【特集】11月25日は金型の日(2)金型加工のプロセスモニタリング技術

 ドイツのインダストリー4・0や経済産業省のコネクテッド・インダストリーズなどの戦略が発表され、コンセプトである「産業の変革と生産性向上」の必要性が広く認識されつつある。そのコンセプトの前提となるプロセスモニタリング技術に、注目が集まっている。ここでは、金型加工および成形分野でのプロセスモニタリングの現状と、今後の展望について述べる。

東京大学

生産技術研究所 准教授
土屋 健介

プロセスモニタリング技術が注目される背景

プロセスモニタリング活用の5段階

プロセスモニタリング活用の5段階

 製造現場において、生産ラインの各所にセンサーを設置し、取得データに応じてパラメーターを制御することは以前から盛んに行われてきた。これが近年注目されるようになったのは、ネットワークの通信速度、コンピューターの処理能力、データの蓄積容量が爆発的に増大したことで、センシングデータのさまざまな利用が技術的に可能になってきたためである。同時に、能力向上の分だけコストも下がり、費用対効果の面でも現実的なレベルで利用可能になったことも大きい。

 プロセスモニタリング技術の活用方法は、大きく分けると表の五つの段階に分類できる。

 近年の情報通信技術(ICT)の発達で、現場適用効果がもっとも期待されているのは、(4)予知保全と(5)新たな知識や付加価値である。従来は熟練技術者の知識と経験と勘に依存して認識、判断していたが、それを可視化・数値化し、解析アルゴリズムに置き換えたのがプロセスモニタリング技術である。

 ICTが飛躍的に向上したことで、特定の領域では人の能力をはるかに越える効果をもたらすのが現状であり、そういう観点では、プロセスモニタリング技術は経験知の数値化・可視化であるという言い方もできる。

金型加工におけるニーズ

 金型加工におけるプロセスモニタリングのニーズは、主に加工不良の抑制と、そのための工具の劣化診断である。近年の研究動向を見ると、動力計、加速度センサー、アコースティック・エミッション(AE)センサー、工具表面の温度センサーなどを用いて、切削抵抗や切削点の温度を計測したり、びびり振動や構成刃先の生成を検出したりして、切削条件の最適化や工具摩耗の早期検出が行われている。表中の(3)フィードバック制御、(4)劣化診断、不良の未然防止に該当する。

 今後もこれらのニーズは変わらないと考えられるが、単に工具寿命を判定するだけにとどまらず、工具劣化の進行に応じて加工条件や工具経路をリアルタイムに修正するようなデータ活用が期待される。

成形加工の技術動向

 成形加工においては、金型内部が観察しづらいため、各種センサーを用いたモニタリングで現象を理解してきた。センシングするパラメーターは、温度と力・圧力、型の位置などが一般的であるが、射出成形分野では離型時の抵抗に着目した事例、塑性加工分野では音響やサーボ情報をモニタリングする事例もある。

 また、同一形状の成形品を大量生産するため、ほとんど同一のセンシングデータが大量に取得できる。そのビッグデータを解析することで、表中の(4)予知保全や(5)成形品の良否判別、不良要因の分析などに利用されている。機械学習によってデータの特徴を抽出し、それをモデル化して未知のデータを予測したり判別したりするほか、多変量解析によって過去のデータとの類似性を数値化する例もある。

現在の課題と今後の展望

今後のプロセスモニタリングの構成

今後のプロセスモニタリングの構成

 今後プロセスモニタリングの実用範囲を広げるには、各種センサーの性能向上と情報の高速処理技術が不可欠である。センサーの中でも、特に画像処理技術の向上が著しく、今後は画像の利用が増えると考えられる。

 また、情報処理技術の中でも、ネットワークを介したクラウド化、コンピューター利用解析(CAE)と連携したデジタルツインやAI(人工知能)技術の利用がより一層進むと考えられる(図)。例えば、プロセスモニタリングにおいて必ず問題になるのは「どの位置・タイミングで、何のパラメーターをモニタリングすればよいのか」ということで、一般化が難しいため個別事例における最適解がそれぞれノウハウとされていたが、種々のデータをまとめてAIで解析することで支配的なパラメーター群を特定することはある程度可能である。

 その一方で、人間の役割の重要性は変わらない。相関関係から因果関係を見いだしたり、プロセスを改善したりするのは人間にしかできない。我々技術者は、得られたデータから物理現象のモデルを構築し、仮説立証の繰り返しによって現象を正しく理解することが重要であろう。

(日刊工業新聞 2020年11月25日付 20面)

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