【特集】11月25日は金型の日(3)モノづくり支える熟練の技 シニア金型マスター

 2017年、日本金型工業会は金型製作に優れる技術者を認定する「金型マスター認定制度」を開始し、同年に第一期生を認定した。19年には第二期生が誕生し、第一期生71人のうち19人がシニア金型マスターに認定されている。シニア金型マスターは金型技術者として優れているだけでなく、「金型産業の発展」というより広い視野・意識を持って活動する人物だ。ここでは、金型産業を支える3人のシニア金型マスターを紹介する。

1級技能士の資格六つ

エムエス製作所 深見克彦さん

 エムエス製作所の開発技術支援部深見克彦技術長が、シニア金型マスターへの道を歩むきっかけとなったのが「君は暴走族だ。運転がうまくてもライセンスを持ってないから世間は認めてくれない」という同社の迫田幸博会長のひと言だった。

 深見技術長はそれまで、プラスチック金型メーカーや治工具メーカーなどで部品加工の技術・技能を磨いてきた。社内でも一目置かれる存在だったが、会長の言葉で、眠っていた向学心に火が付いた。

 国家認定制度である技能検定1級の合格を目指し、帰宅後は試験問題にこつこつと取り組んだ。試験3カ月前になると脇目も振らず、勉強に打ち込んだという。その結果、現在では「金型製作」「仕上げ」「機械加工」など3職種で合計六つも1級技能士の資格を持つ。

 名実ともに認められ、17年に日本金型工業会から金型マスターの認定を受けた。さらに、特級金型製作技能士までも取得している。

 同社の主力事業はゴム金型の設計・製作。自動車の窓周りに設置されるウエザーストリップを成形するゴム金型では、国内有数企業だ。金属プレートを加工したベース部品のほか、大小さまざまな部品を50個以上組み合わせて金型に仕上げる。

 近年は、金型製作で蓄積してきた高精度部品加工技術を活用した製品作りにも力を入れている。5軸マシニングセンター(MC)の削り出しで製作した高級アイアンヘッドやダンベル、ジョッキーの足元を支えるアブミなどを商品化。これらの企画・開発にも深見技術長の技術が生かされている。

企業メモ
▽事業内容=ゴム金型の設計・製作
▽所 在 地=愛知県清須市
▽社 長=迫田邦裕氏
▽電話番号=052・409・5333
▽資 本 金=3811万円
▽従業員数=42人
▽設立年月=1972年3月

素直に解決方法を模索

ヤマナカゴーキン 山根理利さん

 ヤマナカゴーキンの製造本部製造部山根理利課長は、東京工場(千葉県佐倉市)で長年精密鍛造金型の製造を手がけている。同工場で製造する金型の90%は自動車用で、車の安全性と性能に直結するミッションギアや足回り部分の部品だ。そのため品質に対する要求基準は高い。

 挑戦に失敗はつきもの。山根さんは失敗した際、現実を素直に受け入れ、解決方法を模索した。金型に携わってきた25年間「とにかく手抜きをせずに一生懸命に仕事に取り組んできた」ことを誇る。

 現在は現場で身に付けた金型を作り込む工程や加工方法の開発などを生かし、工場管理全般を担当している。技能のDNAを継承するため、人材育成に力を入れており「いかに分かりやすく、どのようにしたら理解してもらえるかを常に考えている」という。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、一時、生産活動は停滞したが、山根さんにとって生産停滞は「チャンスだった」と振り返る。時間が捻出でき、「教えられなかったことを教える時間ができた」ためだ。

 日本のお家芸である高精度なモノづくりを支えるのが金型だが、山根さんは「金型は一般的にメジャーな存在ではない」と残念がる。だが「金型があるからこそ、いろいろなものが社会でつくられている」と強調した上で、今後は人材育成とともに、シニア金型マスターとして「金型の魅力を伝えていきたい」と言葉に力を込める。

企業メモ
▽事業内容=精密鍛造金型と鍛造部品の製造
▽所 在 地=大阪府東大阪市
▽社 長=山中雅仁氏
▽電話番号=072・962・0676
▽資 本 金=8500万円
▽従業員数=500人(グループ全体)
▽設立年月=1966年7月

米での経験、成長後押し

ナガラ 武原謙二さん

 武原謙二副社長はプレス金型大手のナガラを経営面、技術面の両面でけん引する。学生時代は語学や音楽に打ち込み、金型とは縁のない環境で過ごした。

 今では、金型マスターだが「どちらかと言うと、手先は不器用だった」(武原副社長)と振り返る。入社当時はモデル倣い加工が主流。機械加工された金型をサンダーで削り、磨き作業を繰り返す。仕上がりを自慢したい一心で「時間も忘れて取り組み、趣味同然になっていた」(同)という。現場には、創業当時から会社の成長を支えてきた技術者が多数在籍しており、腕を磨く環境が整っていた。

 武原副社長がマネジメントにも関わるようになったのは、同社で品質管理(QC)活動が本格化した頃から。先輩技術者たちは管理職に登用されており、デスクワークに四苦八苦する姿を見て「手助けできるのは自分しかいない」と奮起。表計算ソフトの使い方を習得して、QC関連書類を仕上げていった。

 同社が日系自動車メーカーの米国工場へ金型納入を開始した1996年、現地へ技術担当者として派遣された。念願の海外で初めて、他社が納入した金型を見ることができ、自動車メーカーの金型技術者とも技術交流できた。こうした経験が、さらに成長を後押ししたという。

 社員教育は「やってみせる」が武原副社長の信条だ。初めて受注した金型や難しいケースでは自らが率先して取り組む。ある程度の道筋がついたら部下に引き継ぐ。「一度、自分でやってみないと部下の苦労も分からない。そこからは新たなアレンジをしてほしい」(武原副社長)と期待を寄せる。

企業メモ
▽事業内容=プレス金型製造
▽所 在 地=名古屋市
▽社 長=早瀬隆士氏
▽電話番号=052・362・6066
▽資 本 金=2億円
▽従業員数=120人
▽設立年月=1979年10月

(日刊工業新聞 2020年11月25日付 21面)

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