マシニングセンター(MC)は多種多様な加工法を取り込み続ける製造業全般の「ビジネス・エコシステム」の要である。世界の製造業基盤は日本の工作機械が支えているため、需要動向に大きな影響を受けるが、今後は地域・用途とも今までと異なる回復が予想される。日本の工作機械・数値制御(NC)装置ともにイノベーションを促進するエコシステムを形成し、世界中の最終製品と共進してきた。これらの強みを生かした新需要を取り込む対応がますます重要となろう。
日本工作機械工業会(日工会)によると、2019年の日本のNC工作機械生産は前年比11%減の約1兆1676億円、うちMCは同14%減の約4524億円となった。NC工作機械全体のうちMCの構成比は1%ポイント低下の約39%となった(図1)。MCの構成比は経済停滞期には低下する傾向があるが、今後の経済回復に伴い緩やかな上昇基調に戻ると考えられる。
すう勢的に専用機によるエンジン部品や歯切りの加工などがMC加工へ切り替わる傾向がある。つまり、一般的なクローズド・イノベーションとは対照的に、MCはオープン・イノベーションを体現し、外部の技術や知見を取り込み、最終的に集約していく機械である。
MCは現在も多種多様な加工法を取り込み続けており、世界の製造業全般の「ビジネス・エコシステム」の要である。なお、エコシステムとは生態学の概念であり、協働と競争を通じて、相互に作用を及ぼす主体の存続に大きな影響を与える生態系全体を指すものである。
日工会調べによる受注金額は今年5月、前年比53%減の512億円を底に6月は672億円、7月は698億円と回復基調にある。外需が約3分の2を占めており、6月は中国向けが同34%増の155億円で自動車向けなどに回復の兆しがある。
中国は09年以降に世界最大の工作機械消費国となり、19年の消費額は全世界の約27%の約223億ドルである(図2)。中国は消費額の約3分の1を輸入しているが、そのうち日本製が約36%(18年)を占めている。一方で米国は消費額約97億ドルの約3分の2を輸入しているが、同様に日本製が約32%を占めている。このように米中の生産基盤を日本の工作機械エコシステムが支える一方で、世界需要に直結する構造が出来上がっている。
今まで日本の工作機械は自動車産業との関連性が高く、自動車生産台数が1981年に世界一になって以降、工作機械生産でも82年から2008年までの27年間、世界一を維持してきた。自動車生産は過去に設置された工作機械で行われるため、工作機械のストック量に依存すると推測される。
過去20年間の工作機械消費金額合計(ストック)と19年の自動車生産台数(フロー)の世界における構成比を比較すると、中国は工作機械が約30%に対して自動車生産は約28%でおおむね均衡している(表1)。中国の工作機械の消費構成比が11年の40%強をピークに低下を続け、自動車生産が拡大した19年に約27%まで低下したこともこの見方で説明できる。
足元で中国市場は底打ちし、引き続き世界最大の市場であることに変わりないが、現在はスマートフォンの筐体(きょうたい)加工用の大量発注もピークを越えており、過度な依存にはリスクが残る。
一方で、米国や日本では過小投資が続いたため、ストック蓄積が少なく、実際に日本では20年以上経過したMCが全体の約3割を占めている。製造業のエコシステムでは、工程集約や部品の複合化進展に加え、自動車産業の大変革や医療の多様化により、多種多様な地域・分野の需要を取り込むことがより重要となっている。
MCを手がける日本の上場企業12社の機械部門の19年度売り上げは、前年度比17%減の1兆3534億円(工作機械以外の機械の売り上げを含む)、同営業利益は同44%減の967億円で、20年度も厳しい状況にある。ただし、過去の不況局面と比較しても収益構造は改善されており、売り上げが戻れば収益も回復する可能性が高く、今後の需要開拓が鍵を握っている。
工作機械は世界中に広がる工場で稼働する上、顧客の企業秘密にも関連し、世界の需要動向が見えにくい。そこで、日米中欧の直近2年間の四大工作機械見本市で展示された、3100台超の工作機械を目視で国籍・搭載NC装置別の集計を行い、全体像を把握した(表2)。これらは実際のシェアと完全一致する訳ではないが、上位企業による展示会シェアの検証でも高い相関が見られる。
機械企業の国籍別の出展台数シェアを見ると、日本企業は四大展示会の合計で31%と首位であるだけでなく、展示地域別の台数シェアは日本(JIMTOF)86%と米国(IMTS)33%が1位、欧州(EMO)18%と中国(CIMT)13%は開催国に続く2位と全地域で高い存在感を持っている。加えて、内製も含む日系NC装置が世界中の機械企業に採用されて世界の半分強の機械に組み込まれており、NC装置などを外部調達する機械企業も自社の強みの技術に特化した機械を作ることが可能となっている。
工作機械は製造業の技術的知識の運搬態であり、「母性原理」で工作機械の精度によって制限される最終製品と共進関係を持つ。製造業では絶え間ないイノベーションから新しい加工ニーズが生まれ、工作機械はカスタムメードで対応した技術を汎用化してきた。
さらに、それらが組み合わされ知識が体化された機械が投資されることで世界中で多種多様な生産量や価格、精度への対応が可能となった。製造業のエコシステムは、個別の顧客ニーズを取り込んだ機械とNC装置を内製化するなど高機能化を進める機械の両方が、協働と競争を続けることで維持されている。
今後は需要や地域の変化により、最終商品の多様性が高まる可能性があるが、過去20年、日本の機械エコシステムにはNC機械企業だけで80社程度が存続しており、幅広い地域からの多様なニーズを結びつけることができる。世界中で採用された日系NC装置にも多様な要求内容が体化されており、日本の工作機械には製造ノウハウが結集されている。
高度なイノベーションには新たな技術導入やさまざまなアイデアの結びつけが必要であり、企業単独だけでなく、多くのプレーヤーが強みを持ち寄ることが不可欠である。だからこそ工作機械各社は自社の強みを明確にし、新しい需要を実現できるアイデアを提示することが何より望まれている。
(日刊工業新聞 2020年8月26日付 18面~19面)
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