今年はコロナ禍のため、米・シカゴのIMTS2020に続き、JIMTOF2020の開催が中止になってしまった。ただ、オンラインで開催されたことは、長年にわたり、3大国際工作機械見本市を視察している筆者にとっては、うれしい限りである。見学者、出展社にとっても、JIMTOF始まって以来初めての経験で、お互いに慣れておらず、どこまで正確に技術動向を把握できるか疑問ではあったが、各社のウェブブースから見られた技術動向と今後について述べさせていただく。
工作機械の最も重要なユーザーニーズは、高精度・高能率加工の実現である。この両者を同時に実現することは、一般的には困難であるが、これを同時に実現することが工作機械メーカーの強力な差別化技術として重要になるとの認識が、あらためて高まっているように感じた。
この実現のために、機上測定機能とそれに基づく補正加工、追加工機能搭載の工作機械が多く出展された。測定法としては、タッチプローブ方式、倣い操作式、画像式と各種の方式が採用されている。これらの方式により、工作物形状を測定し、その修正・追加工を行う。また、芝浦機械をはじめ幾つかのメーカーでは、工具形状を測定して、それに基づき、加工を行う工具輪郭補正機能を搭載して出展していた。
ここで重要なのは、これらの補正技術は工作機械自身が高精度・高品位であることが前提であり、工作機械の運動精度がより高く安定していることが必要だ。
また、主軸の熱変位補正機能については、これまでオプションとして搭載されることが多かったが、数値制御(NC)装置に人工知能(AI)機能を搭載し、より正確に補正が可能になったことから、ヤマザキマザック、ツガミなど、標準搭載するメーカーが増えた。これらの熱変位補正法は、関連要素の温度測定値から熱変位を予測して補正をしているが、時間遅れ、環境温度変化などの影響を受けやすい。このような欠点を補うべく、AIを活用して補正精度を高めようとしているわけだ。
これらの課題を解決するため、直接的に関連構造要素の熱変位を測定して補正するNC旋盤が、村田機械、滝澤鉄工所などから出展された。このような直接測定は、過去にも事例があるが、より適切な測定基準が設定できれば、より確実な方法として有効と思われる。
一方、工作機械設計の基本に立ち返り、高精度・高品位化を実現した図1に示すようなテーブル旋回形の5軸マシニングセンタ(MC)が出展された。図1(b)のようにテーブルの旋回軸を45度傾斜とし、旋回時の重心移動を最小化することにより、運動特性を高めている。
また、ソディックでは、ワイヤ放電加工機のワイヤの運動と加工精度の関係を見極め、ワイヤに回転運動を与えることにより、加工精度を高めた素晴らしい放電加工機を出展した。
このほか、加工技術により高精度・高能率化を図った放電加工機、歯切り盤、レーザ加工機などが多数出展された。
これまで目標とされてきた、人を不要とする「省人・省力・無人化」という目標は、持続可能な高度なものづくりの観点からは好ましいとは言えない。ここでは、「スマートファクトリ化」を新たな目標として考えてみたい。
これを実現するための技術として、本展示会では(1)製造現場の各種作業の高度自動化(2)製造現場の「見える化」(3)製造現場における「つなぐ化」の強化など―が進められているように感じた。
製造現場では、加工用のプログラムの作成、必要工具の準備・管理、必要な工作物のパレットへの取り付け、マガジンへの搬入・搬出など、多くの作業が必要で、それらの高度自動化に向けて多くの取り組みがなされていた。例えば、牧野フライス製作所のように、プログラミングに当たっての工程設計の支援ソフトウエアも、工作機械メーカーが独自に自社機用に提供するようになってきた。
加工に必要となる工具や工作物の準備のための支援ソフトウエアも充実してきており、Zollerなどの工具プリセッタメーカーや工具メーカーがその管理システムをハードウエアとともに提供している。工作物については、工作機械メーカーが独自で自社機用にパレットストッカ、ストレージを準備し、その管理システムを供給するようになってきた。
研削加工では、切削加工よりも多くの段取り作業が必要であり、平面、円筒、心なしなどの各種研削盤での多くの段取り作業の自動化が進められた。
加工中に作業者が行う各種作業も自動化が進み、特にロボットの活用が進んでいる。工作物の着脱作業に加えて、非常に多くの作業が行えるようになってきた。オークマのアームロイドロボットは、切りくず除去、びびり抑制、機内洗浄まで行い、作業者を支援する。
このほか、DMG森精機は切りくずの堆積状況をカメラで撮影し、AIでその状況を判断し、的確な洗浄を行う技術を展示した。また、各種メンテナンス作業の負荷を軽減するための技術展示も多く見られた。
これまでと同様、「見える化」技術も、工場の稼働状況、工作機械をはじめとした工場設備、機械要素、加工プロセス、ツーリング・周辺装置において進んだ。
一方、今回、非常に多くの取り組みが見られたのは、工作機械同士、人間と工作機械と周辺装置を繋(つな)ぐ技術だ。ソフト的に繋ぐ技術は、IoT(モノのインターネット)を活用した各社それぞれのソリューションの提供により対応可能になってきた。これに加えて、機械的に繋ぐ「つなぐ化」技術が重要になってきた感がある。
今回は特に工作機械をコンパクトなモジュールとして、それらを柔軟に繋いで必要なラインを構成することができるモジュール形工作機械の展示が多くなされた。図2はその一例で、光洋機械工業からの出展機である。立形の研削盤であるが、これをモジュール機として、平面、内面、外面、端面、溝などの各種研削加工を行うラインを構成し、ライン中の工作物搬送はロボットが行っている。このほか、工作機械と周辺装置を繋ぐ技術についても、各社独自のシステムが多く出展された。
インダストリー4・0は、個の量産を目指しているが、まだ、そのニーズは限られており、多品種少量生産をより高効率に実現するための技術開発が行われているようだ。
その一つとして、旋盤ベースの5軸複合加工機をMCベースとして、主軸ユニットをクレードルに搭載した複合加工機がブラザー工業などから出展された。このような形態は、旋盤構造をベースに考えられてきたが、MCベースであることがユニークと言える。
BUFFOLI(エスアンドエフ)のトランスファマシンは、個の量産に対応可能としている。欧州には、多くのロータリトランスファマシンメーカーが存在している。各ステーションに5軸のモジュールを組み込むことにより、複数の異種工作物を混流できるとしており、今後の進展が期待される。今後、多品種・少量生産へのニーズは高まると思われ、個の量産に対応可能な工作機械構造形態の検討が必要と言える。この中で、従来から個の量産への対応を掲げるシチズンマシナリーから、図3のような4基のモジュールで構成されたマルチステーションマシニングセルが出展された。三つのパターンで工作物を流すことができ、多品種極少量生産に適応可能と考えられる。
以上、JIMTOF2020 Onlineに出展された工作機械を中心に見学し、感じ取れた技術動向について述べた。紙面の都合上、全てを記述できなかったが、多くの興味深い技術出展があった。初めてのオンライン展示ということで、慣れていないこともあり、今年の出展の狙いなどが明確にアピールされていない企業も多く、各社の展示ポイントが把握困難な状態であった。
また、会場全体を見渡しての雰囲気の把握はできず、1社ずつウェブブースを見ていく必要があり、歩き回るより、目の疲れ、頭の疲れも大きかった。このような状況下での見学であるが、技術動向とその所感をまとめさせていただいた。何かご参考になることがあれば、幸いである。
(日刊工業新聞 2020年12月7日付 17面~23面)
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