30の関節を入れられたということですが、設計段階でガンダムにどのような動きをさせるか決まっていたのですか。
吉崎D「決めていました。もちろん、すべてではないですが、やりたい動きは設計が開始されるよりも前の段階で決めていました。一方で、現場で動きを見ながら増やしたものもあります。なお、私がサンライズさんから1番最初にうかがった動きのコンセプトは『上下の動き』でした。今、公開されている動きや、オープン時に公開される動き以外にも、たくさん隠し玉を用意しているので、楽しみにしていてください」
―“動くガンダム”では腕や脚の可動でデザイン的に苦労した事は。
川原D「腕については、動かすために軽量化する必要があり、細かなシェイプアップを行なっています。また、肩の付け根、肘などにモーターと減速機が入るため、それぞれにホイール状のカバーパーツをデザインして、取り付けています。また、手首も軽量化のために、お台場の初代のガンダム立像より一回り小型化しています」
「脚も軽量化に苦労していて、メカスペックに対して、かなりギリギリの重量で収めています。また、股関節・膝上、膝下・足首の長さが同じでないと、大きなポーズが取れないという条件を満たしながら“カッコいいデザインにする”事が一番苦労したポイントです」
―ガンダムの外装で一番気に入っているところは
川原D「ガンダムの頭部、そして横顔です。今回は『GUNDAM―DOCK TOWER』を使って、頭部の真横まで上がる事ができます。富野監督のアイデアで、ヒサシを伸ばし、結果的に非常にシャープな印象になりました。後の「νガンダム」のデザインにもつながるようにイメージしています。このほか、背中のランドセルも軽量化のために小型化する必要がありましたが、見た目のボリュームが小さくなり過ぎないように、バーニアの数を4発にして発光させています。斜め後ろからのアングルも是非見て欲しいですね。また、脚を踏み出すモーションでは、足首裏が見える瞬間があります。足首も軽量化のため小型化され、今回用に新しくデザインされています。そちらもお見逃しなく」
―今後、ガンダムを進化させるのに「あったらいいな」と思う機械要素部品はありますか。
石井D「減速機やモーターなど1軸ずつ配置しているため、動くガンダムの約30という自由度数はかなり限界に近い値と考えています。プラモデルでよく使用されているボールジョイントのように複数軸を1関節で実現でき、大トルクが発生可能な機械要素があれば、設計の幅が広がると思います」
―将来、自立歩行するにはどういった制御技術の確立が必要でしょうか。
吉崎D「難しいのは主にハードでしょう。素材強度、電力供給、重量、振動、課題はたくさんあります。一方で制御、特に動きの生成という観点から見れば、今の技術でも歩くことは可能です。制御周期が遅くても良いので、等身大より難度が低い一面すらあります。しかしながら、実際に作るとなると、頭の痛い問題がたくさんあります。例えば、43tの重量が足裏に集中することによって地盤沈下した際の姿勢制御や、転倒時の“巨大ロボットとして正しい”受け身と起き上がり方、雷が落ちたときのアースの取り方など、考えるだけでわくわくしますね」
11月20日の日本国際工作機械見本市(JIMTOF)のJIMTOF2020 Onlineでのオンラインセミナーで、石井Dは「高さ18mという大きさのモノが動くことを示すことができた」と成果を語った。終盤の回答にあるように、大きなモノを動かすには課題山積だが、夢を実現しようとするエンジニア達が楽しみ、悪戦苦闘する姿が日本をけん引していく力になるのは間違いないだろう。
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